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九 もう一つの家族

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 妄想はともかく、老婦人も昔は若かったんだな。
 御成婚とか、はるか昔の話だしな。
 テニスコートの恋。古き良き時代のシンデレラだ。
 ばあさんがこの人は笑ってるけれど本当は苦労してるんだよと、見てきたように語ってたっけ。



 昭和三十年代に軽井沢に別荘のある階層か。恐らく父親は会社の重役クラスなんだろうな。母親もそれなりの家の出だろう。苦労らしい苦労も知らないお嬢様が同じような家に嫁いだということか。
 


 東海道新幹線に五輪。
 戦争に負けて二十年もたってないのに。
 アメリカ人は勘違いしたんだろうな。戦争に負けても、二十年もすれば日本みたいになると思ったんだろうな、よその国も。
 そう簡単にいくもんじゃないだろう。
 日本だってずいぶん無理してたんだと思う。
 そして日本人もアメリカ人同様勘違いしたんだと思う。
 経済が落ち込んでも、頑張ればなんとかる。赤字財政になってもなんとかなると。
 いくら頑張っても、人が増えなきゃどうしようもないんだが。
 高度経済成長は人口が増加したからっていう理由もあると思う。
 今は人手不足でつぶれる会社があるし、何より消費者がいないから物を作っても売れない。
 子どもを増やす有効的な政策をもっと早くに行ってれば……。



 昭和四十年は一九六五年だから、盛之は八十というわけか。まったく頑丈な人だ。恐らく一緒に日露で戦った人達はほとんど亡くなっていたのだろう。その人から見た第二次世界大戦は一体どのように見えていたのか。
 そういえば、まだ女性の平均寿命も八十いってないから、もう大姑は亡くなっているのかもしれないな。
 明治生まれの大舅、大正生まれの舅、姑。そんな家族に囲まれて英子さんの結婚生活も大変だったに違いない。



 ここでまた人間関係整理。

 盛正 英子の舅
 盛正の妻(男爵家の出) 英子の姑
 華子 盛正の長女・商社の重役夫人
 盛紀 盛正の長男・英子の夫
 英子 手紙の書き手
 盛和 盛紀と英子の長男
 哲子のりこ 盛和の長女・盛紀と英子の孫



 家族が増えていったのは、俺のところも一緒だ。
 ひいばあさんが死んだ後、ばあさん、トミノという名前だが、男の子を産んだ。ところがこの人も後家の相があるのか、夫に死なれた。肺結核だったと聞いている。
 男の子を抱え未亡人になったトミノばあさんもまた母親のように苦労するかと思ったら、一年後、薬剤師の免許を持っている男に求婚され結婚し、貞吉ひいじいさんが閉めてしまった洞田薬局を再開することになった。
 二人の間に女の子が二人生まれた。下の女の子こそ、俺の母親明子だ。
 母と父の結婚については、俺には本当のところはよくわからない。
 他人が語るのを聞いたことはあるが、果たしてそれが本当なのか、尋ねることはできなかった。なんとなくきいてはいけないことのような気がしたのだ。
 今ならきけるかもしれない。両親が生きていたらの話だが。
 ただ一つきかなくてもわかっていることはある。父は母だけを愛していたのだ。愚かなほどに。
 裏切られても、父は母を愛していたのだ。
 子どもの俺には理解できなかったけれど。


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