西の女吸血鬼は美味なる血を持つ東の若侍に恋をした

三矢由巳

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太陽の国から来た男

6 あなたが欲しい ★

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 ほどよいところで首筋から口を離した。咬み痕が小さく残ったが、じきに消えるだろう。
 その瞬間、イクサブロウは力を失ったかのようにカロリーネの身体に寄りかかった。血を吸われて貧血になったのだ。
 よくあることなので、カロリーネは身体をベッドに横たえてやった。
 白い顔が一層白く見えた。
 身体の小さいジルパンの人間は吸う血の量を加減しなければならないようだ。だが、味はすこぶる美味だった。あっさりとしているが、旨味があった。これを吸い過ぎないようにするのは難しいだろう。

「んんっ」

 何やら呻きを発した。もうすぐ起きるかもしれぬ。カロリーネは部屋を早く出なければならなかった。目覚めて彼女の姿がなければ夢だと思ってくれるだろうから。
 けれど、カロリーネはその顔から目が離せなかった。ジルパンの者にしては高い鼻、長いまつげ、濃い桃色の唇など整った容貌は見飽きなかった。唇から発せられる呻きもまた可愛げがあった。ミャーロッパの男達にはない独特の魅力というべきか。
 寝台に腰かけたまま、身体を傾けてイクサブロウの顔を見つめた。
 と、そのまぶたが開いた。ぱっちりとした目はカロリーネを映した。

「あなたは」

 まずいと思い、立ち上がろうとした。だが、イクサブロウの身体の動きが早かった。あっという間もなくカロリーネの身体は、寝台の上に仰向けにされ、イクサブロウに見下ろされていた。彼は柔術を故国で習得していたのだ。

「何をなさいますの?」

 イクサブロウのブラウンの瞳はカロリーネだけを映していた。

「夢なら醒めないで欲しい。あなたが欲しい」

 どうやら血を吸われてぼんやりしているために夢を見ていると思っているらしい。だが、夢を見ていても女性の身体をベッドに押し倒せるとは、一体いかなる術を使ったのか。もしや、ジルパンではそのような武術を皆会得しているのか。カロリーネは混乱していた。
 何より、欲しいなどと言われるのはクロード以来である。好意を寄せる男達はいたが、皆伯爵夫人という肩書のせいか、遠回しな表現しかしない。社交界で欲望をそのまま口にするのは野暮、不作法というものである。
 だが、彼は違った。そして、それを不作法とはカロリーネは感じなかった。むしろ、素直で可愛いと思った。はるか年下の東洋の青年に求められていることが嬉しかった。
 カロリーネは心の奥にクロードの面影をしまい込んだ。クロード以上に好きになれるはずがない。だから今だけ許してと。

「いいわ、来て」

 カロリーネの返事も終わらぬうちに、イクサブロウは身体にのしかかって、口づけた。可愛いことと、カロリーネは青年を抱きしめた。寝間着らしい見慣れぬ衣装を隔てても、昂ぶる若茎わかぐきの感触がわかった。先ほど吸った血のせいか、体内には精気が漲っている。この青年の可愛い欲望に応えることぐらい造作もないことだと思った。
 小鳥のつがい同士がついばむような口づけを繰り返すうちに、身体が熱くなってきた。

「服を脱ぎたいの」

 イクサブロウは身体をずらして、カロリーネが寝台から降りるのを助けてくれた。そしてカロリーネがマントを外し、床にそのまま落とすのをじっと見ていた。その目には明らかに情欲が滲んでいた。あの丸顔の青年がティーカップを持つ指に向けた視線を思い出す。あの青年もあの時、もしかするとカロリーネの指に欲望を刺激されていたのかもしれない。だが、イクサブロウの視線のほうが、カロリーネには快かった。身体が自然と潤ってくるような感覚があった。

「手伝って。ボタンを外して」

 ドレスを脱ぐのに背中のボタンを外してもらう必要があった。青年はゆっくりとベッドから降り、カロリーネの背後に回った。すぐに一番上のボタンが外れた。首筋が楽になった。ボタンが一つ外れるたびに、身体が自由になっていく。最後のボタンを外した後、袖から腕を抜き、ドレスをそのまま下へ落とした。コルセットはしていない。締め付けなくても、カロリーネの身体にはくびれがあった。
 シュミーズとドロワーズだけの姿でカロリーネは振り返った。机の上に置かれたランプの灯りが、青年の頬の赤みを照らしていた。

「あなたもお脱ぎなさい」

 カロリーネがそう言うと、青年は寝間着の帯を解いた。カロリーネは脱いだドレスをまたいで、前が開いた寝間着を肩から落としてやった。露わになった白い肌に濃い毛は見えなかった。股間だけを覆った白い下着は「ふんどし」というものらしい。

「それはどうやったらほどけるのかしら」

 ふんどしに手を伸ばそうとすると青年は拒んだ。

「自分でやります」
「わかったわ」

 カロリーネは青年の手をじっと見つめた。長い指が大切な部分を覆った白い布を巧みに解いていく。解かれた布に覆われていた場所が次第に露わになっていく。ほんのりと若茎の肌色が布の上から透けて見え、カロリーネは息を呑んだ。布をすべて取り去ると若茎が黒い繁みから勢いよく跳ね上がった。

 それは青年の物らしい慎ましやかな太さと長さだった。版画の男とは大違いだった。どうやらジルパンの画家たちは強調したいものを大きく描く慣習があるらしい。比較しては悪いが、クロードのほうが長かった。けれど、カロリーネは恥ずかし気に俯く青年を見ているうちに、愛しく思えてきた。慎ましいジルパンの男にふさわしい物ではないか。

「こっち見て」

 カロリーネはシュミーズを脱ごうと裾を掴んだ。そのありさまを見つめる青年の目は驚きを隠さなかった。カロリーネはわざと時間をかけてシュミーズの裾をゆっくりと上に捲り上げた。乳房が見えるか見えないかの位置で動きを止め、肩紐からゆっくりと腕を抜いた。すべて脱ぐと、さっとその場に落とした。露わになった乳房に向けられる視線を感じるだけで、先端が固くなった。
 ややかがんでドロワーズの上部に手をかけ、ゆっくりと下ろしていく。右足を抜き、左足を抜き、それをまたその場に落とした。
 向かい合う何も身に着けぬ男女は互いの目を見つめ合った。確認の言葉はいらなかった。
 カロリーネはベッドに腰かけると、わざと青年の目に見えるように、足を大きく開いて仰向けになった。髪の毛と同じ金色の巻き毛に隠された秘所は湿り気を帯びているためか、ランプの光を受けて輝いた。
 青年が生唾を呑み込む音が聞こえた。
 まるで生まれたばかりの仔猫が母猫の乳房の匂いに引き寄せられるように、青年はベッドの上のカロリーネの白い身体の上に覆いかぶさり、その乳首に口づけた。
 舌の先で舐められた瞬間、久しく忘れていた官能がカロリーネの中に甦った。クロードの面影がよぎった。だが、今は忘れなければならない。クロードのことを思い出しながら、青年と交わるのは青年に失礼だし、地獄の住人となったクロードもいい気分はしないだろう。この可愛い青年を今は思いっきり可愛がってあげよう。年上の女の余裕でカロリーネは微笑んだ。
 
「イクサブロウ、可愛い人」

 ぎゅっと抱き締めると、引き締まった身体が汗ばんでいるのがわかった。けれど嫌な臭いもしないし、胸毛もない。まるで少女のようだ。

「Je t’aime」

 青年の口からフロラン語が漏れた。なんと小生意気な。こんな時でもジルパンの言葉を使わぬとは。カロリーネは少しばかり癪な気がして、腹に当たる青年の若茎に手を伸ばした。

「え?!」

 指先で触れたそれの硬さに、カロリーネは何かの間違いではないかと思った。

 カロリーネはクロードしか知らない。クロードの身体を基準としてイクサブロウの身体を見ていた。
 クロードより身体が小さいので、持っている物も相応の物だと思っていた。
 けれど、今触れたそれは鋼のように硬く感じられた。クロードの柔らかな感触とは違った。一体これは……。これが人の物とは……。
 混乱するカロリーネをよそに、青年はカロリーネのもう一方の乳房を揉み始めた。手のひら全体で包み込んで優しく、ゆっくりと。

「あっ、ああっ!」

 思わず漏れた喘ぎに、カロリーネ自身が驚いた。ただこれだけの動きで感じるなど。いくら久しくこういう行為がなかったとはいえ、簡単に声が出てしまうとは。

「気にしないで。タッカーさん達は耳が遠いから」

 イクサブロウが囁いた。いまだ冷静な青年を興奮させたくて、カロリーネは触れていた若茎をぎゅっと握った。

「んんん!」

 鼻から抜けるような呻き声は艶があった。
 それを可愛いと思いながらも、いっそう硬く張り詰めた感触にカロリーネは緊張を覚えた。二十年以上開かれることのなかった場所をこれが押し開いて、クロードのよりも硬い先端に奥を突かれたらどうなってしまうのか想像するだけで下腹がジンジンと熱くなってくる。
 と、青年の指が今度は乳房の先端を摘まんだ。すでに固く盛り上がった先端を軽く摘ままれただけで、びりびりと背筋に走るものがあった。思わず抱き付くと、唇に唇が触れた。

「ん!」

 半ば開いていた唇を押し開くように舌が入ってきた。思いもかけないことだった。自分よりも背丈が低いのに、こんな口づけを知っているなんて。
 舌はカロリーネの口の中を思う存分動いた。歯茎、頬の裏、ありとあらゆる場所に触れ、最後に舌を軽くチョンと突いた。たまらず、カロリーネも舌を舐め、青年の唾液を啜った。それは苦くなかった。クロードは葉巻を吸っていたので独特の苦味があった。
 この青年はクロードと比べると無味無臭だった。苦味も体臭もない。肌もきめ細やかで少女のようだった。それなのに、今、カロリーネは青年の口づけと愛撫に我を忘れて夢中になっていた。
 唇が離れた途端、カロリーネは口走っていた。

「はあっ! おねがい、もっと!」

 イクサブロウの舌が先ほどまで摘まんでいた乳首の先端をぺろりと舐めた。刹那、じわりと泉の水が愛を求めて湧き出した。
 青年は身体を起こし、カロリーネの両足の間に座り、泉の入口を凝視した。
 見られている。それだけで泉が溢れた。




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