西の女吸血鬼は美味なる血を持つ東の若侍に恋をした

三矢由巳

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さすらい

2 カポレオン時代 ★

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 フロランの革命は国王とナストリア皇女であった王妃の処刑という悲劇、さらには革命派の内部抗争による相次ぐ処刑と血なまぐさい様相を呈した。
 それに終止符を打ったのは、地挟海に浮かぶコラシカ島生まれのフロラン軍人カポレオンだった。カポレオンはクーデターによって権力を得て、ついには皇帝へと上り詰めた。
 そんな政情を横目に、クロードとカロリーネは現在フロラン南部の町で裕福な商人夫婦として暮らしている。
 革命時ネルランドにいた二人であったが、ジルパンの言語の学習については堪能な者は現地に通訳として行っているということで、帰国を待つことにした。が、フロランの革命軍がネルランドを占領したため、混乱を避けて二人は神聖帝国、ついでフロランに移動した。
 その間、クロードからフロラン語や標準ゲマルン語、アイタリヤ語、ネルランド語等を学んだ。おかげで言語には困らなくなった。
 マリイとルイーズは屋敷の家政婦として仕えていた。マリイは新たにに使い魔となった白鼠のジャンと結婚した。ジャンは執事をやっている。ルイーズもジャックという使い魔の白鼠と結婚した。ジャックは御者である。
 小間使いはマリイとルイーズの親戚だというテレーズが担当している。テレーズは髪の結い方に長けていて、流行の型を取り入れた髪型で外出すると、皆カロリーネに注目した。
 クロードは目立ち過ぎるのはよくないと思ったものの、この土地にいるのも数か月のことと大目に見ていた。それに髪型に関わりなくカロリーネの容貌は男達の目を引いた。どんな髪型であっても、注目されてしまうのだ。
 クロードもカロリーネも容姿にほとんど変化はない。クロードは三十代、カロリーネは二十前に見える。だから、同じ場所に長く滞在することはできない。ネルランド国内にいたのは四年ほどだったが、その間に六回滞在場所を変えている。神聖帝国でも七カ所移動している。
 今の町はフロランに来て五カ所目である。年内にはここを出て北ミャーロッパに行こうとクロードは計画していた。



 夏の終わりの夕暮れ時、カロリーネは庭に出てバラを摘んでいた。夕食のテーブルに飾るためである。
 真紅のバラを数本摘んだ時だった。背中に視線を感じた。
 屋敷を囲む二メートルほどの高さの石垣の上から軽薄そうな雰囲気を漂わせた若い男が顔を覗かせていた。カロリーネと視線が合うと男はにっこりと笑った。

「マダム、少しお話を」

 テレーズが最近、妙な男がいると言っていたのはこれだなと思い、カロリーネはさっと踵を返し、屋敷に入った。
 夕食の後、クロードはカロリーネの話を聞き、眉をひそめた。

「人の妻を寝取ろうとするやからだ。油断するな」

 思いもかけぬことだった。確かに気味の悪い男であったが。

「でも、食事にはいいんじゃないかしら」
「いや、そういう人間の血を吸うのはよくない。何の関わりもない人間だからこそ、我らのことをすぐ忘れるのだ。そなたに好意を持っているとなると、簡単には忘れぬのだ」
「そんなものかしら」
「そんなものだ。それが証拠に、そなたも余に血を吸われても余のことを忘れなかったであろう。そなたは余を心から愛していたからだ」

 カロリーネは頬をわずかに赤らめた。初めての夜のことを思い出した。もう十年以上たっているが、今思い出しても身体が熱くなってくる。

「カロリーネ」

 クロードは両手でカロリーネの手のひらを包んだ。



 その日のクロードは激しくカロリーネを求めた。

「そなただけだ、我が愛しき女よ」

 そう言って深く口づけられながら、手は乳房を激しく揉みしだいた。カロリーネの身体はそれだけでクロードを迎え入れる支度ができてしまう。けれど、クロードはすぐには満たしてはくれない。
 カロリーネのいまだみずみずしい白い腿の奥に湧く泉に指を浸すだけ浸しても、一物は入れてくれない。カロリーネは煽られるだけ煽られているのに満たされぬままだった。

「クロード、お願い」

 喘ぐようにして口にすると、クロードはいつになく意地の悪い口振りで囁いた。

「何をして欲しい? アイタリヤ語で言ってごらん」

 まるで試験だった。カロリーネは頭の中の言葉の抽斗ひきだしから言葉を探した。

「あなたが欲しいの」
「余はいつでも、そなたのものだ」
「ちがう、ちがうのよ」

 駄々っ子のように首を振ったカロリーネにクロードは自分の一物を指さして見せた。

「これが欲しいのか? 名まえを言ってくれないか」

 一物は天を向いてそそり立っていた。いつか見たジーパンの絵の男のものほどではないが、それでもいつもよりそれは膨張しているように見えた。
 名まえは知っている。けれど、それを口にするのはいくらアイタリヤ語であってもはしたないことだった。クロードはどんなに激しい行為をしても、そのようなことを求めることはなかった。
 けれど、身体の奥から欲望が滾るのを抑えられなかった。

cazzoおちんちんをちょうだい」

 言ってしまった。カロリーネは恥ずかしさで身もだえしそうだった。

「よく言えた」

 クロードのそれが一気に泉に突入した。
 これが欲しかった。先ほどまでの羞恥など消え去ってしまった。

「クロード、ああ、クロード!」

 溢れる泉の奥の歓びの洞窟を突かれて、カロリーネは歓喜にむせび泣いた。これまで何百回、何千回となく繰り返された行為だが、飽きることなどなかった。クロードもまた飽くことなく、カロリーネのそこから歓喜を汲みだすことに歓びを感じていた。

「カロリーネ、余のことだけを考えろ。他の男のことなど忘れろ」

 快楽に溺れそうになる中、カロリーネはクロードの今日の行為は、あの若い男のせいなのだと気づいた。あの男にクロードは心乱されているらしい。
 可愛いクロード。あんな子どもに心惹かれるわけなどないのに。カロリーネはクロードを悦ばせようと、泉の口を締めつけた。

「あっ、何を! ああっ、いいぞ!」

 以前は出来なかったことだが、行為を繰り返すうちに、カロリーネは自在に泉の口を締められるようになっていた。そんな時のクロードの喘ぎがカロリーネは好きだった。
 カロリーネはクロードの胸に手を伸ばし、乳首を指先で弄んだ。クロードがくぐもった声で喘いだ。同時に泉の奥で一物がはじけるように蠢いた。



 行為の後、寄り添うカロリーネにクロードは囁く。

「そなたは美しい。誰にも渡さぬ」
「私はクロード様のものです」

 少し声が上ずるのは、クロードが乳首を指で弄んでいるからである。

「永遠に愛し合おう」

 カロリーネは身体の疼きを感じていた。先ほどまで燃え盛っていた火はまだ身体の奥で熾火となって残っていた。そこに乳首を弄ばれているのだから、熾火が再び燃え盛るのは時間の問題だった。
 クロードはその熱に気付いたのか、再びカロリーネを抱き締めた。

「今度は私が」

 カロリーネはクロードの身体の上に跨った。クロードの一物はみるみるうちに回復していった。カロリーネはそれを愛でるように撫で先端のまろみを舌の先で一舐めした。クロードの喘ぎに背筋がぞくぞくしてきた。
 溢れる泉の欲するまま、カロリーネは一物を咥えんとゆっくりと腰を沈めていった。泉の奥まで入れると、クロードが切なげな表情を浮かべた。
 愛しさでカロリーネの胸はいっぱいになった。
 
「クロード、私は永遠に貴方のもの」

 その言葉を体現するかのように、カロリーネはクロードの一物を包み込んだまま、小刻みに身体を上下させた。動きは次第に速度を増してゆく。
 興奮と歓喜を感じながら、カロリーネは次第にその時が迫るのを感じていた。一物と泉が触れ合うたびに背筋を駆け抜ける快楽は次第にカロリーネを頂点へとせきたてる。

「クロード!」

 その瞬間、目の前にまばゆい光が明滅し、全身がこわばった。真っ暗な世界に二人だけが溶け合っていく。
 この瞬間に灰になってもいい。カロリーネはそう思った。
 クロードは己の身体の上で歓喜の涙をこぼすカロリーネを抱き締めた。永遠の時間を生きねばならない自分とともに生きる花嫁。彼女を手放したくなかった。彼女といつまでも愛し合いたい。灰になどなりたくなかった。



「また、あの男がうろついてました」

 翌日の夕刻、テレーズは目覚めたばかりの女主人に報告した。

「困ったわね」

 男の存在はクロードを刺激する。たまのことならいいが、毎日現れるのは望ましいことではない。

「ジャックが調べてくれました。パン屋の末息子で、一か月前に修行していたパロのパン屋をクビになったようで」

 地元のパン屋のドラ息子と関わり合いになるのはまずい。
 クロードに話すと、潮時だなと言った。カロリーネは少しばかり残念だった。今いるフロバソス地方は住みやすかった。空気はいいし、食べ物はおいしいし、人々は余計な詮索をしない。

「百年たって、我らのことを覚えている者がいなくなった頃にまた来ればいい」

 前の町を出る時もクロードは同じことを言っていた。

「それに、近々、カポレオンがインガレスに軍隊を出すらしい。西ミャーロッパはしばらくは落ち着かなくなる。北へ行けばさほど影響はない。それにあちらには友人もいる」

 日照時間が短くなる秋から冬にかけて北ミャーロッパに住む吸血鬼は多い。

「カポレオンはまだ戦争をするの?」
「インガレスとの関係が悪化している。インガレスはナストリアやラマノアと同盟を結ぶつもりらしいから、そうなるとミャーロッパ全土に戦いが広がる恐れがある。もっとも、そうなればパン屋のドラ息子も兵士に駆り出されるがな。大丈夫だ、怖がらなくていい」

 それはわかっている。クロードと一緒にいれば大丈夫だ。けれど、戦争の混乱は恐ろしい。ネルランドにフロランの革命軍が侵入した時の騒ぎを思い出すと、今も動悸を覚えるのだ。



 翌日の夜、隣人に急病の親戚を見舞いに行くと言ってカロリーネはクロードとともにジャックの操る馬車で町を出た。
 小間使いたちとジャンも遅れて家を出た。
 何も知らぬパン屋の息子は寝床の中でうるわしのマダムの夢を見ていた。



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