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太陽の国から来た男
7 女神 ★
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視線に犯されている。
凝視する視線を感じる。
無理もなかろうと思う。きっと、女性のこの部分を見る機会などなかったはずだから。
けれど、少し長過ぎるように思えた。
「イクサブロウ、どうしたの」
「あなたの性器があまりに美しかったので見とれていたのです」
インガレス語を使っているので、露骨な表現になっているのがおかしかった。俗語を彼は知らないのだろう。カロリーネには初々しく感じられた。
「この花はあなたのためにあるの。何をしても構わないのよ」
そう言って両足をいっそう大きく開き、膝を立てた。
「花をいただきます」
イクサブロウはゆっくりと両足の間に膝を突き、花びらに指で触れた。花びらからこぼれる露で指を濡らし、周辺を撫で始めた。まるで精緻なガラスの器を撫でるように。だが、その刺激だけで、腰から背筋にかけて駆け抜ける快感があった。
「あっ、ああっ、ああああ!」
幾度も声を上げるうちに、指は花びらの奥へと侵入していく。人差指一本だけでも、長らく使われていなかった奥への細い道はびりびりと刺激を感じた。もっと感じたくて、腰をうねらせた。すると指がもう一本加わった。中指だろう。長さの違う中指と人差指が同時に出入りするたびに先端の当たる場所が違うので刺激は倍になるかと思われたが、それ以上だった。
「いやあ、そんなの! どうして!」
クロードの指のほうが長く、与えられる快感は大きかったはずなのに、今青年の指が与える快楽はそれよりもはるかに多彩だった。しかも泉から湧き上がる愛のしぶきはますます激しくなった。静かな屋根裏部屋に水音が淫猥に響くさまは、カロリーネをいよいよ興奮させた。
「ああっ、お願い、来て!」
イクサブロウは何も言わず指を抜くと、鋼のように硬くなった一物を花びらに宛がった。たったそれだけでカロリーネの花びらから全身に雷が走った。身体中が快楽の予感と欲望で満たされていく。
くいっと、硬いそれが花びらの中心を穿っていく。バラの花びらが散っていく幻がカロリーネの脳裏をよぎった。散っていく。クロードと育てた真紅のバラが。けれど悲しみはなかった。このバラはまた新たに花開くのだ。イクサブロウが放った愛の矢の力で。もっと鮮やかに、もっと艶やかに。
花びらの奥へ奥へと若茎は進んだ。だが、痛みは感じなかった。凶器をも連想させる硬さでありながら、カロリーネの中の形に適応したかのようにしなやかだった。
一体、この感覚を何に喩えればいいのだろうか。カロリーネは困惑していた。慎ましやかに見えてしなやかで硬い一物はクロードとは違い過ぎた。痛みがあるかもしれぬと思ったのに、少しもなく、むしろ心地よさがあった。
そんなことを思ううちに、中の動きが止まった。
青年は大きく息を吐いた。
「快適だ」
インガレス語だった。カロリーネは恐ろしくなった。
カロリーネは行為の際にはナストリアの公用語のゲマルン語で思考し、声もそちらが多い。クロードはたまに別の言語で言わせたが、それは語学の学習の一環だった。クロードを喜ばせるために時には彼の母語のフロラン語で嬌声を発したこともあった。だが、それはある程度理性を保っていなければできない。
イクサブロウという青年がいまだ理性を保ったままであるというのが、カロリーネには信じられなかった。本能のままに夢中になっていればジルパンの言葉が発せられるはずと思っていた。
言い知れぬ不安が胸に兆した。彼は、カロリーネが想像するのとは違う人間ではないのか?
一分にも満たぬうちに、イクサブロウは動き始めた。
「え?!」
その動きにカロリーネは目を見張った。ゆっくりだったのは最初だけで、その後はアンダンテの速度を維持したまま、一物は浅く数度抜き差しされ、少し物足りぬと感じた次の瞬間、奥深くへと突進してきた。
「あうっ!」
初めてカロリーネはその硬さを中で実感した。突かれた瞬間、目の奥で火花が散ったように感じられた。
初めてだった。
が、イクサブロウは容赦せず、また浅く抜き差ししたかと思うと数度目で深く突いた。またも火花が明滅した。そのたびに火花が身体中に広がるように、快感が全身を包んだ。
幾度もそれが繰り返されるうちに、カロリーネはたまりかねて叫んだ。
「おねがい! 深く、もっと!」
イクサブロウは一物の動きで返答した。早い動きで奥を幾度も幾度も突いた。しかもなかなか果ててくれなかった。クロードならもう二回くらいは果てていたかもしれないと考えられたのは翌朝になってからの話である。
カロリーネは全身に広がる快楽をそのまま受け止めた。意識せずとも自然とイクサブロウの一物を締め付けていた。ますます、それがイクサブロウの一物を硬くした。まるで、イクサブロウが持っていた短い刀のようだとカロリーネはちらっと思ったが、すぐにまた一物に突かれると欲望の他は何も考えられなくなった。
欲しい。もっと、この快楽が。
若茎などという生易しいものではなかった。これは短刀だ。カロリーネは自分の上で腰を振るイクサブロウの身体から滴り落ちる汗を身体に受け止めながら思った。
その短刀に、カロリーネの花びらは散らされ、泉はかき混ぜられた。それでもこんこんと泉は湧き続け、イクサブロウの短刀からこぼれる露と混じり合い、淫靡な音が生まれる。
そこにイクサブロウの吐息とカロリーネの嬌声が加わり、愛の協奏曲が奏でられる。
やがて協奏曲はクライマックスに達し、イクサブロウの動きが速くなったかと思うと、急に止まった。その瞬間、カロリーネは短刀に刺し貫かれたかのように意識が朦朧となった。目の裏では火花がやまず、果てるともなく続くと思われる光の祭典が繰り広げられた。
長い時間意識がなかったような気がした。だが、胸の上に頭をもたれさせたイクサブロウの息の荒さからさほど時はたっていないようだった。カロリーネは額にかかる乱れた髪を撫でてやった。イクサブロウの吐息が乳首にかかり、背筋から下半身に快楽が走った。
「愛しいあなた」
口からこぼれた言葉は真実だった。クロードとは違うけれど、彼もまた愛おしい。
汗まみれの顔のイクサブロウが微笑んだように見えた。カロリーネは抱きしめた。ほんのりと汗の匂いがした。不快な匂いではない。
だが、カロリーネの花はむせかえるような愛の香りを漂わせて、イクサブロウをさらに刺激したようだった。
「夢のようだ」
上半身を起こしたイクサブロウはそう言うと、一物を抜かずにまた動き始めた。
カロリーネははっとした。中の物は萎えてなどいなかった。カロリーネの中にみっちりと詰まったままだった。
「嘘?!」
返事はなかった。その代りにまたも一物は先ほどの浅い突きと深い突きを繰り返した。カロリーネの身体も意思に反して、それをやすやすと受け入れていた。泉の水は尽きることを知らぬかのように湧き、硬くしなやかな短刀を奥へと導いた。
一度奥を突かれれば、もうカロリーネには抵抗する意思はなくなってしまった。ただただ欲しくてたまらなくなる。
身体を揺らしながら、ともに最高潮に達するのにさほど時間はかからなかった。
意識を取り戻したカロリーネは己の欲望の深さにため息をついた。いまだ萎えぬ短刀はまだ花の奥に突き刺さったままである。快楽を求めてやまぬ身体は短刀を咥え込んだまま、しとどに露に濡れる花びらを震わせていた。
これ以上溺れてはいけない。きっと離れられなくなる。そっと身体を上にずらし、短刀を抜こうとした。だが、不意に肩を掴まれた。
「行かないで」
ジルパンの言葉だった。カロリーネは動揺した。ずっと理性を保っていたイクサブロウが初めて母語を話した。
「いけないわ。これ以上は」
「いけませんか」
今度はインガレス語でイクサブロウは尋ねた。
「ええ」
ただ血を吸えればよかったのだ。ここまで深い関係になるつもりはなかった。それなのに、今もまだ中に短刀が半分残ったままの状態だった。中途半端な状態なのに、泉は涸れることがなかった。
「わかりました」
ずるりと抜かれた瞬間、後悔のような感情がカロリーネを襲った。辛うじて理性で抑えた。
と、不意に抱き締められた。
「夢だったら醒めないで欲しい。あなたを抱き締めていたい」
恐ろしいほどにまっすぐな情熱がカロリーネの胸を熱くする。けれど、これ以上はいけない。クロードを忘れてしまいそうになるのが怖かった。
「いけません」
「殿様より愛してくださいとは言いません。でも、今宵のことは忘れないでください。私も忘れません」
なんと可愛いことをこの青年は言うのか。硬くたくましい短刀でカロリーネの花を貫いておきながらクロード以上に愛してくれなくともいいと言うとは。忘れることなどできるはずもないのに、忘れないでくださいとは。愛されなくとも記憶に留めて欲しいという一途な思いはあまりに慎まし過ぎた。それは愛を求めるどんな言葉よりも、カロリーネの心を震わせた。
いつか地獄に行く日が来たら、クロードに咎められるかもしれない。けれど、それまでは。
カロリーネはイクサブロウの身体を抱き締めた。
「忘れないわ。愛しています」
イクサブロウの唇が唇に触れた。歓喜の言葉など必要ないほど雄弁な唇だった。いや、唇だけではなく、指も肌も何もかもが雄弁に、カロリーネへの愛を語った。
腰に触れる指、乳房を弄ぶ指、下腹に押し付けられる硬い短刀のような一物、じっとりと濡れる肌、すべてがカロリーネへの愛を伝える。
これに応えないわけにはいかなかった。
カロリーネは身体を上にずらし自らの花弁に短刀を誘った。その動作の意味に気付かぬはずもなく、イクサブロウは躊躇なく、押し入った。先ほどよりもさらに硬くなったように感じられるそれが中の壁を勢いよく突いた瞬間、壁全体が一物をぎゅっと抱きしめるかのように狭まった。
艶やかな吐息が青年の口からこぼれた。
カロリーネの締め付けに青年は必死に抗い、抽送を繰り返した。激しく動く一物はカロリーネの中を縦横無人に暴れまわるドラゴンを思わせた。若茎という表現は誤りだったとしか思えない。鱗のない鋼のようなドラゴンを柔らかなカロリーネの身体は包み込んで離さなかった。ドラゴンの頭に中の柔壁を突かれるたび、快感が増幅していく。
二人は互いの名を幾度も呼んだ。
「カロリーネ、愛しい人」
艶のある声で囁かれるだけで、全身を稲妻のような慄きが走った。
こんなにも自分を求める人がここにいる。ならば、それに応えたかった。
自分が神に背く存在であることも、クロードの妻であったことも忘れ、カロリーネはともに身体を揺らし、快楽の甘い果実を貪り合った。
幾三郎もまた異郷で出会った佳人との夢のような一夜を存分に味わっていた。
ひとしきり身体を交えた後、カロリーネに囁いた。
「まるであなたは巫山の女神だ」
「フザンの女神?」
「古代中国で王が昼寝をしていると夢に女神が現われて情交を求めたのです。交わりを終えると女神は私は巫山の南に住んでいて、朝は雲となり夕べは雨となってあなたのそばにいると言って消えました」
カロリーネの知らぬ物語であった。
「その後、二人は会えたの?」
「いいえ。ただ一度のことです」
寂しい話に思えた。
「それなら私は霧となってあなたの元へ参ります」
戯れに言った言葉だった。
「私はあなたの霧に濡れたい」
囁きとともに抱き締められたカロリーネの身体は歓びに震えていた。こんなにも愛される歓びがこの世にあるとは。
クロードの愛は深くカロリーネの身体と心に刻みつけられている。けれど、イクサブロウの真っ直ぐな愛は刻みつけられた場所をさらに深く抉っていった。心地よい言葉と激しい交わりによって。
凝視する視線を感じる。
無理もなかろうと思う。きっと、女性のこの部分を見る機会などなかったはずだから。
けれど、少し長過ぎるように思えた。
「イクサブロウ、どうしたの」
「あなたの性器があまりに美しかったので見とれていたのです」
インガレス語を使っているので、露骨な表現になっているのがおかしかった。俗語を彼は知らないのだろう。カロリーネには初々しく感じられた。
「この花はあなたのためにあるの。何をしても構わないのよ」
そう言って両足をいっそう大きく開き、膝を立てた。
「花をいただきます」
イクサブロウはゆっくりと両足の間に膝を突き、花びらに指で触れた。花びらからこぼれる露で指を濡らし、周辺を撫で始めた。まるで精緻なガラスの器を撫でるように。だが、その刺激だけで、腰から背筋にかけて駆け抜ける快感があった。
「あっ、ああっ、ああああ!」
幾度も声を上げるうちに、指は花びらの奥へと侵入していく。人差指一本だけでも、長らく使われていなかった奥への細い道はびりびりと刺激を感じた。もっと感じたくて、腰をうねらせた。すると指がもう一本加わった。中指だろう。長さの違う中指と人差指が同時に出入りするたびに先端の当たる場所が違うので刺激は倍になるかと思われたが、それ以上だった。
「いやあ、そんなの! どうして!」
クロードの指のほうが長く、与えられる快感は大きかったはずなのに、今青年の指が与える快楽はそれよりもはるかに多彩だった。しかも泉から湧き上がる愛のしぶきはますます激しくなった。静かな屋根裏部屋に水音が淫猥に響くさまは、カロリーネをいよいよ興奮させた。
「ああっ、お願い、来て!」
イクサブロウは何も言わず指を抜くと、鋼のように硬くなった一物を花びらに宛がった。たったそれだけでカロリーネの花びらから全身に雷が走った。身体中が快楽の予感と欲望で満たされていく。
くいっと、硬いそれが花びらの中心を穿っていく。バラの花びらが散っていく幻がカロリーネの脳裏をよぎった。散っていく。クロードと育てた真紅のバラが。けれど悲しみはなかった。このバラはまた新たに花開くのだ。イクサブロウが放った愛の矢の力で。もっと鮮やかに、もっと艶やかに。
花びらの奥へ奥へと若茎は進んだ。だが、痛みは感じなかった。凶器をも連想させる硬さでありながら、カロリーネの中の形に適応したかのようにしなやかだった。
一体、この感覚を何に喩えればいいのだろうか。カロリーネは困惑していた。慎ましやかに見えてしなやかで硬い一物はクロードとは違い過ぎた。痛みがあるかもしれぬと思ったのに、少しもなく、むしろ心地よさがあった。
そんなことを思ううちに、中の動きが止まった。
青年は大きく息を吐いた。
「快適だ」
インガレス語だった。カロリーネは恐ろしくなった。
カロリーネは行為の際にはナストリアの公用語のゲマルン語で思考し、声もそちらが多い。クロードはたまに別の言語で言わせたが、それは語学の学習の一環だった。クロードを喜ばせるために時には彼の母語のフロラン語で嬌声を発したこともあった。だが、それはある程度理性を保っていなければできない。
イクサブロウという青年がいまだ理性を保ったままであるというのが、カロリーネには信じられなかった。本能のままに夢中になっていればジルパンの言葉が発せられるはずと思っていた。
言い知れぬ不安が胸に兆した。彼は、カロリーネが想像するのとは違う人間ではないのか?
一分にも満たぬうちに、イクサブロウは動き始めた。
「え?!」
その動きにカロリーネは目を見張った。ゆっくりだったのは最初だけで、その後はアンダンテの速度を維持したまま、一物は浅く数度抜き差しされ、少し物足りぬと感じた次の瞬間、奥深くへと突進してきた。
「あうっ!」
初めてカロリーネはその硬さを中で実感した。突かれた瞬間、目の奥で火花が散ったように感じられた。
初めてだった。
が、イクサブロウは容赦せず、また浅く抜き差ししたかと思うと数度目で深く突いた。またも火花が明滅した。そのたびに火花が身体中に広がるように、快感が全身を包んだ。
幾度もそれが繰り返されるうちに、カロリーネはたまりかねて叫んだ。
「おねがい! 深く、もっと!」
イクサブロウは一物の動きで返答した。早い動きで奥を幾度も幾度も突いた。しかもなかなか果ててくれなかった。クロードならもう二回くらいは果てていたかもしれないと考えられたのは翌朝になってからの話である。
カロリーネは全身に広がる快楽をそのまま受け止めた。意識せずとも自然とイクサブロウの一物を締め付けていた。ますます、それがイクサブロウの一物を硬くした。まるで、イクサブロウが持っていた短い刀のようだとカロリーネはちらっと思ったが、すぐにまた一物に突かれると欲望の他は何も考えられなくなった。
欲しい。もっと、この快楽が。
若茎などという生易しいものではなかった。これは短刀だ。カロリーネは自分の上で腰を振るイクサブロウの身体から滴り落ちる汗を身体に受け止めながら思った。
その短刀に、カロリーネの花びらは散らされ、泉はかき混ぜられた。それでもこんこんと泉は湧き続け、イクサブロウの短刀からこぼれる露と混じり合い、淫靡な音が生まれる。
そこにイクサブロウの吐息とカロリーネの嬌声が加わり、愛の協奏曲が奏でられる。
やがて協奏曲はクライマックスに達し、イクサブロウの動きが速くなったかと思うと、急に止まった。その瞬間、カロリーネは短刀に刺し貫かれたかのように意識が朦朧となった。目の裏では火花がやまず、果てるともなく続くと思われる光の祭典が繰り広げられた。
長い時間意識がなかったような気がした。だが、胸の上に頭をもたれさせたイクサブロウの息の荒さからさほど時はたっていないようだった。カロリーネは額にかかる乱れた髪を撫でてやった。イクサブロウの吐息が乳首にかかり、背筋から下半身に快楽が走った。
「愛しいあなた」
口からこぼれた言葉は真実だった。クロードとは違うけれど、彼もまた愛おしい。
汗まみれの顔のイクサブロウが微笑んだように見えた。カロリーネは抱きしめた。ほんのりと汗の匂いがした。不快な匂いではない。
だが、カロリーネの花はむせかえるような愛の香りを漂わせて、イクサブロウをさらに刺激したようだった。
「夢のようだ」
上半身を起こしたイクサブロウはそう言うと、一物を抜かずにまた動き始めた。
カロリーネははっとした。中の物は萎えてなどいなかった。カロリーネの中にみっちりと詰まったままだった。
「嘘?!」
返事はなかった。その代りにまたも一物は先ほどの浅い突きと深い突きを繰り返した。カロリーネの身体も意思に反して、それをやすやすと受け入れていた。泉の水は尽きることを知らぬかのように湧き、硬くしなやかな短刀を奥へと導いた。
一度奥を突かれれば、もうカロリーネには抵抗する意思はなくなってしまった。ただただ欲しくてたまらなくなる。
身体を揺らしながら、ともに最高潮に達するのにさほど時間はかからなかった。
意識を取り戻したカロリーネは己の欲望の深さにため息をついた。いまだ萎えぬ短刀はまだ花の奥に突き刺さったままである。快楽を求めてやまぬ身体は短刀を咥え込んだまま、しとどに露に濡れる花びらを震わせていた。
これ以上溺れてはいけない。きっと離れられなくなる。そっと身体を上にずらし、短刀を抜こうとした。だが、不意に肩を掴まれた。
「行かないで」
ジルパンの言葉だった。カロリーネは動揺した。ずっと理性を保っていたイクサブロウが初めて母語を話した。
「いけないわ。これ以上は」
「いけませんか」
今度はインガレス語でイクサブロウは尋ねた。
「ええ」
ただ血を吸えればよかったのだ。ここまで深い関係になるつもりはなかった。それなのに、今もまだ中に短刀が半分残ったままの状態だった。中途半端な状態なのに、泉は涸れることがなかった。
「わかりました」
ずるりと抜かれた瞬間、後悔のような感情がカロリーネを襲った。辛うじて理性で抑えた。
と、不意に抱き締められた。
「夢だったら醒めないで欲しい。あなたを抱き締めていたい」
恐ろしいほどにまっすぐな情熱がカロリーネの胸を熱くする。けれど、これ以上はいけない。クロードを忘れてしまいそうになるのが怖かった。
「いけません」
「殿様より愛してくださいとは言いません。でも、今宵のことは忘れないでください。私も忘れません」
なんと可愛いことをこの青年は言うのか。硬くたくましい短刀でカロリーネの花を貫いておきながらクロード以上に愛してくれなくともいいと言うとは。忘れることなどできるはずもないのに、忘れないでくださいとは。愛されなくとも記憶に留めて欲しいという一途な思いはあまりに慎まし過ぎた。それは愛を求めるどんな言葉よりも、カロリーネの心を震わせた。
いつか地獄に行く日が来たら、クロードに咎められるかもしれない。けれど、それまでは。
カロリーネはイクサブロウの身体を抱き締めた。
「忘れないわ。愛しています」
イクサブロウの唇が唇に触れた。歓喜の言葉など必要ないほど雄弁な唇だった。いや、唇だけではなく、指も肌も何もかもが雄弁に、カロリーネへの愛を語った。
腰に触れる指、乳房を弄ぶ指、下腹に押し付けられる硬い短刀のような一物、じっとりと濡れる肌、すべてがカロリーネへの愛を伝える。
これに応えないわけにはいかなかった。
カロリーネは身体を上にずらし自らの花弁に短刀を誘った。その動作の意味に気付かぬはずもなく、イクサブロウは躊躇なく、押し入った。先ほどよりもさらに硬くなったように感じられるそれが中の壁を勢いよく突いた瞬間、壁全体が一物をぎゅっと抱きしめるかのように狭まった。
艶やかな吐息が青年の口からこぼれた。
カロリーネの締め付けに青年は必死に抗い、抽送を繰り返した。激しく動く一物はカロリーネの中を縦横無人に暴れまわるドラゴンを思わせた。若茎という表現は誤りだったとしか思えない。鱗のない鋼のようなドラゴンを柔らかなカロリーネの身体は包み込んで離さなかった。ドラゴンの頭に中の柔壁を突かれるたび、快感が増幅していく。
二人は互いの名を幾度も呼んだ。
「カロリーネ、愛しい人」
艶のある声で囁かれるだけで、全身を稲妻のような慄きが走った。
こんなにも自分を求める人がここにいる。ならば、それに応えたかった。
自分が神に背く存在であることも、クロードの妻であったことも忘れ、カロリーネはともに身体を揺らし、快楽の甘い果実を貪り合った。
幾三郎もまた異郷で出会った佳人との夢のような一夜を存分に味わっていた。
ひとしきり身体を交えた後、カロリーネに囁いた。
「まるであなたは巫山の女神だ」
「フザンの女神?」
「古代中国で王が昼寝をしていると夢に女神が現われて情交を求めたのです。交わりを終えると女神は私は巫山の南に住んでいて、朝は雲となり夕べは雨となってあなたのそばにいると言って消えました」
カロリーネの知らぬ物語であった。
「その後、二人は会えたの?」
「いいえ。ただ一度のことです」
寂しい話に思えた。
「それなら私は霧となってあなたの元へ参ります」
戯れに言った言葉だった。
「私はあなたの霧に濡れたい」
囁きとともに抱き締められたカロリーネの身体は歓びに震えていた。こんなにも愛される歓びがこの世にあるとは。
クロードの愛は深くカロリーネの身体と心に刻みつけられている。けれど、イクサブロウの真っ直ぐな愛は刻みつけられた場所をさらに深く抉っていった。心地よい言葉と激しい交わりによって。
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