カオスの遺子

浜口耕平

文字の大きさ
上 下
77 / 111
第二部 自由国ダグラス

第七十七話 派遣先での初任務

しおりを挟む
  引っ越しの翌日、ついにロード達に仕事が与えられた。
 ギャバンが前に出て整列しているロード達に任務の内容を話し始めた。
 「えー今日は久々の任務だ。まあ、この前やって来たお前らは初めてだろうがな」
 「今日の任務は東のエオニア平原にいる魔物の駆除だ。最近、アホどもの抗議のせいで軍機能が停止したことによって、魔物が溢れているらしい…… めんどくせぇ、ケツはアホどもに拭かせろよ」
 ギャバンは数日間の抗議の影響で活動が自粛されたことに怒りを感じて口にまで愚痴がこぼれていた。
 「しゃーねえだろ、ちゃんと教育しとけよな。この国はアホが多くて敵わんわ」
 「安心してアレス、アナタより馬鹿な人なんてそうそういないわ」
 「なんだとゴラ?」
 「ほんとの事じゃない。あんまり神経とがらせないでよ」
 「はいはい悪かったよ」
 アレスがすぐに謝ったので、メリナは目を見開いて彼のことを見た。
 「何だよその目?」
 「いや、別に…… ただ、あまりにもあっさり引き下がったから……」
 「もっとねちっこくして欲しかったか?」
 「いいえ」
 メリナは顔を横に振って、これ以上話されないように黙った。
 そんな中、ロードが口を開いた。
 「みんなはここにいていいよ! 僕が兄さんと一緒に全部片づけてくるから!」
 「何言ってるんだお前? 一人で片付く数じゃないぞ」
 「そうかロードがいるんだった。じゃあここで解散するか」
 「そうね、ロードがいるんだもの」
 ギャバン一人だけロードが行ってる意味が分からなくて困惑していたが、平等の力を知っている他のみんなは用なしだと分かって自室へと帰っていった。
 「安心しろギャバン、コイツにはカオスの遺子の力があるんだ。一撃で全滅させられる」
 「へえ~カオスの遺子ね~、俺ももう一回あってみたいよ」
 「クク…… 分かってるくせに、それじゃあ行ってくる」
 そうして、ロードとリードの二人はエオニア平原へと向かった。
 
 町の外に出た二人は、東の方角に向けて歩き出そうとした時リードが、「おいロード、ここで新たに手に入った神眼の能力を使うんだ」と言った。
 「神眼の力を…… う~ん!! でろっ!!」
 ロードは頭に力を入れて神眼を額に出させようと気合を入れていると、掛け声と共に黄色に輝く神眼が現れた。
 「出た出たっ!」
 「よし! じゃあ、そのままエオニア平原への道筋を神眼で見るんだ」
 再びロードは頭に力を入れて見ようとしたが、何も映らなかった。
 「あれ? なんにも映らないや」
 「バカやり方が違うんだ、もっと心を落ち着かせて目を閉じろ、そしたら神眼のコツが分かるはずだ」
 「うん分かった」
 言われた通りロードは目を閉じて心を落ち着かせた。
 (平静に保たないと。……あれ、何か見えてきたような)
 目を閉じて心の中でそう念じていると、次の瞬間、アレスとギャバンが部屋に酒やつまみを持ち込んでは食べている様子が浮かび上がった。
 「おいどうした? そんなぶっきらぼうな顔して」
 「何でもないよ!」と強く言い張るロードだったが映像は続いて行く。
 すると、二人の来ている服がだんだん透けてきて、筋肉質なたくましい体と二枚のパンツが浮かび上がってきた。
 「ダメー!!」と必死でかき消そうとするが、眼を閉じても直接頭の中に映像が流れ込んできて逃れることはできない。
 「大丈夫か!? おいしっかりしろ!!」
 リードはロードが空中を手でかき回している異様な光景を前にして、動きを抑えようとロードの体を掴んで体を揺らした。
 少しして、正常に戻ったロードは深くため息をついた。
 「危なかったー、あともう少しで見てしまうとこだったよ」
 「何を見てしまうところだったんだ?」
 「うんうん何でもないよ! それより、もう一回頑張るね!」
 ロードは見てしまったおぞましい光景を記憶から消すために、早く目的地のエオニアへの道筋を示すように再び目を閉じて念じた。
 再び神眼を使い始めてから三十分後、ようやくおぼろげながら道筋が見えてきたロードは嬉々としてリードに伝えた。
 「そうか、ならそのまま目を閉じながら向かうとしよう」
 「ええ!? 目を閉じながらなんて危ないよ、前から誰か来たらどうすればいいの?」
 「これは一種の特訓だ。お前がちゃんと神眼を使いこなせるようになるためには、こういった事も必要なんだ」
 「うー、わかった」
 そうして、ロードは先頭に立つと、眼を閉じて神眼を頼りにエオニアへと出発した。

 それから二時間後、最初は前が全く見えなかったようで千鳥足で歩いていたが、徐々に神眼の使い方に慣れてきて、今では普通に目を開けて歩くのと同じスピードで歩けるようになっていた。
 「いいぞ、その調子だ」
 「ふふん、どんなもんよ! これなら、走ってもいいかもね」
 順調に事が運んでいるロードは調子に乗って走り始めたが、すぐに転倒した。
 「全然ダメじゃないか」
 「いててて…… ちょっと早かったかー」
 ロードは擦りむいた手足をリードに治してもらっていると、既にエオニア平原にたどり着いていることが分かった。
 「兄さんここがエオニアだよ!」
 「そうか、ならお前はここから目を閉じて戦え」
 「さすがにそれは無理だよ、走るのでもままならないんだから」
 「つべこべ言うな! ケガをしても俺が治してやるから思う存分戦ってこい」
 「はーい……」
 ロードは返事をすると、もっと奥へと歩いて行った。 
 少し歩いて行くと、そこには馬車ほどの大きさがある魔物がに十体ほど平原を闊歩していた。
 「うわあー多いなぁ、大丈夫かな……?」
 そう悩んでいると、ロードに気づいた魔物が咆哮をあげながらロードに迫ってきた。
 「一体倒せば勝ちなんだ! 頑張るぞー!!」と意気込むロードだったが、瞬く間に迫ってきた魔物に驚いて横に滑り込んで攻撃をよけた。
 「はやい!」
 魔物はよけたロードに再び狙いをすまして突進してきた。
 「よし! また突進だ、今度は逃げないぞ」
 ロードは魔神の腕を召喚して魔物を攻撃しようと仕掛けた。
 「勝った!」と魔神の腕が魔物に当たろうとした時、横から全身を凄まじい衝撃が襲って吹き飛ばされた。
 「がはっ」と吹き飛ばされたロードは直ぐに立ち上がって何が起こったのか、神眼で見ようとしたが、頭に食らった衝撃で脳が震えて立つことがやっとで、心を落ち着かせて神眼を使うことなどできなかった。
 (まずい! 早くしないと魔物が襲ってくる!!)
 「動け僕の頭!見せて僕の神眼!!」
 ロードは頭に力を入れるが、やはり神眼は何も映さなかった。
 そして、そのまま近づいてきた魔物の攻撃を食らい宙に舞った。
 地面に崩れ落ちたロードはここで死を覚悟した。
 (ああ… もう体が動かないや。目をつぶって戦うことがこんなにも難しいだなんて、兄さん助けてくれるかな? 魔物ってこんなにも強かったんだ)
 死を覚悟したロードに魔物が足で踏みつぶそうと足を上げた時、ロードは目を開いた。
 なんとロードの右目の瞳が金色の太陽へと変わっていた。
 「何だこれ? 全て見える」
 すると、ロードは右目の神眼で体を操って危機から脱した。
 よけたロードを集まってきた魔物たちが執拗に攻撃するが、(スゴイ…… まるで、神になったような感覚だ。どうやってよければいいか、全部わかる)として簡単に魔物たちの攻撃をかわしていく。
 そして、最後の締めと言わんばかりに魔神の腕を召喚すると、真っ先に迫って来る魔物に叩きつけて、魔物たちを一掃した。
 「ようやく終わったか、どうやら上手く神眼を使るようになったらしいな」
 「うん、黒だね」
 「余計なものは見なくていい。そら見せてみろ、治してやる」
 そう言ってリードはロードに近づいて負ったケガを治療した。
 治療を終えると、ロードはこの特訓についてのことを聞いた。
 「ねえ兄さん、これで僕は二つの力を使えるようになったわけだけど、これでもカオスの遺子と戦って勝つことは難しいかな?」
 「さあ、どうだろうな? 数字が上がっていくほど、強くなることは確かだからそうなんじゃないか?」
 「そう、だったらみんなの助けも借りないとね。よーし、今から帰る前にちょっとだけ特訓するぞー!!」
 「俺も付き合ってやる」
 「ありがとう兄さん」
 こうして二人は任務を終えた後も暗くなるまで力を上手く使いこなせるように特訓を続けた。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです

kana
恋愛
伯爵令嬢のフローラは10歳の時に母を亡くした。 悲しむ間もなく父親が連れてきたのは後妻と義姉のエリザベスだった。 その日から虐げられ続けていたフローラは12歳で父親から野垂れ死ねと言われ邸から追い出されてしまう。 さらに死亡届まで出されて⋯⋯ 邸を追い出されたフローラには会ったこともない母方の叔父だけだった。 快く受け入れてくれた叔父。 その叔父が連れてきた人が⋯⋯ ※毎度のことながら設定はゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字が多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※他サイトにも投稿しています。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

【完結】お姉様が行方不明のせいで大変な思いをしてるので探しに行きます!

円月フク
ファンタジー
 この国の第一王女であるお姉様が公務を放棄して逃げ出した!  おかげで今まで楽できてた私がその仕事を肩代わりするハメに……  って!ふざけんじゃないわよ!!  私はもっともっと楽がしたいの!!  一生公務とは無縁のお姫様でありたいの!!  ちぃ!もういいわ!  こうなったらお姉様取っ捕まえてもう一度あの生活を取り戻してやるんだから!

①三人の天秤~二人だけの友達~

落雷リョウ
ファンタジー
ある日、いじめられている、僕達の前にお姉さんが現れる。颯爽とお姉さんは少年たちを助けた。憎悪になりそうだからと名刺を渡す。これが、物語を加速させる。 お姉さんこと小桜は、特殊警察組織からの仕事で、憎悪の討伐を行う。そこで、ハーメルンと出会い過去の因縁が再び沸き上がる。しかし、ハーメルンの前では無力である。 それと同時刻に少年の一人の花園湊音がぼこられている。しかし、花園はそれを耐える。憎悪になるようにハーメルンが声をかけていたにもかかわらず、桜美塁のために耐える。なぜそれは、君達から耐えれば、親友の桜美から手を引くことを約束させたから、だから、耐えれたんだ。 何をされても。 しかし、その約束は破られる。少年の桜美は暴行を耐えれなくて、ハーメルンによって憎悪にされる。いじめてたやつらに憎悪を返すために、憎悪の化け物となる。 その少し前に、小桜は、花園が名刺を持ち相談屋のホームに来る。 思いが交錯するときに、花園は何を願うのか、また、小桜は花園から何を奪うのか。 そして、桜美が憎悪になり、いじめていた奴を殺してゆく中で、またも、相談屋と出会う。自分の憎悪に耐え切れずに相談屋を殺そうとする。小桜は、もう元に戻れない、桜美を見て、       命を刈り取った。 花園の憎悪をいじめていた日比谷に憎悪を返すのである。日比谷は、憎悪の中で自分がしてきた行いを恥じるようになった。しかし、時が遅く死神が少年の首をかき切られる。そして、花園は一番大事な友達を失う。 そして、死神は千個の魂を刈り取り、自分の願いを叶えようとする。そこで、舞は死神の過去を知ることになる。 そこに、ハーメルンが現れて死神を元に戻してその場から去る。 舞と光と瞳は自分たちの境遇と死神の過去とをリンクさせて自分たちの未来を案じる。 だが、落ち込まない、何とかなる。それが私たちの関係だから。 これは、相談屋の話である。相談屋の小桜舞と親友の春花佳織と、よく似た二人、桜美塁と花園湊音が憎悪によって人生を歪められたお話と死神の過去と現在の相談屋の仲間の話である。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。

転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)
ファンタジー
ある日、自分が異世界に転生した元日本人だと気付いた公爵令嬢のクリステア・エリスフィード。転生…?公爵令嬢…?魔法のある世界…?ラノベか!?!?混乱しつつも現実を受け入れた私。けれど…これには不満です!どこか物足りないゴッテゴテのフルコース!甘いだけのスイーツ!! もう飽き飽きですわ!!庶民の味、プリーズ! ファンタジーな異世界に転生した、前世は元OLの公爵令嬢が、周りを巻き込んで庶民の味を楽しむお話。 まったりのんびり、行き当たりばったり更新の予定です。ゆるりとお付き合いいただければ幸いです。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...