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17 見るだけのお菓子
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ギモーヴ?
何それ?
最近、知らない名まえのお菓子が増えたような気がする。
子どもの頃に比べて、今はお菓子・ケーキの種類が増えた。
子どもの頃に母の手作りで食べたのは、ホットケーキ、蒸しパン、みかん入りの寒天、プリンの素を冷やして作るプリン、それから夏はシャービック(シャーベットのようなもの)、かき氷、冬はぜんざい等だった。
クレープというのがはやり始めた時、自分で作ってみたけれど、フライパンでうまく焼くには油が多くないといけなかったので、油ギトギトのクレープになってしまって悲しかった。
蒸して作るプリンも茶碗蒸しの失敗作のようになってしまった。
蒸しパンやホットケーキ、パウンドケーキ、寒天、ぜんざいなら失敗しないのだが。
いつの頃からか、テレビ等によって様々な世界のお菓子が知られるようになった。今思えば、マスコミが作った流行だったのだろう。
古くはティラミス。
初めて見たのは公共放送の料理番組だった。イタリアのお菓子ということで紹介されていた。
ずいぶん凝った作りのお菓子だと思った。これは作れないと思った。そもそもマスカルポーネチーズどころかクリームチーズですら、田舎には売っていなかった。
しばらくしてマスコミで紹介されもてはやされるようになったけれど、作るよりもケーキ屋で買うケーキという感じだった。
それ以降、クレームブリュレ、タピオカ、ナタ・デ・ココ、パンナコッタ、ワッフル、マカロン等々、様々なものが流行した。
どれも自分で手軽に作るというよりは、店で買ったほうがおいしい物という感じがする。
マカロンなんて綺麗な色だけれど、卵白の泡立てというのは結構難しい。スポンジケーキを卵の別立てで作ったことがあるけれど、卵白は湯せんしながら泡立てても結構手間がかかるし、粉と混ぜる時に泡が消えてしまう。あれはプロでないと作れない菓子だと思う。
それに洋菓子店で買うにしても、定番のケーキなら味に大差はないから、流行のものはあまり買わない。
かくして見るだけのケーキが増えたように思う。
見るだけのケーキといえば、私の手元に一冊のケーキ本がある。真っ赤な表紙に白い文字で「貴婦人が愛したお菓子」というタイトル、その下には金色の文字でフランス語タイトル、そして著者の名である「今田美奈子」と白い文字で記されていた。
表紙中央から下の部分にはマンノトン侯爵夫人の愛した「マンノトン侯爵夫人の桃のコンポート」と「シャルロット・マンノトン」の写真が縦長の楕円形にトリミングされたものが配置されている。そのお菓子の色合いは地味なものだが、品の良さが感じられた。
これこそ見るだけのケーキの本である。
なにしろ、大部分は貴婦人たちと彼女達の愛した菓子について書かれた部分と貴婦人たちの写真・菓子の写真で構成されており、作り方は全160ページの最後の32ページだけ。それも材料と作り方の手順だけで、制作中の写真などはない。
材料は日本でも作りやすいようにアレンジされているけれど、それでも洋ナシの缶詰とかピスタチオは当時近くの店にはなかったと思う。
従って、この本のレシピで掲載された菓子を作ったことはない。
どうしてこの本を買ったのか記憶にない。お年玉をもらうと本屋に行って本を買っていたので、その時に買ったのかもしれない。なにしろ定価2300円とあり、当時そんな大金を本に費やせるのはお年玉のある時ぐらいだったから。
私はこれをむさぼるように読んだ。歴史上の人物と菓子のエピソードは心弾むものだった。三銃士に登場するリシュリュー枢機卿が家庭的なお菓子を好んでいたとか、テーブル用のナイフの先を丸くするようにフランス中に御触れを出していたとか、想像もつかなかった。
他にもフランス国王の愛妾たちにちなんだ様々な菓子を見ると、サロンに集まった文化人は洒落た会話だけでなく、こういう菓子を食べるのも楽しんでいたのだろうと想像され、微笑ましくなった。
私のヨーロッパの貴族のイメージの何割かを形作ったのはこの一冊と漫画「ベルサイユのばら」といってもいい。
貴婦人たちの愛したお菓子に似た菓子も流行りのケーキ同様に店で買うことができる。たとえばメッテルニヒお抱えのコックだったザッハの作ったザッハ・トルテに似たチョコレートケーキはたぶんあちこちの洋菓子店にあると思う。
ただ、こちらには歴史がある。貴婦人のみならず、政治家や王たちにまつわる物語がある。見るだけ食べるだけではなく歴史を垣間見るようなワクワクする気持ちがしてくるのは私だけだろうか。
流行のケーキもいつか定着するだろう。そうなった時にどんな物語がそこに付け加えられるのだろうか。
さて、冒頭のギモーヴだが、フランスのマシュマロと言われているらしい。
レシピを調べると、様々な種類があり、材料も手ごろなものを使ったものもある。
近いうちに作ってみたいと思う。
何それ?
最近、知らない名まえのお菓子が増えたような気がする。
子どもの頃に比べて、今はお菓子・ケーキの種類が増えた。
子どもの頃に母の手作りで食べたのは、ホットケーキ、蒸しパン、みかん入りの寒天、プリンの素を冷やして作るプリン、それから夏はシャービック(シャーベットのようなもの)、かき氷、冬はぜんざい等だった。
クレープというのがはやり始めた時、自分で作ってみたけれど、フライパンでうまく焼くには油が多くないといけなかったので、油ギトギトのクレープになってしまって悲しかった。
蒸して作るプリンも茶碗蒸しの失敗作のようになってしまった。
蒸しパンやホットケーキ、パウンドケーキ、寒天、ぜんざいなら失敗しないのだが。
いつの頃からか、テレビ等によって様々な世界のお菓子が知られるようになった。今思えば、マスコミが作った流行だったのだろう。
古くはティラミス。
初めて見たのは公共放送の料理番組だった。イタリアのお菓子ということで紹介されていた。
ずいぶん凝った作りのお菓子だと思った。これは作れないと思った。そもそもマスカルポーネチーズどころかクリームチーズですら、田舎には売っていなかった。
しばらくしてマスコミで紹介されもてはやされるようになったけれど、作るよりもケーキ屋で買うケーキという感じだった。
それ以降、クレームブリュレ、タピオカ、ナタ・デ・ココ、パンナコッタ、ワッフル、マカロン等々、様々なものが流行した。
どれも自分で手軽に作るというよりは、店で買ったほうがおいしい物という感じがする。
マカロンなんて綺麗な色だけれど、卵白の泡立てというのは結構難しい。スポンジケーキを卵の別立てで作ったことがあるけれど、卵白は湯せんしながら泡立てても結構手間がかかるし、粉と混ぜる時に泡が消えてしまう。あれはプロでないと作れない菓子だと思う。
それに洋菓子店で買うにしても、定番のケーキなら味に大差はないから、流行のものはあまり買わない。
かくして見るだけのケーキが増えたように思う。
見るだけのケーキといえば、私の手元に一冊のケーキ本がある。真っ赤な表紙に白い文字で「貴婦人が愛したお菓子」というタイトル、その下には金色の文字でフランス語タイトル、そして著者の名である「今田美奈子」と白い文字で記されていた。
表紙中央から下の部分にはマンノトン侯爵夫人の愛した「マンノトン侯爵夫人の桃のコンポート」と「シャルロット・マンノトン」の写真が縦長の楕円形にトリミングされたものが配置されている。そのお菓子の色合いは地味なものだが、品の良さが感じられた。
これこそ見るだけのケーキの本である。
なにしろ、大部分は貴婦人たちと彼女達の愛した菓子について書かれた部分と貴婦人たちの写真・菓子の写真で構成されており、作り方は全160ページの最後の32ページだけ。それも材料と作り方の手順だけで、制作中の写真などはない。
材料は日本でも作りやすいようにアレンジされているけれど、それでも洋ナシの缶詰とかピスタチオは当時近くの店にはなかったと思う。
従って、この本のレシピで掲載された菓子を作ったことはない。
どうしてこの本を買ったのか記憶にない。お年玉をもらうと本屋に行って本を買っていたので、その時に買ったのかもしれない。なにしろ定価2300円とあり、当時そんな大金を本に費やせるのはお年玉のある時ぐらいだったから。
私はこれをむさぼるように読んだ。歴史上の人物と菓子のエピソードは心弾むものだった。三銃士に登場するリシュリュー枢機卿が家庭的なお菓子を好んでいたとか、テーブル用のナイフの先を丸くするようにフランス中に御触れを出していたとか、想像もつかなかった。
他にもフランス国王の愛妾たちにちなんだ様々な菓子を見ると、サロンに集まった文化人は洒落た会話だけでなく、こういう菓子を食べるのも楽しんでいたのだろうと想像され、微笑ましくなった。
私のヨーロッパの貴族のイメージの何割かを形作ったのはこの一冊と漫画「ベルサイユのばら」といってもいい。
貴婦人たちの愛したお菓子に似た菓子も流行りのケーキ同様に店で買うことができる。たとえばメッテルニヒお抱えのコックだったザッハの作ったザッハ・トルテに似たチョコレートケーキはたぶんあちこちの洋菓子店にあると思う。
ただ、こちらには歴史がある。貴婦人のみならず、政治家や王たちにまつわる物語がある。見るだけ食べるだけではなく歴史を垣間見るようなワクワクする気持ちがしてくるのは私だけだろうか。
流行のケーキもいつか定着するだろう。そうなった時にどんな物語がそこに付け加えられるのだろうか。
さて、冒頭のギモーヴだが、フランスのマシュマロと言われているらしい。
レシピを調べると、様々な種類があり、材料も手ごろなものを使ったものもある。
近いうちに作ってみたいと思う。
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