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絡まる謎
漆 肉食の姫
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夕焼けに染まる瀬戸内の海を進む多くの船の中にひときわ大きく立派な船があった。
船端近くに立つ稚児髷の童女は夕焼けを背に立っていたので、その前に跪く若侍の目にはまるで後光が差しているように見えた。若侍自身もまたその美貌を前藩主に愛でられていたほどの容貌であったから、見る者によっては夕日を浴びたその顔にため息の一つもついたことであろう。
童女は若侍を見下ろしていた。
「わらわは、大きくなったら菊之助とめおとになる」
「それはなりません」
若侍は感情を一切感じさせぬ声で答えた。
「なぜじゃ」
「……それがしは家臣。姫様は御前様の血を引く大切な方。身分が違います」
「みぶんがちがうのはだめなのか」
「駄目です。身分を守るからこそ、姫様は姫様なのです」
「それでは、わらわが姫でなくなったらいいのじゃな」
「さようなことは金輪際ございません」
「こんりんざい」
童女は繰り返した。
若侍は立ち上がった。港が近い。船から本陣まで姫様を警護する重い役目があった。
船底で船酔いに苦んでいた乳母が上がって来た。乳母は童女に船の真ん中に置かれている乗り物に乗るように促した。童女はまだ夕日に染まる景色を若侍と見ていたかったが、しぶしぶ従った。今は大人の言うことをきくしかないことを彼女は子どもながらにわかっていた。けれど、大人になったら、きっと。
「菊之助、待っておれ。わらわはすぐに大人になるゆえ」
乗り物の中で童女がつぶやいていたことを誰も知らない。
あの時、金輪際ないと桂木菊之助が言った言葉を淑姫は今も覚えている。
だが、金輪際などという言葉があてにならないことは、淑姫にもわかってきた。
姫が姫でなくなるのは、まだまだ先のことであろうが、ありえない、起きるはずがないとされていることが起きるというのはこの世では実はさほど珍しくないのだ。
己が離縁され、若い兄が死んだ。この事実が、ありえないことが起きるということを証明している。
だから、いずれ己も姫でなくなるかもしれぬ。ありえないことだと人は言うが、この世に金輪際ありえないことはないのだから。
「何用ですか」
目の前にいる男はそう言うと、淑姫には目もくれず、書類の続きに目をやった。
「相変わらずよのう」
淑姫はそう言うと、男の隣に座った。
「邪魔です」
「邪魔するとここに入る時、言うたであろう」
「まるで、猫だ。人が仕事をしていると、邪魔をする」
「さように、わらわをじらして、いかがするつもりじゃ」
淑姫は小机の上の書類を袖で覆った。
「何を」
留守居役桂木佐久右衛門は袖をつかんで、淑姫を睨みつけた。
ニヤリと笑った淑姫は己の身体の重みを思い切り利用して、桂木を押し倒した。この日のために、肉を食ってきたのを無駄にしたくはなかった。
「ひ、ひめ……」
行灯の光の下でも桂木の顔が赤くなるのがわかった。怒りなのか、それとも別の感情なのか、今の淑姫にはどうでもいいことだった。
「もう待てぬ」
「待てぬとは」
桂木は淑姫の身体からはい出ようとするが、両足が動かせなかった。姫の腰が太ももをどっかと押さえつけていた。桂木とて柔術の心得はあるが、大柄な姫をこの体勢から投げ飛ばすのは至難の技だった。何より主君の姫を投げ飛ばすなど切腹ものである。
「姫様、後生ですから」
怒りとも哀願ともつかぬ声が桂木の口から発せられた。淑姫はああ、この声が聞きたかったのだと思った。今でこそ留守居役でございと自信満々な桂木だが、淑姫の知る菊之助はよく先輩の小姓だった吉井采女に怒られて半分泣きそうな顔になっていたものだった。
「後生じゃから、何だというのだ」
「お、おやめください」
「ならば、なぜ、文の返事などしたのだ」
「そ、それは……」
桂木に疚しい思いがなかったわけではない。花尾家との離縁が成立し、その後どこの家からも話がなければ、その時はという思いはあった。実際、他家の家老の中には出戻って来た姫と祝言を挙げた者もいる。だが、それは彼の予定では数年先の話であった。今はまだ早過ぎる。彼もまた前妻と死別して二年たっていないのだから。きちんと家老や御前様に根回しをして、周囲を納得させてからの話だった。それまでは姫様に触れてはならぬと思っていた。
それでも、姫から文があれば嬉しかった。江戸への旅のことなどを思い出し、しみじみとした心持ちになれた。けれど自分から気持ちを伝えるのは畏れおおいことだった。彼が文に書けるのは花尾家との交渉の経緯や若殿様との雑談の内容くらいだった。
「とにかく、離れてくださいませ」
「大声で人を呼ぶか。だが、そうなったら、そなた切腹、いや死罪だぞ」
そんなことはわかりきっている。いくらなんでも姫様に襲われたなどと言っても誰も信じるはずがない。たとえ信じる者がいても、悪いのは男の桂木ということでなければ話は収まらない。
「据え膳食わぬはというではないか」
「据え膳は据えてあるから据え膳なのです。据え膳が自分から襲い掛かったら、それは据え膳とは言いません」
桂木の反論にクククと淑姫は笑った。
「まこと、そうじゃな。わらわは据え膳ではないな」
「ですから、食べるわけには参りません」
「そなたを食べるのは構わぬであろう」
「はあっ」
その論理の飛躍に桂木は呆れた。
「そなたこそ、わらわの下で身動きとれぬ据え膳ゆえな。大体、男と女の身体の形から見ても、わらわがそなたを食べるというのが正しいのではないか」
「姫様、なんということを」
桂木は幼かった淑姫のことを思い出す。城下を出る時の寂しげな顔、船旅にはしゃぐ無邪気な声、船から落ちそうになった時に背後から抱き上げた時の身体の重み、富士の山を見て喜ぶ顔、箱根の山越えに疲れて熱を出した朝に心細げに自分を見上げていたまなざし、あんなにか細く弱かったのに。今は桂木より一回り大きくなってしまった。その上、口から出て来る言葉ときたら、姫にあるまじきものだった。
「のいてくだされ。重くてなりませぬ」
桂木の懇願に淑姫は目方を増やした甲斐があったと思った。
「のかぬ。のう、そなた、わらわの文を読んでおろう。それなのに、そなたときたら、離縁の手続きがどうこうと花尾のことしか書かぬではないか。少しは色気のあることを書いたらどうじゃ」
「万が一にさようなことを書いて、もし誰ぞに見られたらいかがします」
「いいではないか。面倒なあれこれがなくて一気に話が進む」
「なんと浅はかな。尼寺に送られるかもしれませぬぞ」
「寺から断られるわ。こんな大きな姫は養いきれぬと」
「御前様の叔母様は寺に入れられましたぞ」
確かに父の叔母に当たる姫は、酒乱で嫁ぎ先から離縁され国許に戻ったはいいが、何を思ったのか厠の前にあった石の手水鉢を投げて御殿の壁を壊したということで死ぬまで寺に預けられていた。淑姫は子どもの頃、いたずらをすると寺に入れると乳母によく言われたものだった。
「わらわは手水鉢は投げておらぬ」
「手水鉢を投げるなど可愛いもの。姫がやろうとしていることは不義密通」
手水鉢を投げるのが可愛いというのは、さすがに淑姫にも納得できなかった。石でできた手水鉢を投げるなど、やろうと思ってもそうそうできるものではない。
「そうかのう」
「そうかのうではありません。とにかく、離れてくだされ。もし、誰ぞに見られたら」
そう言いながら、桂木は姫がこの留守居役の仕事部屋に来るまでにすでに見られたのではないかと思った。
「まさか見られてなど」
「大丈夫じゃ。皆が寝静まってから部屋を出た。火の番が通り過ぎた後だから気付いておらぬ。広敷にも誰もおらなんだ」
奥の出入り口は御錠口だけではない。奥の事務を取り仕切る男の役人のいる広敷の部屋を通って表御殿に行けるのである。留守居役は仕事柄奥と連絡を取る必要があるので、他の役人の仕事部屋より広敷に近かった。とはいえ、表御殿にも火の番はいる。あと半刻ほどすればまわってくるはずである。
「お戻りください。今なら誰にも見つかりません」
「見つからぬから来たのじゃ。さ、急ぐぞ。わらわもいつまでも部屋を空けられぬ。早う、わらわを抱いておくれ」
そう言うと淑姫は己の羽二重の寝間着の裾に手をかけてからげようとした。
「なりません」
桂木は裾をからげている間に姫の身体から逃れようとした。が、袴の裾を足で踏まれていた上に、いつの間にか袴の紐がほどかれており、動いた途端に袴が腰から脱げていた。
「うわっ」
「その恰好で逃げるか」
膝の上まで脱げた袴に桂木は慌てた。だが、それを引き上げようにも姫の足が押さえているから、力任せに引けば袴が破れてしまうのは予想できた。
「後生ですから、足をのけてくだされ」
「やだ」
そう言うと、淑姫は裾をからげて、桂木の身体の上にのしかかった。
「なりません」
「なる」
言葉と同時に姫の手が動いた。桂木は叫びそうになった。姫のやることではない。
「お、お、おたわむれは、お、おやめ、ください」
「戯れではない。わらわは真面目にしておる」
「だ、だ、だめ、ですぅ」
「何が駄目じゃ。そなたも男であろう」
「そういうこと、では、ありませ、ん」
桂木は真っ赤な顔で姫の手をつかんで阻止しようとした。
「無駄じゃ」
桂木の手を払いのけ、姫はさっと下帯をゆるめた。
「ああっ」
悔し気な桂木の吐息だった。
「これで幾人の女子を泣かせたのかのう」
またも姫にあるまじき発言だった。
「おふざけはいい加減にしてください」
「ふざけてはおらぬ」
「くわぁっ」
「なんじゃ、そなたの声は面白いのう」
「やめ、て、くだ、さ、い」
桂木ははあはあと息をしながらやっとのことで言った。姫はにやりと笑った。
「なにやら、そなたの声はそそるのう」
桂木は思う。江戸に来る時に警護についていたのは、このような姫ではなかったはずである。可愛らしくて健気で小さな姫だったのに。
「案ずるな。順番は守る」
そう言うと姫は身体をかがめて、半開きになった桂木の唇に口づけた。
桂木は驚きの余り、叫びそうになったがこらえた。口の中に入った姫の舌を噛むわけにはいかない。
姫の舌は驚くほど巧みに桂木の口の中を蠢いた。とても姫とは思えない。桂木の情報では、淑姫は花尾の殿と夫婦の交わりをしていないはずなのに。
桂木は姫が舌を引いたのに気付き唇を離した。
「姫様、それがしを愚弄するのはおやめください」
淑姫は桂木を見下ろしていた。
「愚弄などしておらぬ」
「しております。男にも操というものがあります。それを強引に奪うなど、いくら姫様でも」
「そなたがわらわをいつまでも奪ってくれぬゆえ、遠慮しておるなら、わらわからと思ったのだが。やはり今でもお須麻のことを愛しく思っておるのか」
「当たり前です」
「わらわも何も忘れろとは言わぬ。お須麻は優しい女子であったからな。わらわにもよく仕えてくれた。だが、それとこれとは話は別。わらわの我慢にも限りがある。そなたが欲しい。はしたないと思われても構わぬ。わらわはそなたのすべてが欲しい」
欲しいから貪るというのは、貴人の振舞ではない。ましてや姫である。桂木がここで観念しては、姫のためにはならぬ。焚き付けられた本能を必死で抑えつけた。
「御前様も奥方様もかような婦人たれと望んではおりません。どうか、お気を確かに」
「わらわは狂うておらぬ。それゆえ、ここまで人に見つからぬように参ったのだ。だが、そなたを見たら正気ではいられぬ。愛い奴よのう」
「うっ、だめ、です」
妻が亡くなってから、幾度か留守居役の会合で吉原や品川に行っている。だが、この数か月は多忙で桂木は女どころではなかった。禁欲状態だった彼は久しぶりの刺激に過敏になっていた。
「あ、あああっ」
なんと恥かしい声かと思う桂木だった。だが、容易に制御できない。飛び出すな、○は急に止まれない。百年以上後の交通標語など知る由もない桂木だが、止められるものではなかった。
背筋を貫く快感に震えながら、姫を汚してしまったことが情なかった。
姫は懐紙で手を拭いた。懐紙の用意までしていたのかと、桂木はあきれ果てた。
と同時に、よもや花尾の殿はかようなことを姫にさせていたのではないかという疑念が胸に湧いた。なんということか。夫でありながら、己ばかりが快感を得て姫を喜ばせる勤めを果たさぬとは。
「姫様、かようなことを花尾の殿にもされたのですか」
「そんなことはどうでもよかろう。勘太夫殿は勘太夫殿。菊之助は菊之助。他の男のことなど、そなたに語って何になろう」
あっけらかんとした顔で姫は言う。姫が受けた屈辱を想像すると桂木は賢者ではいられなくなりそうだった。だが、忍ばねばならなかった。
「姫様、なんというおいたわしい。かようなことをされていたとは」
「おいたわしいとは何のことじゃ。わらわは、そなたに触れられて満足じゃ。さて、今度はわらわに触れておくれ」
桂木は袴をそのままに、帷子を着たままでようやく姫の身体の下から抜け出し、その場に正座した。
「姫様、何とぞ、これ以上の辱めはお許しを」
「まこと、そなたは」
そう言うと、姫はその場に仰向けになった。無論、むき出しになった足の間は桂木の顔の正面に向けている。桂木はあまりのことに絶句した。
「襲われるのが嫌なら、わらわが据え膳になるゆえ、さあ、参れ。襲うがよい」
違う。そういう意味ではない。辱めの意味が違う。桂木は叫びたかった。
「来ぬのか」
「いけません。さようなことをしては」
そう言いながら、桂木の目は両足の間やその上のむき出しになった白い肌を見ていた。視線を外したいのに外せなかった。本能が彼の理性を少しずつ崩そうとしていた。
「ああ、じれったい」
そう言うが早いか、姫はさっと起き上がり、桂木を再び押し倒した。油断していた桂木は完全に姫の下敷きになっていた。
「もう手加減せぬ」
「ひ、ひめ、しゃま」
次の瞬間には唇が唇にぶつかっていた。柔らかな感触に桂木の崩れかけた理性は吹き飛んだ。
いったん離れた唇から甘い息が漏れた。桂木の欲望が蠢き始めた。
ああ、この女を己の物にしたい。誰にも渡したくない。
「姫様、御許しを」
なんとか寄せ集めた理性のかけらで言った。
「菊之助、うれしい」
自分しか知らない甘い声が本能に火をつけた。その気のある女を己の下に組み敷くのには慣れていた。
「ああっ、燃えるようじゃ」
「どこが燃えるのですか」
「身体すべてが。そなたが火をつけたのじゃ」
その後は言葉にならなかった。
やがて、男のああっという息とも声ともつかぬものが聞こえたかと思うと、静かになった。
「痛くはありませんか」
「痛い」
淑姫は正直だった。桂木は離れようとした。
「待て。そのままでいてくれ」
「いけません。御身体を拭かねば」
「今少し抱き締めてくれ」
「では少しだけ」
じんわりと互いの素肌の熱を確かめ合うように抱き締めた。
もう逃れるわけにはいかぬ。
二年前、花尾家との縁談が決まった時、妻がすでにいる身でありながら、桂木は安堵していた。これ以上、姫と同じ屋敷にいるなど耐えられなかった。日に日に成長していく姫が折に触れ桂木に向けるまなざしは熱過ぎた。江戸に出る時に警護の役目をしただけだというのに。
だが、姫は戻って来た。嫁入り前と同じまっさらな身体で。そして、桂木はその身体を奪ってしまった。
姫から部屋に押し入ったとはいえ、姫の身体に押し入ったのは己である。この先の責めはすべて自分が負う。桂木は誓った。離縁の手続きを花尾家にせっついて、できるだけ早く根回しをして、姫を自分の元に迎えようと。
再び桂木は己の唇で姫の口をふさいだ。
姫は予想外のことに驚きながらも、桂木に身を委ねた。
「愛しい淑様」
唇を離し囁いた。女体のすべてで包み込まれているような至福の時を桂木は味わい尽くした。
腹と腰の鈍痛に耐えながら部屋に戻った淑姫は己の布団の中にいるおみちに声を掛けた。
「すまぬ」
おみちは眠たげな顔で姫を見上げた。
「お帰りなさいませ」
おみちはのろのろと起き上がり床を姫に譲り己の部屋に戻った。淑姫は床に入ると大きく息を吐いた。
「ちと調子に乗り過ぎぞ」
まさかあそこまで桂木が自分を求めるなど、淑姫は思ってもいなかった。いったん火がつくとどうにも消せぬものらしかった。
なぜか今宵に限って表御殿の火の番は来なかった。間もなく夜明けも近いというのに。そのわけを考えることもできず、淑姫は眠りに落ちていた。
「徹夜とは仕事熱心なことだな」
装束を整え襖を開けると、そこに立っていたのは吉井采女だった。彼の背後に見える空は白みかけていた。
思わず、後ずさりをしてしまった桂木に、吉井はにこりともせず追い打ちをかけた。
「今宵の火の番がそれがしでよかったな」
桂木は恐怖に震えた。
「め、め、目付殿、何を」
「それがしは何も聞いておらぬし、見てもおらぬ」
そう言うと、吉井采女はくるりと反転し、目付の仕事部屋に向かった。
桂木はへなへなとその場に座り込んだ。
船端近くに立つ稚児髷の童女は夕焼けを背に立っていたので、その前に跪く若侍の目にはまるで後光が差しているように見えた。若侍自身もまたその美貌を前藩主に愛でられていたほどの容貌であったから、見る者によっては夕日を浴びたその顔にため息の一つもついたことであろう。
童女は若侍を見下ろしていた。
「わらわは、大きくなったら菊之助とめおとになる」
「それはなりません」
若侍は感情を一切感じさせぬ声で答えた。
「なぜじゃ」
「……それがしは家臣。姫様は御前様の血を引く大切な方。身分が違います」
「みぶんがちがうのはだめなのか」
「駄目です。身分を守るからこそ、姫様は姫様なのです」
「それでは、わらわが姫でなくなったらいいのじゃな」
「さようなことは金輪際ございません」
「こんりんざい」
童女は繰り返した。
若侍は立ち上がった。港が近い。船から本陣まで姫様を警護する重い役目があった。
船底で船酔いに苦んでいた乳母が上がって来た。乳母は童女に船の真ん中に置かれている乗り物に乗るように促した。童女はまだ夕日に染まる景色を若侍と見ていたかったが、しぶしぶ従った。今は大人の言うことをきくしかないことを彼女は子どもながらにわかっていた。けれど、大人になったら、きっと。
「菊之助、待っておれ。わらわはすぐに大人になるゆえ」
乗り物の中で童女がつぶやいていたことを誰も知らない。
あの時、金輪際ないと桂木菊之助が言った言葉を淑姫は今も覚えている。
だが、金輪際などという言葉があてにならないことは、淑姫にもわかってきた。
姫が姫でなくなるのは、まだまだ先のことであろうが、ありえない、起きるはずがないとされていることが起きるというのはこの世では実はさほど珍しくないのだ。
己が離縁され、若い兄が死んだ。この事実が、ありえないことが起きるということを証明している。
だから、いずれ己も姫でなくなるかもしれぬ。ありえないことだと人は言うが、この世に金輪際ありえないことはないのだから。
「何用ですか」
目の前にいる男はそう言うと、淑姫には目もくれず、書類の続きに目をやった。
「相変わらずよのう」
淑姫はそう言うと、男の隣に座った。
「邪魔です」
「邪魔するとここに入る時、言うたであろう」
「まるで、猫だ。人が仕事をしていると、邪魔をする」
「さように、わらわをじらして、いかがするつもりじゃ」
淑姫は小机の上の書類を袖で覆った。
「何を」
留守居役桂木佐久右衛門は袖をつかんで、淑姫を睨みつけた。
ニヤリと笑った淑姫は己の身体の重みを思い切り利用して、桂木を押し倒した。この日のために、肉を食ってきたのを無駄にしたくはなかった。
「ひ、ひめ……」
行灯の光の下でも桂木の顔が赤くなるのがわかった。怒りなのか、それとも別の感情なのか、今の淑姫にはどうでもいいことだった。
「もう待てぬ」
「待てぬとは」
桂木は淑姫の身体からはい出ようとするが、両足が動かせなかった。姫の腰が太ももをどっかと押さえつけていた。桂木とて柔術の心得はあるが、大柄な姫をこの体勢から投げ飛ばすのは至難の技だった。何より主君の姫を投げ飛ばすなど切腹ものである。
「姫様、後生ですから」
怒りとも哀願ともつかぬ声が桂木の口から発せられた。淑姫はああ、この声が聞きたかったのだと思った。今でこそ留守居役でございと自信満々な桂木だが、淑姫の知る菊之助はよく先輩の小姓だった吉井采女に怒られて半分泣きそうな顔になっていたものだった。
「後生じゃから、何だというのだ」
「お、おやめください」
「ならば、なぜ、文の返事などしたのだ」
「そ、それは……」
桂木に疚しい思いがなかったわけではない。花尾家との離縁が成立し、その後どこの家からも話がなければ、その時はという思いはあった。実際、他家の家老の中には出戻って来た姫と祝言を挙げた者もいる。だが、それは彼の予定では数年先の話であった。今はまだ早過ぎる。彼もまた前妻と死別して二年たっていないのだから。きちんと家老や御前様に根回しをして、周囲を納得させてからの話だった。それまでは姫様に触れてはならぬと思っていた。
それでも、姫から文があれば嬉しかった。江戸への旅のことなどを思い出し、しみじみとした心持ちになれた。けれど自分から気持ちを伝えるのは畏れおおいことだった。彼が文に書けるのは花尾家との交渉の経緯や若殿様との雑談の内容くらいだった。
「とにかく、離れてくださいませ」
「大声で人を呼ぶか。だが、そうなったら、そなた切腹、いや死罪だぞ」
そんなことはわかりきっている。いくらなんでも姫様に襲われたなどと言っても誰も信じるはずがない。たとえ信じる者がいても、悪いのは男の桂木ということでなければ話は収まらない。
「据え膳食わぬはというではないか」
「据え膳は据えてあるから据え膳なのです。据え膳が自分から襲い掛かったら、それは据え膳とは言いません」
桂木の反論にクククと淑姫は笑った。
「まこと、そうじゃな。わらわは据え膳ではないな」
「ですから、食べるわけには参りません」
「そなたを食べるのは構わぬであろう」
「はあっ」
その論理の飛躍に桂木は呆れた。
「そなたこそ、わらわの下で身動きとれぬ据え膳ゆえな。大体、男と女の身体の形から見ても、わらわがそなたを食べるというのが正しいのではないか」
「姫様、なんということを」
桂木は幼かった淑姫のことを思い出す。城下を出る時の寂しげな顔、船旅にはしゃぐ無邪気な声、船から落ちそうになった時に背後から抱き上げた時の身体の重み、富士の山を見て喜ぶ顔、箱根の山越えに疲れて熱を出した朝に心細げに自分を見上げていたまなざし、あんなにか細く弱かったのに。今は桂木より一回り大きくなってしまった。その上、口から出て来る言葉ときたら、姫にあるまじきものだった。
「のいてくだされ。重くてなりませぬ」
桂木の懇願に淑姫は目方を増やした甲斐があったと思った。
「のかぬ。のう、そなた、わらわの文を読んでおろう。それなのに、そなたときたら、離縁の手続きがどうこうと花尾のことしか書かぬではないか。少しは色気のあることを書いたらどうじゃ」
「万が一にさようなことを書いて、もし誰ぞに見られたらいかがします」
「いいではないか。面倒なあれこれがなくて一気に話が進む」
「なんと浅はかな。尼寺に送られるかもしれませぬぞ」
「寺から断られるわ。こんな大きな姫は養いきれぬと」
「御前様の叔母様は寺に入れられましたぞ」
確かに父の叔母に当たる姫は、酒乱で嫁ぎ先から離縁され国許に戻ったはいいが、何を思ったのか厠の前にあった石の手水鉢を投げて御殿の壁を壊したということで死ぬまで寺に預けられていた。淑姫は子どもの頃、いたずらをすると寺に入れると乳母によく言われたものだった。
「わらわは手水鉢は投げておらぬ」
「手水鉢を投げるなど可愛いもの。姫がやろうとしていることは不義密通」
手水鉢を投げるのが可愛いというのは、さすがに淑姫にも納得できなかった。石でできた手水鉢を投げるなど、やろうと思ってもそうそうできるものではない。
「そうかのう」
「そうかのうではありません。とにかく、離れてくだされ。もし、誰ぞに見られたら」
そう言いながら、桂木は姫がこの留守居役の仕事部屋に来るまでにすでに見られたのではないかと思った。
「まさか見られてなど」
「大丈夫じゃ。皆が寝静まってから部屋を出た。火の番が通り過ぎた後だから気付いておらぬ。広敷にも誰もおらなんだ」
奥の出入り口は御錠口だけではない。奥の事務を取り仕切る男の役人のいる広敷の部屋を通って表御殿に行けるのである。留守居役は仕事柄奥と連絡を取る必要があるので、他の役人の仕事部屋より広敷に近かった。とはいえ、表御殿にも火の番はいる。あと半刻ほどすればまわってくるはずである。
「お戻りください。今なら誰にも見つかりません」
「見つからぬから来たのじゃ。さ、急ぐぞ。わらわもいつまでも部屋を空けられぬ。早う、わらわを抱いておくれ」
そう言うと淑姫は己の羽二重の寝間着の裾に手をかけてからげようとした。
「なりません」
桂木は裾をからげている間に姫の身体から逃れようとした。が、袴の裾を足で踏まれていた上に、いつの間にか袴の紐がほどかれており、動いた途端に袴が腰から脱げていた。
「うわっ」
「その恰好で逃げるか」
膝の上まで脱げた袴に桂木は慌てた。だが、それを引き上げようにも姫の足が押さえているから、力任せに引けば袴が破れてしまうのは予想できた。
「後生ですから、足をのけてくだされ」
「やだ」
そう言うと、淑姫は裾をからげて、桂木の身体の上にのしかかった。
「なりません」
「なる」
言葉と同時に姫の手が動いた。桂木は叫びそうになった。姫のやることではない。
「お、お、おたわむれは、お、おやめ、ください」
「戯れではない。わらわは真面目にしておる」
「だ、だ、だめ、ですぅ」
「何が駄目じゃ。そなたも男であろう」
「そういうこと、では、ありませ、ん」
桂木は真っ赤な顔で姫の手をつかんで阻止しようとした。
「無駄じゃ」
桂木の手を払いのけ、姫はさっと下帯をゆるめた。
「ああっ」
悔し気な桂木の吐息だった。
「これで幾人の女子を泣かせたのかのう」
またも姫にあるまじき発言だった。
「おふざけはいい加減にしてください」
「ふざけてはおらぬ」
「くわぁっ」
「なんじゃ、そなたの声は面白いのう」
「やめ、て、くだ、さ、い」
桂木ははあはあと息をしながらやっとのことで言った。姫はにやりと笑った。
「なにやら、そなたの声はそそるのう」
桂木は思う。江戸に来る時に警護についていたのは、このような姫ではなかったはずである。可愛らしくて健気で小さな姫だったのに。
「案ずるな。順番は守る」
そう言うと姫は身体をかがめて、半開きになった桂木の唇に口づけた。
桂木は驚きの余り、叫びそうになったがこらえた。口の中に入った姫の舌を噛むわけにはいかない。
姫の舌は驚くほど巧みに桂木の口の中を蠢いた。とても姫とは思えない。桂木の情報では、淑姫は花尾の殿と夫婦の交わりをしていないはずなのに。
桂木は姫が舌を引いたのに気付き唇を離した。
「姫様、それがしを愚弄するのはおやめください」
淑姫は桂木を見下ろしていた。
「愚弄などしておらぬ」
「しております。男にも操というものがあります。それを強引に奪うなど、いくら姫様でも」
「そなたがわらわをいつまでも奪ってくれぬゆえ、遠慮しておるなら、わらわからと思ったのだが。やはり今でもお須麻のことを愛しく思っておるのか」
「当たり前です」
「わらわも何も忘れろとは言わぬ。お須麻は優しい女子であったからな。わらわにもよく仕えてくれた。だが、それとこれとは話は別。わらわの我慢にも限りがある。そなたが欲しい。はしたないと思われても構わぬ。わらわはそなたのすべてが欲しい」
欲しいから貪るというのは、貴人の振舞ではない。ましてや姫である。桂木がここで観念しては、姫のためにはならぬ。焚き付けられた本能を必死で抑えつけた。
「御前様も奥方様もかような婦人たれと望んではおりません。どうか、お気を確かに」
「わらわは狂うておらぬ。それゆえ、ここまで人に見つからぬように参ったのだ。だが、そなたを見たら正気ではいられぬ。愛い奴よのう」
「うっ、だめ、です」
妻が亡くなってから、幾度か留守居役の会合で吉原や品川に行っている。だが、この数か月は多忙で桂木は女どころではなかった。禁欲状態だった彼は久しぶりの刺激に過敏になっていた。
「あ、あああっ」
なんと恥かしい声かと思う桂木だった。だが、容易に制御できない。飛び出すな、○は急に止まれない。百年以上後の交通標語など知る由もない桂木だが、止められるものではなかった。
背筋を貫く快感に震えながら、姫を汚してしまったことが情なかった。
姫は懐紙で手を拭いた。懐紙の用意までしていたのかと、桂木はあきれ果てた。
と同時に、よもや花尾の殿はかようなことを姫にさせていたのではないかという疑念が胸に湧いた。なんということか。夫でありながら、己ばかりが快感を得て姫を喜ばせる勤めを果たさぬとは。
「姫様、かようなことを花尾の殿にもされたのですか」
「そんなことはどうでもよかろう。勘太夫殿は勘太夫殿。菊之助は菊之助。他の男のことなど、そなたに語って何になろう」
あっけらかんとした顔で姫は言う。姫が受けた屈辱を想像すると桂木は賢者ではいられなくなりそうだった。だが、忍ばねばならなかった。
「姫様、なんというおいたわしい。かようなことをされていたとは」
「おいたわしいとは何のことじゃ。わらわは、そなたに触れられて満足じゃ。さて、今度はわらわに触れておくれ」
桂木は袴をそのままに、帷子を着たままでようやく姫の身体の下から抜け出し、その場に正座した。
「姫様、何とぞ、これ以上の辱めはお許しを」
「まこと、そなたは」
そう言うと、姫はその場に仰向けになった。無論、むき出しになった足の間は桂木の顔の正面に向けている。桂木はあまりのことに絶句した。
「襲われるのが嫌なら、わらわが据え膳になるゆえ、さあ、参れ。襲うがよい」
違う。そういう意味ではない。辱めの意味が違う。桂木は叫びたかった。
「来ぬのか」
「いけません。さようなことをしては」
そう言いながら、桂木の目は両足の間やその上のむき出しになった白い肌を見ていた。視線を外したいのに外せなかった。本能が彼の理性を少しずつ崩そうとしていた。
「ああ、じれったい」
そう言うが早いか、姫はさっと起き上がり、桂木を再び押し倒した。油断していた桂木は完全に姫の下敷きになっていた。
「もう手加減せぬ」
「ひ、ひめ、しゃま」
次の瞬間には唇が唇にぶつかっていた。柔らかな感触に桂木の崩れかけた理性は吹き飛んだ。
いったん離れた唇から甘い息が漏れた。桂木の欲望が蠢き始めた。
ああ、この女を己の物にしたい。誰にも渡したくない。
「姫様、御許しを」
なんとか寄せ集めた理性のかけらで言った。
「菊之助、うれしい」
自分しか知らない甘い声が本能に火をつけた。その気のある女を己の下に組み敷くのには慣れていた。
「ああっ、燃えるようじゃ」
「どこが燃えるのですか」
「身体すべてが。そなたが火をつけたのじゃ」
その後は言葉にならなかった。
やがて、男のああっという息とも声ともつかぬものが聞こえたかと思うと、静かになった。
「痛くはありませんか」
「痛い」
淑姫は正直だった。桂木は離れようとした。
「待て。そのままでいてくれ」
「いけません。御身体を拭かねば」
「今少し抱き締めてくれ」
「では少しだけ」
じんわりと互いの素肌の熱を確かめ合うように抱き締めた。
もう逃れるわけにはいかぬ。
二年前、花尾家との縁談が決まった時、妻がすでにいる身でありながら、桂木は安堵していた。これ以上、姫と同じ屋敷にいるなど耐えられなかった。日に日に成長していく姫が折に触れ桂木に向けるまなざしは熱過ぎた。江戸に出る時に警護の役目をしただけだというのに。
だが、姫は戻って来た。嫁入り前と同じまっさらな身体で。そして、桂木はその身体を奪ってしまった。
姫から部屋に押し入ったとはいえ、姫の身体に押し入ったのは己である。この先の責めはすべて自分が負う。桂木は誓った。離縁の手続きを花尾家にせっついて、できるだけ早く根回しをして、姫を自分の元に迎えようと。
再び桂木は己の唇で姫の口をふさいだ。
姫は予想外のことに驚きながらも、桂木に身を委ねた。
「愛しい淑様」
唇を離し囁いた。女体のすべてで包み込まれているような至福の時を桂木は味わい尽くした。
腹と腰の鈍痛に耐えながら部屋に戻った淑姫は己の布団の中にいるおみちに声を掛けた。
「すまぬ」
おみちは眠たげな顔で姫を見上げた。
「お帰りなさいませ」
おみちはのろのろと起き上がり床を姫に譲り己の部屋に戻った。淑姫は床に入ると大きく息を吐いた。
「ちと調子に乗り過ぎぞ」
まさかあそこまで桂木が自分を求めるなど、淑姫は思ってもいなかった。いったん火がつくとどうにも消せぬものらしかった。
なぜか今宵に限って表御殿の火の番は来なかった。間もなく夜明けも近いというのに。そのわけを考えることもできず、淑姫は眠りに落ちていた。
「徹夜とは仕事熱心なことだな」
装束を整え襖を開けると、そこに立っていたのは吉井采女だった。彼の背後に見える空は白みかけていた。
思わず、後ずさりをしてしまった桂木に、吉井はにこりともせず追い打ちをかけた。
「今宵の火の番がそれがしでよかったな」
桂木は恐怖に震えた。
「め、め、目付殿、何を」
「それがしは何も聞いておらぬし、見てもおらぬ」
そう言うと、吉井采女はくるりと反転し、目付の仕事部屋に向かった。
桂木はへなへなとその場に座り込んだ。
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