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第8章 相棒だろ?
しおりを挟む「おい、起きろ」
「え?」
新が目を醒ますとそこには仁王立している愛がいた。
「うわぁぁぁああ! 出たァァァァアア」
「なんだその言い草は。あたしは化け物じゃないぞ」
「だって愛さんが俺より早く起きる事なんて半年に1回あるかないかでしょう!」
「違う。1年に1回だ」
そこ、誇るところじゃないから。
と、新はドヤ顔で申告してくる愛に思った。
「わかりました。なんで愛さんは今日早いんですか?」
「久しぶりに飯を作った。そして用件があるからな」
「で、デートですか!?」
「なんであたしが逢いびきなんかの為に早起きしなくちゃならないんだ。仕事だ仕事。昨日の依頼だ」
あ、阪田がとったあれね。
あー良かった。
と、安堵する新であった。
え? 安堵?
「ええぇぇぇええ! 愛さんどうやって入ったんですか! 俺、鍵閉めたよ!?」
「ピッキングってヤツだよ。ワトソン君」
「僕は医者じゃないんですけど」
「でも、相棒だろ?」
サラッと言われるとハッとする。
相棒……
「いや、便利な世の中になりましたねぇ、こんなハリガネ2本で鍵があくんですから」
は?
「君もやってみます? なかなか面白いですよ」
まさか。
「おっと、私とした事が朝食の準備をしていたのを忘れていました。さ! 君も一緒に食べましょう」
遊んでる……
愛さん完璧遊んでる……
愛さんが3階。
俺が2階。
事務所は1階。
つまり今は1階。そこから事務所へ続く階段を颯爽に愛さんは降りていく。
「はぁ……」
付き合わされている方の身にもなってくれよ……
そう思ったが口にはしない。
こう言いながらも新は愛の茶番にちゃんと付き合うし、それが嫌いでないのだ。
「さぁ、さぁ、紅茶ですよ。これはアールグレイ。一般的な茶番です」
知らねぇよ!
でも、乗らないと期限悪くなるし、乗るのも嫌いじゃない。
紅茶のポット高らかに上げ、ティーカップに注ぐ。
しかも、うまい。溢れていない。
「あ! ありがとうございますゥ! うん。いい香りですねぇ」
「わかります?」
「はい、杉下さん」
「流石は亀山くんです。そうそう。気になる事件がありましてね……」
相棒違いだ!
それは朝○TVで水曜日にやってたドラマだ! 愛さんがよく再放送観てるTVドラマ! 彼らは刑事。貴女は探偵!
とは言わず。
「どんな事件なんです?」
「それが奇妙な手紙が靴箱に入ってるそうなんですよ」
「えぇ!? なんですって!? 手紙の内容は?」
「それが全くもって不可解なんだ」
「愛さん、戻ってます」
「あ、」
たまにドジるところがまた可愛い。
あれ? 愛さんって、外でドジる?
俺の前だけ? いかんいかん。変な事を考えるな。今の関係のが幸せだ。
新はひとり頭をブルブルする。
「どうした、新。なんかのロックバンドの真似か?」
「ち、違います!」
「まぁいい。ピッキング……もう一度やりたいな」
「自分の部屋でやって下さい」
「自分の部屋なら飽きるほどやったぞ」
「え、いつの間に……」
「新が寝る頃だな」
そっか、業務が終わって夕飯食べて、ちょっと落ち着いたら俺は先に2階に行っちゃってたんだ。
うわーー!!! 何してんだ!
もったいないだろ!
1人悶える新であった。
「新、どこかおかしいよのか?」
「いえ! 大丈夫です! フツーです!」
「熱でもあるのか?」
愛はそう言って向かい合ったテーブルから身を乗り出して新のおでこに自分の額をくっつけたのだ。
ちょっと、愛さん。貴女、自分が女性だという自覚はないんですか!?
すごい近くてドキドキするんですけど。顔も火照るンですけど。
「少し熱いな。今日は休んでろ。阪田を呼ぶ。電話番もまともにできないゆとり野郎だが」
「愛さんもゆとりですよね?」
「ゆとりでもゆったりしてない奴はいるぞ」
「ですよねぇ……」
だったら俺もゆとり野郎かぁ……
「例えば……」
そう言って、左手の人差し指を立てて顎に当てて例の微笑みを浮かべる。
うわぁ。やばい。
「新とかあたしとかな」
「へ?」
「あ? 新はゆとり野郎だったのか?」
「愛さんは……どう思います?」
「だから新は違うと言っているだろう」
今度はいつもの笑みに戻ってしまった。
なんだ、あの表情の変わる条件は!
他の人の前でもやってるのかなぁ、
俺の前だけだといいなぁ……
っておい! 彼氏でもなんでもない、事務員で、居候で、相棒と言われつつも特に何もできてない俺が! そんなこと いう資格なんかない!
「阪田に電話したぞ、新が狂ってる間に」
「へ?」
「髪の毛、思いっきりワシャワシャしてたぞ。ほら、手にも沢山ついてる」
「うわぁぁあ!! 俺の大事な髪の毛!」
「まだフサフサじゃん」
「じーちゃんもとーさんも薄くなってるんですぅ! 今から保持しないと」
「そのじーさんはとーさんの父さんか?」
「あ、そーですよ。じゃなきゃそこまで心配しませんし!」
「隔世遺伝子って言葉を知ってるか?」.
「追い打ちかけないでくださいよ……余計に心配になるじゃないですか」
「そのじーさんととーさんの写真はあるか?」
「えぇ、まぁ」
そう言って新はスマホを操作した。
「あ、これです。これ」
そこには優男風のなんとも穏やかな男性の姿が2人あった。
「ほぅ。ではかーさんの写真はあるか?」
「えぇ、それをルーズにすれば」
「あぁ」
そう言って愛はお母さんの写真を確認し、フッと笑った。
謎が解けたときの笑みとは違う。
え? 愛さん、僕がツルツルになったの想像して笑ってる!?
「あ、愛さん?」
「なんだ?」
「写真で何かわかるんですか?」
「あぁ。新の未来がな」
「み、未来!?」
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