生まれて旅して恋して死ぬ、それが殿様の仕事です

三矢由巳

文字の大きさ
上 下
7 / 128
第一章 悪童(元禄十一年~宝永二年)

06 剣術の修行

しおりを挟む

 サファ王子がシズを見上げる。少し悩んで正直に言った。
「ありますよ。誰も信じてくれなさそうな大きな秘密が」
「それはお前だけの秘密か? 」
「いや、私の育ての親は知っています。あと二人ぐらい」
 ジャモン。それとカーネスとドッペルゲンガー。
「なぜそのことを秘密にしている?」
「誰も信じてくれなさそうだからですよ。下手すりゃ頭のおかしい人だと思われる」
「それを私に教えてくれないか? 」
 サファ王子の瞳は切に願っていた。秘密が欲しい。子どもじみた悩みだ。けれどこの子は切実だ。秘密があれば、この子は少し今の不自由に耐えられるのだろうか。シズは考える。
「本当にふざけた内容ですよ。王子は馬鹿にされているってきっと思う」
「思わん」
 サファ王子は言い切った。
「私を信用できないのか? 私は子どもだから信用できないか? 」
 この子は誰でもいいから信じて貰いたいのか。信じてもらえないことにふてて逃げているのか。
「……じゃあ信用します。誰にも言わないでくださいね」
 からかうなと怒られることを予想して、シズは言った。
「私、この世界の人間ではないんですよ」
 サファ王子の顔は見ないまま話を続けた。
「こことは違う世界で生まれ育ったんです。そしてある日理由も分からずこの世界に連れて来られました。それで、元の世界に戻るために今色々調べています」
 サファ王子は黙ったままだった。怒ったと思って、シズは王子の横顔を見る。怒っているよう様子はなかった。
「ほら、ふざけてるでしょう? 」
「でも、本当なのだろう」
 シズはぎょっとした。いくら子どもでも信じるとは思わなかった。
「信じるんですか? 」
 サファ王子は頷いた。
「王子、もう少し人を疑うことを覚えた方がいいですよ。こんな所に私を連れて来たりとか。私が悪い奴だったら王子攫われちゃいますよ」
「城には嘘つきが多い。本当のことを言っている者の見極めぐらいはできる」
 サファ王子はしっかりとシズを見つめ返した。反発していても少しずつ環境を受け入れようとしている。
「どうやってこの世界に連れて来られたんだ? 」
「私とそっくりな奴にキスされて気絶していたらいつの間に」
 サファ王子は顔を真っ赤にした。
「嫁入り前なのに接吻をしたのかっ! 」
「接吻っ! 」
 そんな言葉が子どもから出るのはおかしく,シズは我慢できずにゲラゲラ笑った。サファ王子は怒った。
「お前、笑い事ではないぞ! 心を通わせてもいない者同士が口づけを交わすとは、」
「いや、もう、いいです。ありがとうございます。それより私が女だって分かってたんですね。よく間違われるんですけど」
「ガサツそうに見えるが女だってことぐらい分かった」
 意外と子どもの方が人の本質を見抜くのかもしれないとシズは思った。男とか女とか。善とか悪とか。
「それで、話の続きは? 」
「ああ。それで私をこっちに連れてきた犯人は私のそっくりさんの他にもう一人いましてね。そのもう一人を捜すために城人になる勉強をしているんです」
「そうか……」
 サファ王子はどこか嬉しそうだった。
「そうか。心配するな、秘密は守るぞ。私は王子だ」
 そう屈託なく笑った。素直な可愛い子だとシズは笑みを零す。
「お前だけに秘密を言わせるのはよくないな。それこそずるい。よし、私もお前に秘密をあげよう」
 秘密の交換がしたいサファ王子が胸を張った。
「ぜひ」
「この国の者の誰にも言ったことがない秘密の話だ。絶対に秘密だからな」
「分かってますって」
 子どもの話だけれど、シズは少しワクワクした。サファ王子は周りを見渡し誰もいないことを確かめると私に顔を寄せた。
「私が七歳の時のパーティーでこの秘密を教えて貰った」
「王子は今おいくつで?」
「九歳だ」
 二年前の話。
「その時、インデッセの王が来国していた」
 インデッセの王。シズは嫌な記憶が蘇り頬を引きつる。
「インデッセの王の叔母も来られていて私に秘密のおとぎ話をしてくださった」
「秘密のおとぎ話?」
「リチという姫と銀の妖精の話だ。滞在中、何度もしてくれた」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたりの旅路

三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。 志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。 無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

江戸の櫛

春想亭 桜木春緒
歴史・時代
奥村仁一郎は、殺された父の仇を討つこととなった。目指す仇は幼なじみの高野孝輔。孝輔の妻は、密かに想いを寄せていた静代だった。(舞台は架空の土地)短編。完結済。第8回歴史・時代小説大賞奨励賞。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

処理中です...