上 下
8 / 14

第8章 相棒だろ?

しおりを挟む

「おい、起きろ」

「え?」

新が目を醒ますとそこには仁王立している愛がいた。

「うわぁぁぁああ! 出たァァァァアア」

「なんだその言い草は。あたしは化け物じゃないぞ」

「だって愛さんが俺より早く起きる事なんて半年に1回あるかないかでしょう!」

「違う。1年に1回だ」

そこ、誇るところじゃないから。
と、新はドヤ顔で申告してくる愛に思った。

「わかりました。なんで愛さんは今日早いんですか?」

「久しぶりに飯を作った。そして用件があるからな」

「で、デートですか!?」

「なんであたしが逢いびきなんかの為に早起きしなくちゃならないんだ。仕事だ仕事。昨日の依頼だ」

あ、阪田がとったあれね。
あー良かった。
と、安堵する新であった。

え? 安堵?

「ええぇぇぇええ! 愛さんどうやって入ったんですか! 俺、鍵閉めたよ!?」

「ピッキングってヤツだよ。ワトソン君」

「僕は医者じゃないんですけど」

「でも、相棒だろ?」

サラッと言われるとハッとする。

相棒……

「いや、便利な世の中になりましたねぇ、こんなハリガネ2本で鍵があくんですから」

は?

「君もやってみます? なかなか面白いですよ」

まさか。

「おっと、私とした事が朝食の準備をしていたのを忘れていました。さ! 君も一緒に食べましょう」

遊んでる……
愛さん完璧遊んでる……

愛さんが3階。
俺が2階。
事務所は1階。
つまり今は1階。そこから事務所へ続く階段を颯爽に愛さんは降りていく。

「はぁ……」

付き合わされている方の身にもなってくれよ……

そう思ったが口にはしない。
こう言いながらも新は愛の茶番にちゃんと付き合うし、それが嫌いでないのだ。

「さぁ、さぁ、紅茶ですよ。これはアールグレイ。一般的な茶番です」

知らねぇよ!
でも、乗らないと期限悪くなるし、乗るのも嫌いじゃない。

紅茶のポット高らかに上げ、ティーカップに注ぐ。
しかも、うまい。溢れていない。

「あ! ありがとうございますゥ! うん。いい香りですねぇ」

「わかります?」

「はい、杉下さん」

「流石は亀山くんです。そうそう。気になる事件がありましてね……」

相棒違いだ! 
それは朝○TVで水曜日にやってたドラマだ! 愛さんがよく再放送観てるTVドラマ! 彼らは刑事。貴女は探偵!

とは言わず。

「どんな事件なんです?」

「それが奇妙な手紙が靴箱に入ってるそうなんですよ」

「えぇ!? なんですって!? 手紙の内容は?」

「それが全くもって不可解なんだ」

「愛さん、戻ってます」

「あ、」

たまにドジるところがまた可愛い。
あれ? 愛さんって、外でドジる?
俺の前だけ? いかんいかん。変な事を考えるな。今の関係のが幸せだ。
新はひとり頭をブルブルする。

「どうした、新。なんかのロックバンドの真似か?」

「ち、違います!」

「まぁいい。ピッキング……もう一度やりたいな」

「自分の部屋でやって下さい」

「自分の部屋なら飽きるほどやったぞ」

「え、いつの間に……」

「新が寝る頃だな」

そっか、業務が終わって夕飯食べて、ちょっと落ち着いたら俺は先に2階に行っちゃってたんだ。
うわーー!!! 何してんだ!
もったいないだろ!

1人悶える新であった。

「新、どこかおかしいよのか?」

「いえ! 大丈夫です! フツーです!」

「熱でもあるのか?」

愛はそう言って向かい合ったテーブルから身を乗り出して新のおでこに自分の額をくっつけたのだ。

ちょっと、愛さん。貴女、自分が女性だという自覚はないんですか!?
すごい近くてドキドキするんですけど。顔も火照るンですけど。

「少し熱いな。今日は休んでろ。阪田を呼ぶ。電話番もまともにできないゆとり野郎だが」

「愛さんもゆとりですよね?」

「ゆとりでもゆったりしてない奴はいるぞ」

「ですよねぇ……」

だったら俺もゆとり野郎かぁ……

「例えば……」

そう言って、左手の人差し指を立てて顎に当てて例の微笑みを浮かべる。
うわぁ。やばい。

「新とかあたしとかな」

「へ?」

「あ? 新はゆとり野郎だったのか?」

「愛さんは……どう思います?」

「だから新は違うと言っているだろう」

今度はいつもの笑みに戻ってしまった。
なんだ、あの表情の変わる条件は! 
他の人の前でもやってるのかなぁ、
俺の前だけだといいなぁ……
っておい! 彼氏でもなんでもない、事務員で、居候で、相棒と言われつつも特に何もできてない俺が! そんなこと いう資格なんかない!

「阪田に電話したぞ、新が狂ってる間に」

「へ?」

「髪の毛、思いっきりワシャワシャしてたぞ。ほら、手にも沢山ついてる」

「うわぁぁあ!! 俺の大事な髪の毛!」

「まだフサフサじゃん」

「じーちゃんもとーさんも薄くなってるんですぅ! 今から保持しないと」

「そのじーさんはとーさんの父さんか?」

「あ、そーですよ。じゃなきゃそこまで心配しませんし!」

「隔世遺伝子って言葉を知ってるか?」.

「追い打ちかけないでくださいよ……余計に心配になるじゃないですか」

「そのじーさんととーさんの写真はあるか?」

「えぇ、まぁ」

そう言って新はスマホを操作した。

「あ、これです。これ」

そこには優男風のなんとも穏やかな男性の姿が2人あった。

「ほぅ。ではかーさんの写真はあるか?」

「えぇ、それをルーズにすれば」

「あぁ」

そう言って愛はお母さんの写真を確認し、フッと笑った。
謎が解けたときの笑みとは違う。


え? 愛さん、僕がツルツルになったの想像して笑ってる!?

「あ、愛さん?」

「なんだ?」

「写真で何かわかるんですか?」

「あぁ。新の未来がな」

「み、未来!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RoomNunmber「000」

誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。 そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて…… 丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。 二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか? ※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。 ※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。

探偵は今宵恋をする__。

もか♡
ミステリー
次々と起こる様々な事件を解決する探偵「月空」ある夜殺人現場に出くわしてしまった。その事件を解決していくと犯人にたどり着く、その犯人が……

【完結】残酷館殺人事件 完全なる推理

暗闇坂九死郞
ミステリー
名探偵・城ケ崎九郎と助手の鈴村眉美は謎の招待状を持って、雪山の中の洋館へ赴く。そこは、かつて貴族が快楽の為だけに拷問と処刑を繰り返した『残酷館』と呼ばれる曰くつきの建物だった。館の中には城ケ崎と同様に招待状を持つ名探偵が七名。脱出不能となった館の中で次々と探偵たちが殺されていく。城ケ崎は館の謎を解き、犯人を突き止めることができるのか!? ≪登場人物紹介≫ 鮫島 吾郎【さめじま ごろう】…………無頼探偵。 切石 勇魚【きりいし いさな】…………剣客探偵。 不破 創一【ふわ そういち】……………奇術探偵。 飯田 円【めしだ まどか】………………大食い探偵。 支倉 貴人【はせくら たかと】…………上流探偵。 綿貫 リエ【わたぬき りえ】……………女優探偵。 城ケ崎 九郎【じょうがさき くろう】…喪服探偵。 鈴村 眉美【すずむら まゆみ】…………探偵助手。 烏丸 詩帆【からすま しほ】……………残酷館の使用人。 表紙イラスト/横瀬映

復讐代行業

ももがぶ
ミステリー
被害者の訴えを聞き取り、依頼者に成り代わり密やかに復讐代行を行う。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

孤独の旅路に伴侶をもとめて

spell breaker!
ミステリー
気づいたとき、玲也(れいや)は見知らぬ山を登っていた。山頂に光が瞬いているので、それをめざして登るしかない。 生命の息吹を感じさせない山だった。そのうち濃い霧が発生しはじめる。 と、上から誰かがくだってきた。霧のなかから姿を現したのは萌(もえ)と名のる女だった。 玲也は萌とともに行動をともにするのだが、歩くにしたがい二人はなぜここにいるのか思い出していく……。 ※本作は『小説家になろう』さまでも公開しております。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

処理中です...