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第5章 あたしはお前が1番じゃないからな!
しおりを挟む「あー、ケン、モババ持ってる?」
モバイルバッテリー。
外部充電器の事だ。
「持ってますけど」
「貸して、面白いからあいつにTV電話する」
「はぁ……」
面白がるところなのか!?
あやめさんは、本当に彼氏さんの事好きなのか?
店長が言ってる様に、2人の関係性は"闇"であるから、あやめさんは面白がっていられる。
そういう事か?
彼氏さんの方があやめさんLOVEで、アヤメさんはそんなんでもないが、嫌いでもないから付き合ってあげてる。的なヤツ?
『あやめ! 良かったよ! 繋がったあああ!』
「今どこなんだっけ?」
『洞窟の中、ドラゴンから逃げてる』
ヒカルさんがちらりと覗く。
「ザ・異世界って感じの場所だねぇ」
呑気にグラスを傾けながら呟く。
「ですねぇ」
『あやめぇぇぇええええ!』
彼氏さんは半分泣いている。
「さっさと戻って来なさいよ」
『そんな事、言われたって.…』
彼氏さんは困っている。
そりゃそうよな。
「んで? いつ、そこに行ったの」
『昨日の夜、フツーに寝るじゃん? 目が覚めたらここにいたんだよ。その、ほかの2人にも聞いてみて。同じかもしれない』
『彼氏さん! 俺もっす! 俺も、寝て目が覚めたらここでした!』
『つーか、ユウキでいいから。それより、お前ズリィぞ! その異世界、危なくなさそうな上にシアワセ世界じゃん』
「おい、てめぇ」
あやめさんがキレてる。
『嘘です。貴方が1番です』
「あたしはお前が1番じゃないからな!」
『そういうツンデレなところも好き』
聞いた感じ、そういう訳じゃ無さそうだけど、ここは黙っておくのが吉だろう。
『俺も! なんか、徹夜で執筆してPCの前で寝落ちしたらここだった!』
「坂田それは身体に良くない。ちゃんと布団で寝なさい」
『はーい、でも、俺ンちはベットだから! ベットで寝るね』
「そういう事じゃないんだけどね」
やはりこの2人はコント。
『あれ? 坂田サンのいる岩場? 俺のとこと似てない?』
確かに。
安山岩ベースの洞窟と思われる。
「似てるね。確かに」
「ちょっと、ユウキさ、大声で坂田さーんって呼んでみなよ。会えるかもよ」
『適当だな、おい。でも、まぁ、試してみる価値はあるか……』
『だね、俺も、耳を澄ませているよ』
シーンと静寂がうまれる。
サトルの電話はうるさいのでミュートした。
『さーかーたさーーーーん!』
「うるさ!」
あやめさんが顔をしかめる。
確かにうるさい。
俺もついつい、眉間に皺が寄った。
見ると、ヒカルさんも若干不愉快そうな表情をしている。
『!! 聞こえた!』
「通話の声じゃなくて? じかに?」
ヒカルさんが問う。
『うん。ハウリングした感じで聞こえたから間違いないと思う。聞こえた方に行ってみるから、ユウキくんはそこで待機していて?』
『了解っす』
本当に、繋がっているのか?
となると、サトルのいる場所とも繋がっているのか??
他にも跳んだ人はいるのか?
俺らの周りだけで3人も跳んでいるんだ。
もっと多くの人が跳んでいるに違いない。
俺も跳んでしまうのか?
どうしたら、飛ぶんだ?
極端な話、入浴中に跳んだら色々まずいよな。
車の運転中とかもやばい。
どうなるんだ?
3人は眠った後、目覚めたらそこにいたという。
つまり、鍵は睡眠? まさか。
そんなの、日本中、世界中の人が日々、眠り、目覚めている。
そんな事今まで無かった訳だし、急に跳べるようになりました! って言われて、はいそうですか。
なんて、言える訳がない。
『ユウキくん、もっかい読んでもらえる?』
『はい! いきますよ』
「一瞬、ミュートするわよ」
あやめさん、賢い。ナイスです!
『さーかーたさーーーん』
ユウキさんの口パクだけが見える。
だが、ユウキさんの方はミュートなのに、ユウキさんの声がほのかに聞こえた。
坂田さんの画面だ。
『近いぞ!』
「ほう、これは面白い」
客足も途絶えたので、俺たちは異世界(仮)TV電話に夢中になっていた。
店長も、エプロンを外して、煙草に火を付けて覗いている。
「あやめちゃんと健、上がりで良いよ。ヒカルさんさえ良ければ隣でご飯にさせてもらいな」
「あぁ、勿論良いよ」
「あざす!」
「どもです」
かくして、今日の居酒屋勤務は終了したのだが、まだ、異世界(仮)問題は終了していない。
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