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26 永遠の誓い(R15)
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グスタフもまた床から立ち上がり大股で駆けた。ここで逃したら、きっと二度と会えなくなる。エルンストがドアまであと一歩というところで、肩をつかんだ。
「離してください」
言葉を尽くしてもわからぬのならとグスタフは背後から両腕で抱きしめた。
「いけません!」
「逃げるな、エルンスト」
「グスタフさま! いい加減に!」
悲痛なエルンストの叫びは廊下に聞こえたかもしれない。それでもグスタフは叫んだ。
「おまえなしでは生きていけないんだ。王になるとかならないとかどうでもいい、おまえと生きていたいんだ」
「……あなた様は王になるべき方。私のような者など……足手まといになるばかり」
先ほどまでの強い調子が薄らいでいた。
「足手まといでもなんでもいい。俺の傍にいてくれれば。おまえだけしかいないんだ、俺が真実信じられるのは」
「王とは孤独なものだと聞いたことがあります。寵臣であっても、すべてを信じてはならぬ、そもそも寵臣を作ってはならぬとも。私はいつかあなたを裏切るかもしれない。それでもよろしいのですか」
「おまえがもし俺を裏切るなら、それには理由があるはずだ。俺が王にふさわしくない行ないをしたとか。俺はその時は甘んじておまえの刃をこの身に受けよう」
息が首筋に当たるたび、エルンストの身体を慄きが走っていることにグスタフはまだ気づいていなかった。
「だから、俺から離れないでくれ。その日が来るまでずっとそばにいてくれ」
祈るような気持ちでグスタフは囁いた。
「おそばにいます」
喘ぐような声でエルンストは答えた。
グスタフは天にも昇る心地でエルンストを抱き締めた。
「痛いのですが」
「すまない」
腕の力を緩めると、エルンストは身体の向きを変えグスタフを見つめた。湖のような瞳に映るのはグスタフ一人。
「誓いを立てさせてください」
「誓い?」
エルンストははっきりとした声で告げた。
「この身をあなたに捧げたいのです」
グスタフは意味が分からなかったがうなずいた。
「わかった」
「では、寝台へ」
エルンストの言う通りにグスタフは寝台に向かった。
寝台の横に立って向き合った。グスタフは緊張していた。震える声で言った。
「誓いの言葉を」
「私エルンスト・フィンケは永遠の誠をグスタフ様に捧げることを誓い、身も心も委ねます」
「グスタフ・ヨーゼフ・フォン・ローゼンハイムはエルンスト・フィンケに永遠の誠を捧げ、身も心も受け入れることを誓います」
こういう時どういう言い方をすればわからなかったので、グスタフはエルンストをまねた。
だが、この後どうすればいいのか。村の結婚式では誓いの言葉の後、口づけをするから、あれでいこうと思い、グスタフは一歩前に進み、エルンストを抱き寄せた。
「誓いの口づけをする」
何も言わねば驚くだろうと思ってそう言うと、エルンストは顔を少し上げた。薄い桃色の唇がランプの光を受けて光っていた。
そっと唇に触れた。柔かい。先ほどの性急な口づけの時は感じられなかった。唇がわずかに開いた。舌を入れてくれということなのかとグスタフは歓喜に震えた。エルンストの気が変わらぬうちにと舌を入れた。温かく湿ったそこで待っていたのは積極的な舌だった。驚くほどエルンストの舌は雄弁にグスタフの舌を舐った。先端だけでなく他の部分も舐められるうち、一時収まっていた昂ぶりが再び始まった。いけないと思い、慌てて唇を離した。口の間に垂れた涎の糸を拭こうとすると、エルンストはそれを啜り、グスタフの顎に落ちたものも舐めた。その舌なめずりはひどく艶めいていた。
「グスタフ様、我慢できますか」
エルンストにはお見通しのようだった。
「すまぬ。見苦しいさまを」
「構いません」
そう言うと、エルンストは自分のベストを脱ぎ始めた。
「何を……」
「私は身を委ねると申しました。ですからこれより我が身をグスタフ様に。グスタフ様もどうかそのおつもりでお脱ぎください。脱がないほうがいいのならそのままでも結構ですが」
部屋はお湯を床下に張り巡らせたパイプで循環させているおかげで温かいから脱ぐのに不都合はない。だが、これから何をしようというのか、グスタフにはわかっていなかった。それでもエルンストがそう言うならそうしようと服を脱ぎ始めた。
「それで何をすればいいのだ」
グスタフの問いにエルンストはえっと小さく叫んだ。
「その……交わりを」
「まじわり?」
「家畜の交尾と同じです」
「あれは雄と雌だが」
「男同士でもできます」
「どうやって?」
「それは……あの、本当にご存知ないのですか」
エルンストの困惑した顔は珍しかった。グスタフはうなずいた。
「わかりました。では、私の言う通りに」
「知っているのか!」
グスタフの顔が驚きに輝いた。
「お屋敷の図書室の本にありました」
「そんな本があったか」
グスタフは農書や地理学の本は読んでいたが、先祖の蒐集していた禁書の類は存在すら知らなかった。エルンストはグスタフよりも屋敷の図書室の本に詳しかった。それゆえ、夢の中でグスタフを図書室の本にあるように犯すことができたのである。
寝心地のよさそうな広い寝台に横たわった二人はそのまま抱き合った。
「上になることをお許しください」
グスタフに異論はなかった。
エルンストはグスタフの両足の間に膝立ちになった。
「失礼します」
自分の左手だけでは感じ得ぬ興奮にグスタフはううっと声を上げてしまった。
「気分がよろしくないのでは」
「とんでもない! 最高だ!」
まだグスタフはこれ以上の快楽があることを知らない。
グスタフは喘ぎを抑えられなくなった。
エルンストは囁く。
「夢がかなってこれほど嬉しいことはありません」
他人が聞いたら引いてしまうような言葉である。だが、今のグスタフにはこれほど嬉しい言葉はなかった。
俯いたエルンストの羞恥の顔は麗しかった。まだまだ知らないエルンストの顔を見たい。グスタフは言ってしまった。
「では、おまえが夢に見た他のことをしてくれぬか」
「よろしいのですか」
「ああ」
「それでは、うつ伏せになってくださいませ」
「こうか?」
グスタフはシーツの上に身を投げ出した。
「ああ、夢のようだ」
声を聞きながらグスタフはエルンストの表情を想像した。彼の目の中の湖には今何が見えているのだろうか。俺だけを見ているならこんなに幸せなことはない。
「エルンスト、これがおまえの、夢か」
「はい。でも、まだ他にも……」
「今日のところはここまでにせぬか」
「はい。夢の続きはまた明日」
身を離した二人は身体を拭うと、そのまま抱き合って朝まで眠った。
「離してください」
言葉を尽くしてもわからぬのならとグスタフは背後から両腕で抱きしめた。
「いけません!」
「逃げるな、エルンスト」
「グスタフさま! いい加減に!」
悲痛なエルンストの叫びは廊下に聞こえたかもしれない。それでもグスタフは叫んだ。
「おまえなしでは生きていけないんだ。王になるとかならないとかどうでもいい、おまえと生きていたいんだ」
「……あなた様は王になるべき方。私のような者など……足手まといになるばかり」
先ほどまでの強い調子が薄らいでいた。
「足手まといでもなんでもいい。俺の傍にいてくれれば。おまえだけしかいないんだ、俺が真実信じられるのは」
「王とは孤独なものだと聞いたことがあります。寵臣であっても、すべてを信じてはならぬ、そもそも寵臣を作ってはならぬとも。私はいつかあなたを裏切るかもしれない。それでもよろしいのですか」
「おまえがもし俺を裏切るなら、それには理由があるはずだ。俺が王にふさわしくない行ないをしたとか。俺はその時は甘んじておまえの刃をこの身に受けよう」
息が首筋に当たるたび、エルンストの身体を慄きが走っていることにグスタフはまだ気づいていなかった。
「だから、俺から離れないでくれ。その日が来るまでずっとそばにいてくれ」
祈るような気持ちでグスタフは囁いた。
「おそばにいます」
喘ぐような声でエルンストは答えた。
グスタフは天にも昇る心地でエルンストを抱き締めた。
「痛いのですが」
「すまない」
腕の力を緩めると、エルンストは身体の向きを変えグスタフを見つめた。湖のような瞳に映るのはグスタフ一人。
「誓いを立てさせてください」
「誓い?」
エルンストははっきりとした声で告げた。
「この身をあなたに捧げたいのです」
グスタフは意味が分からなかったがうなずいた。
「わかった」
「では、寝台へ」
エルンストの言う通りにグスタフは寝台に向かった。
寝台の横に立って向き合った。グスタフは緊張していた。震える声で言った。
「誓いの言葉を」
「私エルンスト・フィンケは永遠の誠をグスタフ様に捧げることを誓い、身も心も委ねます」
「グスタフ・ヨーゼフ・フォン・ローゼンハイムはエルンスト・フィンケに永遠の誠を捧げ、身も心も受け入れることを誓います」
こういう時どういう言い方をすればわからなかったので、グスタフはエルンストをまねた。
だが、この後どうすればいいのか。村の結婚式では誓いの言葉の後、口づけをするから、あれでいこうと思い、グスタフは一歩前に進み、エルンストを抱き寄せた。
「誓いの口づけをする」
何も言わねば驚くだろうと思ってそう言うと、エルンストは顔を少し上げた。薄い桃色の唇がランプの光を受けて光っていた。
そっと唇に触れた。柔かい。先ほどの性急な口づけの時は感じられなかった。唇がわずかに開いた。舌を入れてくれということなのかとグスタフは歓喜に震えた。エルンストの気が変わらぬうちにと舌を入れた。温かく湿ったそこで待っていたのは積極的な舌だった。驚くほどエルンストの舌は雄弁にグスタフの舌を舐った。先端だけでなく他の部分も舐められるうち、一時収まっていた昂ぶりが再び始まった。いけないと思い、慌てて唇を離した。口の間に垂れた涎の糸を拭こうとすると、エルンストはそれを啜り、グスタフの顎に落ちたものも舐めた。その舌なめずりはひどく艶めいていた。
「グスタフ様、我慢できますか」
エルンストにはお見通しのようだった。
「すまぬ。見苦しいさまを」
「構いません」
そう言うと、エルンストは自分のベストを脱ぎ始めた。
「何を……」
「私は身を委ねると申しました。ですからこれより我が身をグスタフ様に。グスタフ様もどうかそのおつもりでお脱ぎください。脱がないほうがいいのならそのままでも結構ですが」
部屋はお湯を床下に張り巡らせたパイプで循環させているおかげで温かいから脱ぐのに不都合はない。だが、これから何をしようというのか、グスタフにはわかっていなかった。それでもエルンストがそう言うならそうしようと服を脱ぎ始めた。
「それで何をすればいいのだ」
グスタフの問いにエルンストはえっと小さく叫んだ。
「その……交わりを」
「まじわり?」
「家畜の交尾と同じです」
「あれは雄と雌だが」
「男同士でもできます」
「どうやって?」
「それは……あの、本当にご存知ないのですか」
エルンストの困惑した顔は珍しかった。グスタフはうなずいた。
「わかりました。では、私の言う通りに」
「知っているのか!」
グスタフの顔が驚きに輝いた。
「お屋敷の図書室の本にありました」
「そんな本があったか」
グスタフは農書や地理学の本は読んでいたが、先祖の蒐集していた禁書の類は存在すら知らなかった。エルンストはグスタフよりも屋敷の図書室の本に詳しかった。それゆえ、夢の中でグスタフを図書室の本にあるように犯すことができたのである。
寝心地のよさそうな広い寝台に横たわった二人はそのまま抱き合った。
「上になることをお許しください」
グスタフに異論はなかった。
エルンストはグスタフの両足の間に膝立ちになった。
「失礼します」
自分の左手だけでは感じ得ぬ興奮にグスタフはううっと声を上げてしまった。
「気分がよろしくないのでは」
「とんでもない! 最高だ!」
まだグスタフはこれ以上の快楽があることを知らない。
グスタフは喘ぎを抑えられなくなった。
エルンストは囁く。
「夢がかなってこれほど嬉しいことはありません」
他人が聞いたら引いてしまうような言葉である。だが、今のグスタフにはこれほど嬉しい言葉はなかった。
俯いたエルンストの羞恥の顔は麗しかった。まだまだ知らないエルンストの顔を見たい。グスタフは言ってしまった。
「では、おまえが夢に見た他のことをしてくれぬか」
「よろしいのですか」
「ああ」
「それでは、うつ伏せになってくださいませ」
「こうか?」
グスタフはシーツの上に身を投げ出した。
「ああ、夢のようだ」
声を聞きながらグスタフはエルンストの表情を想像した。彼の目の中の湖には今何が見えているのだろうか。俺だけを見ているならこんなに幸せなことはない。
「エルンスト、これがおまえの、夢か」
「はい。でも、まだ他にも……」
「今日のところはここまでにせぬか」
「はい。夢の続きはまた明日」
身を離した二人は身体を拭うと、そのまま抱き合って朝まで眠った。
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