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序章 1791年
1 月光 ★
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青白い顔の男を思わせる色の月の光が開け放たれた窓から差し込んだ。
光は抱き合う男女の姿を照らした。
「カロリーネ、そなたはなんと美しいのだ」
抱き締められ耳元でやや低めの声でささやかれた女はうっとりとした表情を浮かべた。
「侯爵様」
「クロードと呼んでくれ」
「クロード、お願い」
男は女を両腕で抱き上げ、そばの天蓋の付いたベッドに横たえた。
女は男を期待のこもったまなざしで見上げた。男が脱いで投げた黒いマントはそばの椅子の背もたれを覆った。その上に次々に着ていたものが投げられていく。
女もまた自ら、寝間着を脱ぎ捨てた。
「クロード……来て」
全身無駄のない肉付きの男は裸の女の上に覆いかぶさった。
女の白い肌がみるみるうちに興奮で赤みを帯びていった。
「カロリーネ、そなたの肌の色はまことに麗しい」
男はそう言いながら、乳房の先端を長い指の先でこねまわした。女ははあっと声を上げた。
重なった唇が、女をさらに興奮させた。冷たい男の唇が女を狂わせていく。女のもう一つの唇は潤いに満ちて男の訪れを待ちわびていた。
男の唇は唇から首筋に下がってゆく。ゆっくりと移動する感触が、女の身体にピリピリと刺激を走らせる。首の中ほどに口づけられるのと同時に、男の一物が女の中に押し入った。愛撫の必要がないほど、女の中はすっかり濡れそぼち、男のものをしっかりと咥えこんだ。
「ああ、クロード……、なんて素敵……」
交わったのはこれが三度目だというのに、女はすっかり男に魅了されていた。数日前まで乙女であったと誰が信じるであろうか。
「いいか、今宵、そなたは余の花嫁になるのだ」
首筋にあてた唇をいったんわずかに離した男は念を押すように言った。
「はい」
これ以外の答えなど女には考えられなかった。
男は返事を合図に、ゆっくりと腰を動かし始めた。女は小さな息を吐き始めた。まだ理性は彼女の声を制御していた。が、次第に理性が男の獣性に冒されていく。男の動きが次第に早くなる。
ラルゴからアダージョ、アンダンテ、モデラート、アレグレット……。
その頃になると、女の息は喘ぎに変わっていた。もう抑えられない。
「はあっ、あああ、あああっ、ああん……クロード!」
「もう少しだ」
プレスト、プレスティッシモになる頃には、女の理性は完全に本能に抑えられた。
「あああああああっ、いいいっ! きてえ、クロード!」
男は女が絶頂を迎えると見るや、首筋に口づけた。が、よく見れば、彼の唇は血の色に濡れていた。
女は白い首をのけぞらせた。男はその首に口づけたまま、腰を振った。女は足をひきつらせていた。
次第に女の顔が青ざめていった。
男は唇を離すこともなく、一物を抜くこともなく、そのまま女を抱いていた。
やがて、女は男の腰をつかんでいた両手、からませていた両足を力なく、ベッドの上に投げ出した。
男はゆっくりと、女の身体から離れた。
男の唇の端から赤い血が垂れたのを月の光が照らした。血走った目をした男は一物を抜いた。
女は動かなかった。赤みを帯びていた肌は真っ青になっていた。
男はベッドから降りると、女の枕元に立った。
「花嫁よ、目覚めよ」
その声に女は右手をゆっくりと上に挙げた。男はその手をつかんで、女を起き上がらせた。
「そなたは余が妻、カロリーネ」
女は男を見上げた。
「余とともに永遠の命を生きるのだ」
「永遠?」
女は男を見上げた。その目には生気がなかった。男はうなずいた。
「そうだ。永遠に、生き、愛し合う。誰にも邪魔はさせぬ」
女は男の手を借りてゆっくりとベッドから降りた。
二人の青白い裸体を月が静かに照らしていた。
ミャーロッパ大陸の中央に位置するナストリア帝国の山岳地帯にある小さな村で領主の娘が行方不明になったと大騒ぎになったのは翌朝のことである。二階の寝室の窓が開け放たれたままで、館の玄関から出た形跡はまったくなかった。
羊飼いの若者が、前日旅立ったはずの領主の家の客人フロランのモンテデール侯爵が夜明け前に娘と一緒に馬車に乗って国境へ向かったのを見たと言ったものの、誰も信じなかった。若者は少々うつけ者と村で評判だったのだ。それにフロランの革命騒ぎを逃れて来た貴族が再びナストリア国外に出て行くはずなどないと誰もが思っていた。
領主は八方手を尽くして娘を探したが、結局見つからぬまま時は流れた。やがて娘のカロリーネという名も、そんな娘がいたことも人々の記憶から消え去ってしまった。
光は抱き合う男女の姿を照らした。
「カロリーネ、そなたはなんと美しいのだ」
抱き締められ耳元でやや低めの声でささやかれた女はうっとりとした表情を浮かべた。
「侯爵様」
「クロードと呼んでくれ」
「クロード、お願い」
男は女を両腕で抱き上げ、そばの天蓋の付いたベッドに横たえた。
女は男を期待のこもったまなざしで見上げた。男が脱いで投げた黒いマントはそばの椅子の背もたれを覆った。その上に次々に着ていたものが投げられていく。
女もまた自ら、寝間着を脱ぎ捨てた。
「クロード……来て」
全身無駄のない肉付きの男は裸の女の上に覆いかぶさった。
女の白い肌がみるみるうちに興奮で赤みを帯びていった。
「カロリーネ、そなたの肌の色はまことに麗しい」
男はそう言いながら、乳房の先端を長い指の先でこねまわした。女ははあっと声を上げた。
重なった唇が、女をさらに興奮させた。冷たい男の唇が女を狂わせていく。女のもう一つの唇は潤いに満ちて男の訪れを待ちわびていた。
男の唇は唇から首筋に下がってゆく。ゆっくりと移動する感触が、女の身体にピリピリと刺激を走らせる。首の中ほどに口づけられるのと同時に、男の一物が女の中に押し入った。愛撫の必要がないほど、女の中はすっかり濡れそぼち、男のものをしっかりと咥えこんだ。
「ああ、クロード……、なんて素敵……」
交わったのはこれが三度目だというのに、女はすっかり男に魅了されていた。数日前まで乙女であったと誰が信じるであろうか。
「いいか、今宵、そなたは余の花嫁になるのだ」
首筋にあてた唇をいったんわずかに離した男は念を押すように言った。
「はい」
これ以外の答えなど女には考えられなかった。
男は返事を合図に、ゆっくりと腰を動かし始めた。女は小さな息を吐き始めた。まだ理性は彼女の声を制御していた。が、次第に理性が男の獣性に冒されていく。男の動きが次第に早くなる。
ラルゴからアダージョ、アンダンテ、モデラート、アレグレット……。
その頃になると、女の息は喘ぎに変わっていた。もう抑えられない。
「はあっ、あああ、あああっ、ああん……クロード!」
「もう少しだ」
プレスト、プレスティッシモになる頃には、女の理性は完全に本能に抑えられた。
「あああああああっ、いいいっ! きてえ、クロード!」
男は女が絶頂を迎えると見るや、首筋に口づけた。が、よく見れば、彼の唇は血の色に濡れていた。
女は白い首をのけぞらせた。男はその首に口づけたまま、腰を振った。女は足をひきつらせていた。
次第に女の顔が青ざめていった。
男は唇を離すこともなく、一物を抜くこともなく、そのまま女を抱いていた。
やがて、女は男の腰をつかんでいた両手、からませていた両足を力なく、ベッドの上に投げ出した。
男はゆっくりと、女の身体から離れた。
男の唇の端から赤い血が垂れたのを月の光が照らした。血走った目をした男は一物を抜いた。
女は動かなかった。赤みを帯びていた肌は真っ青になっていた。
男はベッドから降りると、女の枕元に立った。
「花嫁よ、目覚めよ」
その声に女は右手をゆっくりと上に挙げた。男はその手をつかんで、女を起き上がらせた。
「そなたは余が妻、カロリーネ」
女は男を見上げた。
「余とともに永遠の命を生きるのだ」
「永遠?」
女は男を見上げた。その目には生気がなかった。男はうなずいた。
「そうだ。永遠に、生き、愛し合う。誰にも邪魔はさせぬ」
女は男の手を借りてゆっくりとベッドから降りた。
二人の青白い裸体を月が静かに照らしていた。
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羊飼いの若者が、前日旅立ったはずの領主の家の客人フロランのモンテデール侯爵が夜明け前に娘と一緒に馬車に乗って国境へ向かったのを見たと言ったものの、誰も信じなかった。若者は少々うつけ者と村で評判だったのだ。それにフロランの革命騒ぎを逃れて来た貴族が再びナストリア国外に出て行くはずなどないと誰もが思っていた。
領主は八方手を尽くして娘を探したが、結局見つからぬまま時は流れた。やがて娘のカロリーネという名も、そんな娘がいたことも人々の記憶から消え去ってしまった。
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