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12 罪深き夜(R15)
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村役人のクラウスと医者は、コルネリウスとバックハウスの死は病死とすることに同意した。二人の遺体は館の敷地内の礼拝堂に仮埋葬し、年明けに公にすることとした。バックハウスは独り身で老母もすでに亡くなっており、知らせるべき身内がいなかったのは好都合だった。使用人たちには堅く口止めした。
今後についてのエルンストとノーラとの打ち合わせを終えたグスタフは自室に戻った。空腹だが、何も口にする気にはなれなかった。
聖職者の兄、執事までもが自分を裏切った。
その事実がグスタフを打ちのめしていた。屋敷の中の誰を信じていいのか、わからなくなりそうだった。
兄コルネリウスは母こそ違うが、やはり妾腹の子である。アデリナの血を引いていない彼が将来の出世という見返りのために異母弟のグスタフを殺そうとバックハウスと共謀して赤葡萄酒に毒を盛った。しかも彼は神に仕える身である。聖職者である彼の心変わりが悲しかった。勤勉と清貧を重んじる修道院の生活をしていながら、教会の中での出世を望むようになってしまった彼の中で何があったのだろうか。しかも聖職者でありながら自ら命を絶つとは。聡明なコルネリウスは暗殺の失敗によって未来が失われることに絶望したのであろうか。だとしたら短絡的過ぎないか。
執事のバックハウスがグスタフのことを公爵夫人アデリナに報告していたのは、致し方ないと思う。彼はグスタフが生まれる前から公爵家に仕え、この屋敷を守っていたのだから。公爵と夫人のアデリナに忠義を尽くすのは当然のこと。アデリナから命じられれば否とは言えまい。
だが、コルネリウスと違い、バックハウスと過ごした日々は長い。寝台に横になっても、記憶に残るバックハウスの声や姿が目に浮かび、眠れなかった。あれこれとグスタフの世話を焼き、心配ばかりしていた。そんなバックハウスが公爵夫人に自分のことを報告し、葡萄酒に毒を混ぜるとは。しかも最後はグスタフに詫びて毒杯を仰いだ。彼にはグスタフへの情がコルネリウスよりもあったのだろうか。まことに測り難きは人の心である。
「どうすればいいんだ」
つぶやいた時、ふとエルンストの顔が思い浮かんだ。
エルンスト。打ち合わせ中に自分を心配そうな顔で見ていた。怪我の傷がまだ癒えていないというのに、自身のことよりもグスタフを案じている。あんな顔をさせたくはなかった。
傷つきこの寝台で眠っていたエルンストのことを思い出す。白い顔が熱で赤みを帯びていた。唇はかさつき、プラチナブロンドの髪は汗に濡れていた。アイスブルーの瞳を再び見ることができた時の歓びを思い出す。信じられるのは、エルンストだけだ。ノーラが信用できないわけではない。ただ、彼女の背後にいる商人は得体が知れない。ゴルトベルガーの気が変わったら、どうなるか。
不安が胸からあふれそうだった。
エルンスト、会いたい。
グスタフの左手は自然と下ばきの中へと向かう。
13の時に知った自分を慰める手業に耽る時、グスタフはいつもプラチナブロンドの乳兄弟のことを思う。なぜなのかはわからない。けれど、エルンストに会いたくてならぬのに会えぬ時、彼の左手は己を慰めようとする。そしてエルンストを思いながら、達する。罪深いことなのに、どうしてもやめられなかった。
苦し気な呼吸、赤らんだ頬、汗ばんだ額、乱れた髪、それらを思い出すだけで、グスタフの左手の動きは激しくなる。分身は硬く右手を添えずとも隆々と立ち上がった。先端から湧き出る透明な液体が下ばきを濡らす。
エルンスト。なぜ、おまえはここにいてくれないのか。
下ばきの冷たさが孤独をなおさら深くする。
会いたい。声だけでも聞きたい。
ああ、エルンスト!
俺だけの!
アイスブルーの瞳は氷などではない、あれは湖だ。
俺だけを水面に映す湖だ。
教養らしい教養もないグスタフだが、彼を思う時だけは詩人だった。
左手の快楽に酔いしれながらグスタフはその時が迫るのを感じていた。
背筋から腰にかけて走る快楽の稲妻と同時に、分身の先端からエルンストの肌よりも白い液体が射出された。
あうっという呻きと同時に後悔がグスタフをさいなんだ。なんと罪深いのだろう。兄と執事が死んだ夜に、エルンストの苦しむ姿を想像し、快楽に耽るとは。
自分は王になれる人間ではない。
だが、諦めたら、待つのは死だ。エルンストの運命もグスタフ自身にかかっている。エルンストを死なせるわけにはいかなかった。
「グスタフさま?」
自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、エルンストは椅子から立ち上がった。切羽詰まったような、助けを求めるような声だった。
「どうしたの、エルンスト」
姉は怪訝そうな顔で弟を見つめた。
「いえ、何も」
エルンストは椅子に腰かけた。時折、こんなことがあるのだと話しても、恐らく姉は笑うだろう。若様のことを考え過ぎだと。
エルンストは何事もなかったかのように、姉と今後について語り合った。
今後についてのエルンストとノーラとの打ち合わせを終えたグスタフは自室に戻った。空腹だが、何も口にする気にはなれなかった。
聖職者の兄、執事までもが自分を裏切った。
その事実がグスタフを打ちのめしていた。屋敷の中の誰を信じていいのか、わからなくなりそうだった。
兄コルネリウスは母こそ違うが、やはり妾腹の子である。アデリナの血を引いていない彼が将来の出世という見返りのために異母弟のグスタフを殺そうとバックハウスと共謀して赤葡萄酒に毒を盛った。しかも彼は神に仕える身である。聖職者である彼の心変わりが悲しかった。勤勉と清貧を重んじる修道院の生活をしていながら、教会の中での出世を望むようになってしまった彼の中で何があったのだろうか。しかも聖職者でありながら自ら命を絶つとは。聡明なコルネリウスは暗殺の失敗によって未来が失われることに絶望したのであろうか。だとしたら短絡的過ぎないか。
執事のバックハウスがグスタフのことを公爵夫人アデリナに報告していたのは、致し方ないと思う。彼はグスタフが生まれる前から公爵家に仕え、この屋敷を守っていたのだから。公爵と夫人のアデリナに忠義を尽くすのは当然のこと。アデリナから命じられれば否とは言えまい。
だが、コルネリウスと違い、バックハウスと過ごした日々は長い。寝台に横になっても、記憶に残るバックハウスの声や姿が目に浮かび、眠れなかった。あれこれとグスタフの世話を焼き、心配ばかりしていた。そんなバックハウスが公爵夫人に自分のことを報告し、葡萄酒に毒を混ぜるとは。しかも最後はグスタフに詫びて毒杯を仰いだ。彼にはグスタフへの情がコルネリウスよりもあったのだろうか。まことに測り難きは人の心である。
「どうすればいいんだ」
つぶやいた時、ふとエルンストの顔が思い浮かんだ。
エルンスト。打ち合わせ中に自分を心配そうな顔で見ていた。怪我の傷がまだ癒えていないというのに、自身のことよりもグスタフを案じている。あんな顔をさせたくはなかった。
傷つきこの寝台で眠っていたエルンストのことを思い出す。白い顔が熱で赤みを帯びていた。唇はかさつき、プラチナブロンドの髪は汗に濡れていた。アイスブルーの瞳を再び見ることができた時の歓びを思い出す。信じられるのは、エルンストだけだ。ノーラが信用できないわけではない。ただ、彼女の背後にいる商人は得体が知れない。ゴルトベルガーの気が変わったら、どうなるか。
不安が胸からあふれそうだった。
エルンスト、会いたい。
グスタフの左手は自然と下ばきの中へと向かう。
13の時に知った自分を慰める手業に耽る時、グスタフはいつもプラチナブロンドの乳兄弟のことを思う。なぜなのかはわからない。けれど、エルンストに会いたくてならぬのに会えぬ時、彼の左手は己を慰めようとする。そしてエルンストを思いながら、達する。罪深いことなのに、どうしてもやめられなかった。
苦し気な呼吸、赤らんだ頬、汗ばんだ額、乱れた髪、それらを思い出すだけで、グスタフの左手の動きは激しくなる。分身は硬く右手を添えずとも隆々と立ち上がった。先端から湧き出る透明な液体が下ばきを濡らす。
エルンスト。なぜ、おまえはここにいてくれないのか。
下ばきの冷たさが孤独をなおさら深くする。
会いたい。声だけでも聞きたい。
ああ、エルンスト!
俺だけの!
アイスブルーの瞳は氷などではない、あれは湖だ。
俺だけを水面に映す湖だ。
教養らしい教養もないグスタフだが、彼を思う時だけは詩人だった。
左手の快楽に酔いしれながらグスタフはその時が迫るのを感じていた。
背筋から腰にかけて走る快楽の稲妻と同時に、分身の先端からエルンストの肌よりも白い液体が射出された。
あうっという呻きと同時に後悔がグスタフをさいなんだ。なんと罪深いのだろう。兄と執事が死んだ夜に、エルンストの苦しむ姿を想像し、快楽に耽るとは。
自分は王になれる人間ではない。
だが、諦めたら、待つのは死だ。エルンストの運命もグスタフ自身にかかっている。エルンストを死なせるわけにはいかなかった。
「グスタフさま?」
自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、エルンストは椅子から立ち上がった。切羽詰まったような、助けを求めるような声だった。
「どうしたの、エルンスト」
姉は怪訝そうな顔で弟を見つめた。
「いえ、何も」
エルンストは椅子に腰かけた。時折、こんなことがあるのだと話しても、恐らく姉は笑うだろう。若様のことを考え過ぎだと。
エルンストは何事もなかったかのように、姉と今後について語り合った。
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