カオスの遺子

浜口耕平

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第一部 エルマの町

第三十六話 混沌の魔界

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 ザクレイがロイドに敗れてから数十分後のエルマの町では残ったロード達がいつもの店で作戦を立てていた。
 「他の国の兵士たちもいなくなったことだし、この町は一体どうなるんだろうな」
 「でも、町のみんなはどこへも避難しようとしないわね。これもザクレイがこの町にいるおかげかな」
 「どうだかなぁ。まあでも、他の町へ行くよりも遥かに安全なことは確かだ」
 「でも、今はザクレイは町にいないよ」
 「バカだなぁ~お前は。だから俺たちが町にいるんだろ?」
 「今バカって言った! バカって言う方がバカなんだよ」
 「その言い回しは本当の馬鹿が使うもんだぞ。やっぱりお前の方がバカじゃないか」
 ロードは怒って立ち上がってアレスを叩き始めた。
 「また言った~! もう許さないぞ~!!!」
 「ハハハ怒った怒った~」
 「二人ともそこまでにしておけ。今はそんなことやってる暇ないだろ」
 「だってだってぇ! アレスが僕のことバカって言うんだもん!!」
 ロードは涙声になりながらリードに言った。
 「はいはい二人ともバカバカ、これでいいだろ」
 「何で俺もバカ扱いなんだよ、ロード一人で十分だろ?」
 「お前は普段の態度がバカなんだよ。これからベガとアルタイルの隊長が来るんだから少しは自重しろ」
 「は? そんな話聞いたことないぞ?」
 「だってお前、ザクレイが説明した時に酔っぱらって泥酔していたじゃないか」
 「なッ、じゃあお前らは知っていたのか?」
 アレスはメリナとロードの方を見ると、二人とも当然のように頷いた。
 それに加えてメリナは重要な報告をあろうことか泥酔して聞き逃したことを責め、アレスはそれなら教えてくれてもいいじゃないかとは思いつつも、これ以上メリナを怒らせないように黙っていることにした。
 「じゃあ今日はロイドがやって来た時にどうしようか考えようよ」
 「いいわねそれ、戦い方は大事よね。それでロイドはどんな見た目なの?」
 「僕と同じぐらいの身長の少年で、髪は灰色、服装は忘れちゃった」
 「あの子供みたいなやつか?」
 「そうそう、あの子みたいな… あ!!」
 アレスが指さした方の少年を見たロードは驚いて立ち上がり、リードは槍を構えた。
 「おいどうした!? まさかあれが?」
 「ああロイドだ」
 この場にロイドがいることに四人は極度の緊張状態に陥って攻撃をしようか考えあぐねていると、ロードがスタスタとロイドが座っている席に近づいて行った。
 「何でこんなところにいるの? 帰ってよ! ここは僕たちの町だ!」
 「ああ君はあの時の子か。今日はよく見知った人間と会うな」
 ロイドは食事の手を止めてロードの方を見て答えた。
 「見知った人間ってザクレイのこと? ザクレイたちに何したの? 答えろ!!」
 「おお怖い怖い、名前は知らないけど僕を止めようとしたからちょっと遊んだだけだよ。面白い魔法だったよ黒くなったり白くなったり。 だけど、今はもう死んでいるかもしれないけどね」
 それを聞いてすぐさまリードは魔法でどこかへ飛んでいき、メリナとアレスは唖然とした。
 「そんな……」
 「……」
 そんな中ロードはロイドの頬を叩くと大声で起こり始めた。
 「人殺しぃ!! 人殺しぃ!! よくもザクレイを殺したな!! 絶対許さないぞ!!」
 ロードはザクレイの死に激しい怒りを覚えた。
 それは単に殺されただけではなく、最大の敵であるカオスの遺子が殺したことが主な要因となってロードを突き動かした。
 叩かれたロイドは立ち上がると、ロードの頬を両手で掴んで顔を寄せた。
 「いいかい、すべての生命の生も死も母上が決めるもの、たとえ僕がズタボロにした男が死んだとしてもそれは母上の意思だ。それに抗えるものは存在しない、僕たちカオスの遺子でさえも……」
 「じゃあもう行くね。どうやら僕は歓迎されてないようだし」
 そう言ってロイドは店を後にした。
 ロイドが去った後、メリナとアレスはロードに駆け寄った。
 「大丈夫ロード? 何かされた?」
 「ううん、何もされてないよ。でも、ロイドが言っていたって何だろうって……」
 「そんなのあいつらの言い訳だ。聞く耳持つんじゃない」
 「そうよ。今はザクレイの無事を祈りましょう、リードがきっと治してくれるわ」
 「うん」
 ロイドとの遭遇を無事生き延びたロード達は、宿舎に戻ってザクレイの無事を願った。

 魔界 そこは混沌とした世界。
 多くの魔物たちが殺し合い赤い空と真っ黒の太陽に包まれて何者かの慟哭が聞こえる。
 人界での散策を終え、魔界に帰ってきたロイドは町で使う金を貰うために、第四遺子クラウディウスの館に来ていた。
 クラウディウスの館はいたるところにクラウディウス自身が作った物が飾られており壁や天井を覆いつくしそうで足の踏み場もないので、ロイドは飛びながら移動していた。
 「あれクラにい、、 今日はいないのかな」
 「よお! 我が末弟俺の館に何の用だ?
 ロイドは他の部屋と違って綺麗なクラウディウスの部屋で少し待っていると、いきなり仮面を被ったクラウディウスが背後に現れてロイドの体を持ち上げた。
 「クラにい、今ちょっとお金が欲しいんだよね。また創ってくれないかな」
 「いいぞ。だが、金なんて必要ないだろ。殺して取っていけばいいじゃないか」
 「それはダメだよ。ちゃんと人間と同じようにお金を使わないと。そんな不平等なこと僕にはできないよ」
 「そうか、それが母上の意思であるならそうすればいいだろう」
 そう言うとクラウディウスは右手を前に突き出すと手から金貨が大量に落ちてきた。
 「わわ! こんなに要らないよ」
 「要らないなら捨てておけ。後で片付けさせるから」
 「そう言えば人間界でクラにいの息子と名乗る奴がいたけど何か知ってる?」
 「息子? 確かに創ったなだいぶ前に、それがどうかしたか? まさかお前に危害を加えようとしたのか」
 「いいや、でも殺してしまったからクラにいに謝っておこうと思って……」
 「ハハハハハ、別に構わんぞ。また創ればいいし、一人減ったところで何の問題もないぞ」
 クラウディウスは自身の息子が亡くなったのにも関わらず、平然としてロイドを責める気配さえ一向に感じさせない。
 「クラにいは悲しんだりしないの。自分の子が死んだのに」
 「別にぃ~ どうでもいいよ息子なんて。今はどこかに囚われているバサラの方を優先しないとな」
 「……母上も僕たちが死んだ時は悲しまないのかな」
 「さあ? どうだろうな。前にも言ったろ、俺たちの生と死はすべて母上の意思であると。不死身の俺たちが死ぬときは母上が願ったことだ。そこに何の問題がある? むしろ非常に喜ばしいことだ!」
 だんだん口調が上がってきているクラウディウスにロイドは、「そうだよね。すべては母上の意思だよね、もう帰るね」と言って館を後にして帰宅した。
 
 帰宅したロイドは自室で第二遺子アリスターが書き残した『神の書』を読んでいた。
 『神の書』には母カオスと原初の遺子である第一遺子バベルと第二遺子アリスターの対話などをまとめたものであり、後に生まれてくる遺子たちへの規範となった。
 『神の書』を読んでいると、また突然ロイドの背後から赤髪の少女が現れて両手で強く抱きしめた。
 「うぅ~ロイドちゃ~ん。相変わらず可愛らしいわ~!! 好き好き好き!!」
 現れたのはカオスの第五遺子ウェスタシアだった。
 「何で兄さんたちはいきなり背後から現れるんだ……」
 「あら神の書じゃない、懐かしいわ~」
 「ねえ姉さん。この書の著者 第二遺子アリスターってどんな方なの? 本とかでよく見かける名前だから気になって」
 「そうだったわね~ ロイドはお兄様に会ったことないもんね。いいわ教えてあげる」
 「アリスターは長兄のバベルと対をなすもの またの名をのアリスター。私たちと違って永遠を許された存在で決して消えることなく世界に君臨していた。姉上の永遠の番でもあるわ
  だけど、千年前の運命の日に長兄のバベルとの戦いで姿を消してしまわれた。そこから何もかも変わってしまったの」
 「じゃあアリスターは死んだの?」
 「どうかしらね。お兄様は不滅よ、きっと今もどこかにいるのだと思うわ。人間界とかね」
 「人間界と言えば、さっき人間と戦ったんだよね。人間にしては強かったよ、おかげで顔半分吹き飛ばされちゃったよ」
 「何ですと!? 人間風情が私のロイドに傷をつけるなんて許せないわ! 今すぐ世界を焼き尽くしてやる!!」
 ウェスタシアはロイドが傷つけられたのを知ると、体からメラメラと炎が湧き出てロイドの部屋を包んだ。
 「姉さん熱いよ。それに別にもう終わったことなんだからそんなことしなくていいよ。それに、今の姉さんにそんな力ないでしょ」
 「むむ、、 それはそうだけど…… 私はか弱いロイドに危ない目にあって欲しくないのよ。だから、人間界にはもう行かないでちょうだい。あと、あの変態マスク野郎にも」
 「嫌だね、僕はまた人間界に行くよ。それにクラにいはお金をくれるから行かない手はないよ。姉さんは何でクラにいが嫌いなの?」
 「アイツは真正のクズよ、自身の創った物や子にさえも目的のための道具にしか思っていない愛のかけらもない奴よ。何で偉大な母からあんなのが生まれたのか甚だ疑問だわ」
 「でもこれも母上の意思でしょ。じゃあ僕は今から人間界に行ってくるから」
 ロイドは立ち上がって部屋を後にしようとしたが、ウェスタシアが腕をつかむと、「危ないから一緒に行く」と言って聞かなかった。
 「もう僕は五百蔵だよ。一人で大丈夫だよ」
 「何言ってるの!? 五百歳なんて赤子じゃない。私がちゃんと見守ってあげないとね!」
 「この際言っておくけど、姉さんがどれだけ僕に愛を注いでも僕が応じることはないよ。姉さんだって僕への偏愛は害にしかならないはずだ。だから、姉さんの行いは無意味だよ」
 ロイドはウェスタシアの過保護さに呆れて強い言葉で突き放すと、部屋を出て人間界へと向かった。
 ウェスタシアは衝撃の言葉に固まってしまい、ロイドが部屋を出ていくと泣き出してしまった。
 このロイドの言動は別に彼が冷徹な人物だということではない。
 すべてに平等な感情しか持たないロイドは、いくらウェスタシアが多大な愛を注いでも、五百年間、決して彼女の愛に答えなかった。
 しかし、これもまたカオスの意志なのだろう
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