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【第11章】今、必死にイメージ改革を行っているのよ!

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【11章】

「ったく、取り敢えず、聖女様の元で働いている修道女に掛け合ってやるよ」
 
フランキーのワクワクバーガーなるものを所望していた、守衛さんがバツが悪そうに頭を掻きながらそう言った。

「ありがとうございます」

にこりと微笑む。
売れるところで売っておかないと、私に残るのは死亡ルート。

前世の記憶も曖昧なのに、もし、これよりひどいところに飛ばされたらたまったもんじゃないわ。

私は地味で良いから普通に暮らしたい。
前の世界の様に、実家がめちゃくちゃ太いとか、そういうのはないし、ただの女子大生だったし、これから就活とか待っていただろうし、
きっと、そのうち、誰かと結婚して、子どもを産むだろう。

私が転生した日からどれくらい経ったかはわからない。

私が思い出せたのは、前世の概要。
前にいた、世界の、概要。

どんな、建物があったとか、ここの世界とはどこがどう違うとか。
私がどんな人間だったかを思い出した。

今の性格(シャルル覚醒後)と大方変わっていない事が思い出せた。

「まじか、本当にアポ取ってたのか。悪かったな嬢ちゃん」

そう言って、頭をポンポンされた。
大きな手だ。

私が小さくなったからそう感じるだけ?
でも、なんか強そうな、頼り甲斐のある様に見える。

さっきはヤな奴とか思ったけど、案外良いヤツなのかもしれない。

「俺の名前は、エレン。今度、こっちに来た時は遊びに来いよ。フランキーのワクワクハンバーガーを店頭で買ってやる。あそこは店ン中もすごいんだぜ!」

「ありがとうございます! 楽しみです」

ニコニコしておく。

「おい、アンドレア家のシャルル嬢って極悪人って聞いてたぞ?」

「俺も。稀代の性悪少女って、本当にその歳でそんな事すんの? みたいなやばいのって聞いたが」

「良いのは顔面だけって話だったが」

メッッチャ良い子じゃん! 可愛いだけじゃなくて!

そんな声が聞こえた。
そうよ、昔の私は、所謂、悪役令嬢ポジションだったから、今、必死にイメージ改革を行っているのよ!

あんた達みたいなのに殺されない為、国外追放されない為にね!!
必死なの! その為にはできる範囲の事はなんでもするわよ。

「他の皆さんにも、今度何か、お好みの物をお出し致しますね。本日は急いでおりますので、申し訳ありませんがこの辺で」

「おう! またな、嬢ちゃん」

「俺らが今度美味いもん奢ってやるよ!」

「そうだ、俺、息子いんだけど、今度遊んでやってよ!」

「ず、ずるいぞ! それに、公爵家のお嬢さんだ。平民の俺らのガキなんぞとは遊んでくれないぞ。第一、アンドレア家の旦那が許されねぇ」

うーん、やはり、こういう世界なのよね。
それも、何だか複雑よね。

大体、こういうストーリーって、平民と貴族との軋轢? とかで、悪役令嬢が殺されたり、デスエンドを迎えるのよね。
主人公は平民である事が多い訳だし。

ここは、平民……って、日本にいた頃の私はど平民だったからそういう言い方も気が引けるなぁ。
でも、今は何故か分からないけど、貴族の御令嬢になってしまった訳だし。

そういえば、私の他にも転生者はいるのかしら?
私しかいないパターンと、他にも何人かいるパターンの作品があるわよね。

この、世界はどのパターンに当てはまるのかしら?  

「ありがとうございます。光栄ですわ。今度、私の誕生日パーティーを行なう予定ですの。宜しかったらご招待させね下さい」

「良いのか? 旦那……パパは怒らないか?」

「あら、私の誕生日パーティーですのよ。私の呼びたい方をお呼びいたしますわ」

「そうか」

そういうと、エレンは優しく微笑んだ。
優しそうなお父さんだな。

「さ、聖女様のところへ行っておいで」

「はい!」

さて、聞きたい事は山ほどある。
何から聞けば良いのやら。


。:°ஐ♡*

  
修道女に通された部屋はなんだか、不思議な部屋。
この前の階段の部屋とは違う様だ。

ここ、なんだか、ハーブ系の良い香りがする。

長い机、端と端に椅子。
上座には既に聖女が座っていた。
ベールに覆われていて、顔はよく見えない。
見せちゃいけないって奴なのかな?
確か、聖女ってめっちゃ長生きなんだよね。  
失礼だけど、老けたりしないのかな。

「ようこそ、シャルル……いえ、明美と言った方が良いかしら」

やはり、この人は私の事を知っている。
聖女って全知全能なの? 神なの? 
ところで、誰かに聞かれたらやばくない?

「盗み聴きの心配はないわ。私たちの会話は誰にも聞こえない。聞こえないようにした」

「そう……お心遣いに感謝するわ。私の正体……っていうのも偽ってる訳でも好きでこの姿になってる訳でもないから不自然だけど、私の前世、そう、あえてそう言う言い方をしよう。私の前世を知っているのね?」

「えぇ、その様子だと、全てを無事に思い出せた様ね。赤坂明美さん」

「そう、私は赤坂明美。フツーの女子大生をやっていた。
独り暮らしで隣には幼馴染が住んでいた。一応、恋人もいた」

「そう。何故、この世界に転生してきたかは分かるかしら?」  

聖女が私に問う。

聖女と私のいる部屋はなんだか独特の空気。
そういえば、すごい離れているのに、彼女の声は私の耳元までよく聞こえる。
囁かれている様な不思議な感覚。  

「それだけが思い出せない。他はものすごく鮮明に思い出した。でも、何故、ここにきたかは分からないの」

「知りたい?」

聖女がらしからぬ悪戯っぽい感じで聞いてくる。

「知りたいけど……貴方は知っているの?」

「私は知っているわよ。そういう仕様になっているから」

仕様って、まぁ、NPCって言ってたもんね。

「この、外に世界はあるの?」

「あると言えばあるし、ないと言えばない。ここは作られた世界でありながら独立した世界なの」

難しいな。

「元いた世界の他にもここの様な世界はいつの時代も存在していた。時々、人が行方不明になるでしょ? その殆どは何かしらの事件に巻き込まれてしまったが、事件が発覚しておらず、捜査すらしてもらえない……そのまま失踪宣告されてしまい、そのうち世界から、世間から忘れられてしまう」

「私も?」

急に、胸がサーッと冷たくなる。

「そうかもしれない。でも、忘れない人もいるわよ。きっと」

お父さんやお母さん、兄貴たちの顔を思い出す。
そして、引きこもりクソゲーマーの顔。
聡司の顔。

あれ、なんで、先にクソゲーマーの顔が出たんだ?

彼らは私の事をきっと、覚えててくれる。
あれ、違う。

家族は覚えててくれると思う。
それは、家族だから、無条件で。
よほどひどい家庭環境でなければ、家族が急にいなくなったら必死に探すし、なかなか諦められないはず。

引きこもりクソゲーマーも、幼馴染だし、腐れ縁だし、アイツには友達は私しか友達いないし。
覚えていてくれると思う。

でも、聡司は?
あいつは、引きこもりクソゲーマーと違って、仲の良い友達もいるし、元カノさんもいる。
人脈や人望も持ち合わせている。
そして、それなりにモテる。

きっと、私がいなくなっても、いつかは立ち直り、新しい恋人を作り、結婚して、子供を育てるんだろう。

私も彼もお互いに、そこまで好きだった訳じゃないと思う。

なんとなく、同じ大学で同じ学年で同じ学部で同じ学科で同じゼミで。

なんとなく、周りも付き合い始めたし、周りにも仲良いね! 付き合っちゃえば? みたいに、乗せられて。

取り敢えず、何となく、流れで、付き合っていた。

だから、きっと、彼は、私の事を忘れる。

逆に、私も彼が突然いなくなったらきっと、いつか、忘れる。

たまに、思い出したとしてもそれはただの記憶の一部。
想い出というよりは、記憶。出来事。

あぁ、こんな事あったね。
あいつ、見つかったのかな?
そんな程度。
きっと、5分後には考えてないし、明日になれば思い出した事すら覚えていない。

それは、私も彼も共通だから、私は彼を責められないし、責める気もない。

それが、私たちの築いてきた関係性だ。
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