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第九章 鬼起つ
43 舞踏会3
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「第一皇子ガルベス公爵殿下並びに公爵夫人」
正面の玉座の右側にも扉があり、そこから皇子たちが入場すると侍従長が名を呼ぶ。呼ばれた皇子たちは夫人とともに玉座の一段下に並んだ。
アマンダの立つ場所は玉座からかなり離れていたがガルベス公爵夫妻の仲がよくないことは明らかだった。夫婦の一体感がないというか、よそよそしいのだ。しかもそれを二人とも隠そうともしない。
第二皇子バンデラス伯爵ブルーノは一人だった。本当にサカリアスの兄なのかと思うほど似ていなかった。きっと父親に似たのだろう。
第三皇子モンテス伯爵カミロ夫妻も不仲は明らかだった。近くで見ればカミロの手先が震えていることに気付いただろう。
第四皇子ウルバノ子爵ドロテオ夫妻は仲が良さそうに見えた。だが妻の顔がなんだか品がないように見えた。貴族出身ではないように見えた。
第五皇子コマス子爵エロイは独身。顔は悪くはないと思うが、あまり親しくなりたくない雰囲気だった。
第六皇子フーゴ男爵フラビオの顔は覚えていた。こんな人相の悪い人が皇族だというのは信じ難かった。
第七皇子のガスパルは警察に拘束されている。夫人はいるらしいがこの場に来れるはずもなかった。
とにかく皆お近づきになりたくない空気を発散させていた。
空気が清浄になったのは第九皇子ゴンサレス公爵カルロス・グラシアが入場してきた時だった。まるで天使のようだとアマンダは思った。金色の巻き毛、汚れを知らぬような長い睫毛に飾られた目は多くの人を魅了する力があった。
その後、皇帝の孫にあたるガルベス公爵の長女と次女が紹介された。
「ガルベス公爵長女アレクサンドラ皇孫殿下」
「同じく次女バルバラ皇孫殿下」
二人はほぼ同い年に見えた。舞踏会に出席できるのは18歳以上だから二人とも18歳くらいなのだろう。長女の髪はブルネット、次女の髪はブロンドで顔もあまり似ていないので双子ではないようだった。
「二人とも愛人の子。誕生日は三日違い」
マリコ夫人が耳元で囁いた。それはあんまりだとアマンダは思った。これで夫婦仲が良かったらどうかしている。
「星の離宮プルデンシオ・タメス」
出て来たのはタキシード姿のやさ男だった。見たことがあった。数年前にはやった恋愛ドラマの主人公役の俳優だった。商業学校の同級生の間ではライバル役の俳優と人気を二分していた。アマンダはライバル役の俳優がいいと思っていた。星の離宮ということは皇帝の現愛人ということらしい。皇帝はこういう男性が好きなのだろうか。父とはあまりに違った。
「ゴンサレス公爵付きモニカ・サクラ・ヤマダ四等女官」
小さなざわめきが起きた。アマンダは懐かしい名まえに驚いた。何故ここで紹介されるのか。
「カルロス様の御愛妾よ」
マリコ夫人の説明にアマンダは眩暈がしそうになった。ドレスは地味だが上質な生地が使われていた。が、その表情は愛妾という華やかな呼び名とは裏腹に硬かった。アマンダの知る表情豊かなモニカはどこに行ってしまったのか。
天使のような少年とモニカの間に何があったのか、アマンダには正直わからない。ただモニカにとっては不本意なことだったのではないかと思われた。
無論、可哀そうと一言で言い表していいものではないだろう。だが、人々の好奇の目にさらされるのは忍びなかった。
皇族ならびにそれに準ずる者の入場の後、いよいよオーケストラの音楽が荘厳さを増した。
「皇帝陛下御入場」
全員頭を垂れた。
足音がした。速足だった。アマンダはこの前後宮の食事の間に入って来た時と同じだと思った。
「皆様、お顔を上げてください」
二回目の侍従の声で頭を上げた。
アマンダは息を呑んだ。重たげな宝石をちりばめた冠、光沢のある生地で作られた真紅のドレス、金色に輝くネックレス等光をまとったように見えた。さらに背後に巨大な輝きを背負っていると錯覚されるほどの力強さが感じられた。
オーケストラが国歌の前奏を奏でた。国歌斉唱である。初等学校で10番の歌詞まで叩き込まれるので皆歌えるが式典は一番のみである。
テラセカンドは 星々の 光集めた 国にして
民の心は いや高く 帝の慈悲は いや深し
帝國太祖アルフォンソ アレクサンドラ皇后の
作り給いし 都こそ 我らが誉 いざ進め
歌っていると呟きが聞こえた。
「相変わらず若作りね」
それはアマンダにしか聞こえなかった。夫人は皇帝を嫌っているらしい。軍務大臣夫人だから相応の家柄の出のはずだが。過去に何かあったのかもしれないと思った。でなければ若作りなどと口にするはずがない。だが、ここで理由を訊くわけにはいかない。
「皇帝陛下の御言葉」
侍従長の進行の下、しわぶき一つ聞こえない中、皇帝は厳かに言葉を述べた。
「今宵は舞踏会である。皆、存分に楽しむがよい。以上である」
たったこれだけだった。アマンダは呆気にとられた。が、いつものことらしく、オーケストラが優雅な曲を奏で始めると、人々は移動を開始した。
「まずは陛下や皇族の方々が中央で踊る。今年のデヴュタントはその周りで踊る。私も久しぶりだから足を踏まないようにするので精一杯だ。よろしく頼むよ」
軍務大臣はアマンダの緊張をほぐすように微笑んだ。
「ありがとうございます、閣下」
「さあ、行ってらっしゃい」
マリコ夫人に背中を押されるようにアマンダは大広間の若い人々の輪の中に加わった。皆、アマンダのメイクと軍務大臣のエスコートに目を見張った。
「あれがルシエンテスの」
「あれは大臣じゃないか」
「まあ、エスコートさせるなんて図々しい」
「まるで死神のようなメイクね」
「死刑執行を命令するくらいだからね」
想像していた言葉が次々に耳に飛び込む。誰も濃緑のドレスの意味など考えていない。
軍務大臣は咳払いした。おしゃべりは止んだ。
大広間の中央では皇帝とプルデンシオ・タメスのダンスが始まった。年齢を感じさせぬ軽やかなステップを踏む皇帝は美しかった。周りの皇族も踊り始めた。天使のようなゴンサレス公爵はモニカと手を取って踊っていた。モニカはいやいや踊っているようには見えなかった。とりあえずアマンダはほっとした。
かわいそうなのは叔父と踊る二人の皇孫だった。アレクサンドラはバンデラス伯爵と、バルバラはコマス子爵と踊っていたが、二人とも少しも楽しそうに見えなかった。特に十代の少女が好きなコマス子爵はニタニタ笑いながら踊っていて、アマンダは見ていられなかった。
曲調が変わった。若々しく明るい音色だった。
「さあ、出撃だ」
軍務大臣の声とともに若い人々が踊り始めた。アマンダも覚えてきたステップを踏んだ。
「うむ、うむ、いいぞ、その調子」
大臣の声は周囲によく通るので、くすくすと笑う声があちこちから聞こえた。けれど、アマンダはなんだか楽しくなってきた。
「さあ、回れ!」
アマンダはくるりと身を翻した。
「お見事!」
「援軍のおかげです」
アマンダの言葉に大臣は上機嫌になっていた。
とはいえ曲が終わると、さすがに大臣は疲れてしまった。
「ほんとに素晴らしかったです」
踊りの輪から抜けたアマンダはそう言って夫人に大臣を返した。
「あら、もっと踊っていてもよかったのに」
「いやはや、鍛えなおさねばな」
大臣はそう言いながらも微笑んでいた。
「お嬢さん、殿下を頼むよ。今夜は間に合わないだろうが、許してやってくれ」
アマンダは小さく頷いた、軍務大臣はまだ知らない。サカリアスが首都星に帰ってきたことを。
そこへエリアス・イバルロンドが近づいて来た。大臣夫妻は察してアマンダの前から離れた。
「踊っていただけますか」
サカリアスに士官学校時代に散々な目に遭わされた男である。が、断る理由はないし、こんなメイクや髪型の子爵令嬢にダンスを申し込む果敢な男性はいないだろうから、アマンダは喜んでと受け入れた。
さすがにエリアスは軍のエリートらしく、ダンスもうまかった。
一曲終わった後、エリアスは言った。
「公爵殿下になんとか御口添えしてくださいませんか。士官学校の時の妹の件を許してくださるように」
「え?」
「殿下は何も仰せにならないが、周りが知っているので何かと」
どうやらサカリアスに忖度してエリアスは軍の中で冷遇されているらしい。だが、サカリアスの性格からいって口添えは悪手のような気がした。
「それは、殿下に直に仰せになったほうがいいかと。殿下は遠回しなことをするのを嫌がります」
「え!」
エリアスの顔は恐怖に歪んだ。
「皆様、殿下を誤解されています。殿下は正直なことを第一にされます。私が口添えなどしたら、かえって火に油を注ぐことになります」
「そんな……」
エリアスは絶望の表情のまま、アマンダの前を走り去った。大の男、それも軍人の振舞とは思えず、アマンダは茫然となった。
「まったく近頃の若い者は」
その様子を見ていた軍務大臣はため息をついた。
「ん?」
大臣は入れ替わるようにアマンダに近づく男を見た。あの男も舞踏会に出るとは。これまでこういう場で見たことなどなかった。
「ルシエンテス子爵令嬢とお見受けしました」
アマンダは男をまじまじと見た。舞踏会に出られる年齢ぎりぎりに見えた。
「エルヴィン・リートフェルトと申します。軍統合本部警務局に奉職しております」
リートフェルト。貴族名鑑にはなかったような気がする。騎士だろうか。
「初めまして」
「サカリアス、いえビダル公爵とは大学時代の同期です」
サカリアスと同期とは信じられなかった。
「まあ、そうだったのですか」
「一曲お手合わせ願いますか」
「はい、喜んで」
相手は軍の関係者ばかりと思いながら、アマンダはエルヴィンに導かれ踊りの輪に飛び込んだ。
「まあ、アマンダったらとっかえひっかえ、いろんな男と踊って」
大広間の一画にある軽食のテーブルで皿にケーキや果物をたくさん載せてアルマは呟いた。
正面の玉座の右側にも扉があり、そこから皇子たちが入場すると侍従長が名を呼ぶ。呼ばれた皇子たちは夫人とともに玉座の一段下に並んだ。
アマンダの立つ場所は玉座からかなり離れていたがガルベス公爵夫妻の仲がよくないことは明らかだった。夫婦の一体感がないというか、よそよそしいのだ。しかもそれを二人とも隠そうともしない。
第二皇子バンデラス伯爵ブルーノは一人だった。本当にサカリアスの兄なのかと思うほど似ていなかった。きっと父親に似たのだろう。
第三皇子モンテス伯爵カミロ夫妻も不仲は明らかだった。近くで見ればカミロの手先が震えていることに気付いただろう。
第四皇子ウルバノ子爵ドロテオ夫妻は仲が良さそうに見えた。だが妻の顔がなんだか品がないように見えた。貴族出身ではないように見えた。
第五皇子コマス子爵エロイは独身。顔は悪くはないと思うが、あまり親しくなりたくない雰囲気だった。
第六皇子フーゴ男爵フラビオの顔は覚えていた。こんな人相の悪い人が皇族だというのは信じ難かった。
第七皇子のガスパルは警察に拘束されている。夫人はいるらしいがこの場に来れるはずもなかった。
とにかく皆お近づきになりたくない空気を発散させていた。
空気が清浄になったのは第九皇子ゴンサレス公爵カルロス・グラシアが入場してきた時だった。まるで天使のようだとアマンダは思った。金色の巻き毛、汚れを知らぬような長い睫毛に飾られた目は多くの人を魅了する力があった。
その後、皇帝の孫にあたるガルベス公爵の長女と次女が紹介された。
「ガルベス公爵長女アレクサンドラ皇孫殿下」
「同じく次女バルバラ皇孫殿下」
二人はほぼ同い年に見えた。舞踏会に出席できるのは18歳以上だから二人とも18歳くらいなのだろう。長女の髪はブルネット、次女の髪はブロンドで顔もあまり似ていないので双子ではないようだった。
「二人とも愛人の子。誕生日は三日違い」
マリコ夫人が耳元で囁いた。それはあんまりだとアマンダは思った。これで夫婦仲が良かったらどうかしている。
「星の離宮プルデンシオ・タメス」
出て来たのはタキシード姿のやさ男だった。見たことがあった。数年前にはやった恋愛ドラマの主人公役の俳優だった。商業学校の同級生の間ではライバル役の俳優と人気を二分していた。アマンダはライバル役の俳優がいいと思っていた。星の離宮ということは皇帝の現愛人ということらしい。皇帝はこういう男性が好きなのだろうか。父とはあまりに違った。
「ゴンサレス公爵付きモニカ・サクラ・ヤマダ四等女官」
小さなざわめきが起きた。アマンダは懐かしい名まえに驚いた。何故ここで紹介されるのか。
「カルロス様の御愛妾よ」
マリコ夫人の説明にアマンダは眩暈がしそうになった。ドレスは地味だが上質な生地が使われていた。が、その表情は愛妾という華やかな呼び名とは裏腹に硬かった。アマンダの知る表情豊かなモニカはどこに行ってしまったのか。
天使のような少年とモニカの間に何があったのか、アマンダには正直わからない。ただモニカにとっては不本意なことだったのではないかと思われた。
無論、可哀そうと一言で言い表していいものではないだろう。だが、人々の好奇の目にさらされるのは忍びなかった。
皇族ならびにそれに準ずる者の入場の後、いよいよオーケストラの音楽が荘厳さを増した。
「皇帝陛下御入場」
全員頭を垂れた。
足音がした。速足だった。アマンダはこの前後宮の食事の間に入って来た時と同じだと思った。
「皆様、お顔を上げてください」
二回目の侍従の声で頭を上げた。
アマンダは息を呑んだ。重たげな宝石をちりばめた冠、光沢のある生地で作られた真紅のドレス、金色に輝くネックレス等光をまとったように見えた。さらに背後に巨大な輝きを背負っていると錯覚されるほどの力強さが感じられた。
オーケストラが国歌の前奏を奏でた。国歌斉唱である。初等学校で10番の歌詞まで叩き込まれるので皆歌えるが式典は一番のみである。
テラセカンドは 星々の 光集めた 国にして
民の心は いや高く 帝の慈悲は いや深し
帝國太祖アルフォンソ アレクサンドラ皇后の
作り給いし 都こそ 我らが誉 いざ進め
歌っていると呟きが聞こえた。
「相変わらず若作りね」
それはアマンダにしか聞こえなかった。夫人は皇帝を嫌っているらしい。軍務大臣夫人だから相応の家柄の出のはずだが。過去に何かあったのかもしれないと思った。でなければ若作りなどと口にするはずがない。だが、ここで理由を訊くわけにはいかない。
「皇帝陛下の御言葉」
侍従長の進行の下、しわぶき一つ聞こえない中、皇帝は厳かに言葉を述べた。
「今宵は舞踏会である。皆、存分に楽しむがよい。以上である」
たったこれだけだった。アマンダは呆気にとられた。が、いつものことらしく、オーケストラが優雅な曲を奏で始めると、人々は移動を開始した。
「まずは陛下や皇族の方々が中央で踊る。今年のデヴュタントはその周りで踊る。私も久しぶりだから足を踏まないようにするので精一杯だ。よろしく頼むよ」
軍務大臣はアマンダの緊張をほぐすように微笑んだ。
「ありがとうございます、閣下」
「さあ、行ってらっしゃい」
マリコ夫人に背中を押されるようにアマンダは大広間の若い人々の輪の中に加わった。皆、アマンダのメイクと軍務大臣のエスコートに目を見張った。
「あれがルシエンテスの」
「あれは大臣じゃないか」
「まあ、エスコートさせるなんて図々しい」
「まるで死神のようなメイクね」
「死刑執行を命令するくらいだからね」
想像していた言葉が次々に耳に飛び込む。誰も濃緑のドレスの意味など考えていない。
軍務大臣は咳払いした。おしゃべりは止んだ。
大広間の中央では皇帝とプルデンシオ・タメスのダンスが始まった。年齢を感じさせぬ軽やかなステップを踏む皇帝は美しかった。周りの皇族も踊り始めた。天使のようなゴンサレス公爵はモニカと手を取って踊っていた。モニカはいやいや踊っているようには見えなかった。とりあえずアマンダはほっとした。
かわいそうなのは叔父と踊る二人の皇孫だった。アレクサンドラはバンデラス伯爵と、バルバラはコマス子爵と踊っていたが、二人とも少しも楽しそうに見えなかった。特に十代の少女が好きなコマス子爵はニタニタ笑いながら踊っていて、アマンダは見ていられなかった。
曲調が変わった。若々しく明るい音色だった。
「さあ、出撃だ」
軍務大臣の声とともに若い人々が踊り始めた。アマンダも覚えてきたステップを踏んだ。
「うむ、うむ、いいぞ、その調子」
大臣の声は周囲によく通るので、くすくすと笑う声があちこちから聞こえた。けれど、アマンダはなんだか楽しくなってきた。
「さあ、回れ!」
アマンダはくるりと身を翻した。
「お見事!」
「援軍のおかげです」
アマンダの言葉に大臣は上機嫌になっていた。
とはいえ曲が終わると、さすがに大臣は疲れてしまった。
「ほんとに素晴らしかったです」
踊りの輪から抜けたアマンダはそう言って夫人に大臣を返した。
「あら、もっと踊っていてもよかったのに」
「いやはや、鍛えなおさねばな」
大臣はそう言いながらも微笑んでいた。
「お嬢さん、殿下を頼むよ。今夜は間に合わないだろうが、許してやってくれ」
アマンダは小さく頷いた、軍務大臣はまだ知らない。サカリアスが首都星に帰ってきたことを。
そこへエリアス・イバルロンドが近づいて来た。大臣夫妻は察してアマンダの前から離れた。
「踊っていただけますか」
サカリアスに士官学校時代に散々な目に遭わされた男である。が、断る理由はないし、こんなメイクや髪型の子爵令嬢にダンスを申し込む果敢な男性はいないだろうから、アマンダは喜んでと受け入れた。
さすがにエリアスは軍のエリートらしく、ダンスもうまかった。
一曲終わった後、エリアスは言った。
「公爵殿下になんとか御口添えしてくださいませんか。士官学校の時の妹の件を許してくださるように」
「え?」
「殿下は何も仰せにならないが、周りが知っているので何かと」
どうやらサカリアスに忖度してエリアスは軍の中で冷遇されているらしい。だが、サカリアスの性格からいって口添えは悪手のような気がした。
「それは、殿下に直に仰せになったほうがいいかと。殿下は遠回しなことをするのを嫌がります」
「え!」
エリアスの顔は恐怖に歪んだ。
「皆様、殿下を誤解されています。殿下は正直なことを第一にされます。私が口添えなどしたら、かえって火に油を注ぐことになります」
「そんな……」
エリアスは絶望の表情のまま、アマンダの前を走り去った。大の男、それも軍人の振舞とは思えず、アマンダは茫然となった。
「まったく近頃の若い者は」
その様子を見ていた軍務大臣はため息をついた。
「ん?」
大臣は入れ替わるようにアマンダに近づく男を見た。あの男も舞踏会に出るとは。これまでこういう場で見たことなどなかった。
「ルシエンテス子爵令嬢とお見受けしました」
アマンダは男をまじまじと見た。舞踏会に出られる年齢ぎりぎりに見えた。
「エルヴィン・リートフェルトと申します。軍統合本部警務局に奉職しております」
リートフェルト。貴族名鑑にはなかったような気がする。騎士だろうか。
「初めまして」
「サカリアス、いえビダル公爵とは大学時代の同期です」
サカリアスと同期とは信じられなかった。
「まあ、そうだったのですか」
「一曲お手合わせ願いますか」
「はい、喜んで」
相手は軍の関係者ばかりと思いながら、アマンダはエルヴィンに導かれ踊りの輪に飛び込んだ。
「まあ、アマンダったらとっかえひっかえ、いろんな男と踊って」
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