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第一章*はつこい*
明けた朝に①
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数日後。
恒例の女王と四大聖神の会議の日。
セリアはどこかソワソワしていた。
アリルとは、満月の日の密会以来に会う。
尤も、仕事バカな彼の事だ。
あの後だからと、自分に対する態度が変わるとは思えないが…。
それでも…。
それでも。
あんなキスをした後だ。
どこか顏が綻んでしまう。
(ダメね、しっかりしなきゃ。怒られちゃう)
フフッと笑いながら、会議の支度をしつつ、午前中の執務をこなしていた。
そして、午後。
侍女に連れられ、アリル、ジャミル、ティニア、リオンの順に会議室に現れた。
「お久しぶりです、セリアさま!」
「お元気そうで何よりですわ」
「何もお変わりは無いようですね」
「…息災そうで何よりです」
2ヶ月に一度の会議の場。
皆、何も無い事を喜んでいる。
だが、アリルがどこか素っ気無いのが引っ掛かる。
(…?)
些か不思議に思うも、まあそんな日もあるだろうと、さして気にも止めずに「こちら側は何もありませんよ。あなた方も、お元気そうで何よりです」とだけ返しておいた。
そして、今回の会議の議題は。
「来月、我々が隣国のクラハスタ王国に赴くのは、既にお伝えしてますよね?
同行する人数は、女王以下、総勢で100名強です。
まぁ、人数も少ないですし、今回は四大聖神である貴方達はエリュージャルに残り、私の不在中の警護に就いて頂きたく思うのですが、いかがかしら?」
「クラハスタ王国に赴かれるのは、何日程ですか?」
「現状予定では往復を含め、約半月程ね、ティニア。
無論、状況によっては前後します」
「…では、二人は警護に就き、二人は同行しませんか?
幾ら隣国と言えど、全く安全と言うわけではありませんもの」
「…では、今回はジャミル神とリオン神で行かせては如何でしょうか?
リオンの経験にもなるし、ジャミルがいれば、仮に何かあっても安心でしょう」
女王に同行するメンバーの纏めに入ったアリルに、リオンはふと疑問を投げ掛けた。
「アリルにいさまは、行かないのですか?」
「別に、私が行かなくても大丈夫だろう?
無論、何かあればスグに駆けつけるが」
「そう言って、城に残ってティニア神とイチャつくのが目的では無いのかな?アリル神どの」
リオンの疑問に答えるアリルに対して、完全に冷やかしたチャチャを入れるジャミル。
それだけ普段の2人がラブラブな証拠だが、この場には相応しく無い遊びだ。
当然、根が生真面目なアリルはジャミルに食って掛かった。
「何をバカな…!」
キッと睨み付ける。
元々が美人顔のアリルなだけに、凄みが増す。
…が、子供の頃からの付き合いのジャミルには効果が無く、どこ吹く風である。
「ま、まぁまぁ!
二人とも、睨み合いしないの!
私はジャミル神とリオン神が来てくれるなら、心強いわよ?」
「ホントですか?セリアさまっ!」
慌てて仲裁に入るセリア。
実際問題、今回は誰が来てくれても大丈夫だし、リオンとジャミルなら楽しいだろうと思ったのも事実だ。
リオンとは(性別は違えど)姉妹の様だし、ジャミルには兄の様に慕っている部分もある。
嘘は全く言っていない。
「いやいや、陛下。
リオン神が行くと騒がしいですよ?
…それに、アリル神はエリス王子にお会いしなくても良いのか?」
セリアの提案に、やや苦言を呈するジャミル。
遊びで行かない以上、未熟なリオンを少ない人数に加えるのは心許ないのも事実だ。
セリアの従兄弟の、クラハスタ王国の王太子エリス。
彼とも旧知の仲であるアリル。
最近では何か用が無ければ、中々会えないので皆が口を揃えて同行しなくて良いのかと問うのだ。
言われた本人は、自分の意思よりリオンの経験を優先させる事を伝えたが。
「…うーん、そうだなぁ…。
しかし、別に私が行くまでも無い気がするが…。
やはり今回は、先程の提案通りリオンを同行させて頂き経験を積ませた方が宜しいかと。
ま、何かしらミスがあるからフォローはジャミルに任せた」
「そう言えば、アリルさまはエリス殿下と息がピッタリでしたわよね。
機会があれば、私も久しぶりに殿下にお会いしたいですわ」
「いや、息がピッタリ…と言うのかな…?
アレは…」
ふんわりしたティニアの言葉に首を傾げる。
アリル自身は決して息が合うとは思ってないが、どうやら向こうが気に入ってくれたらしく、会えば色々と絡んで来るのだ。
*
クラハスタ王家は、元々エリュージャル王家から派生している為にエリュージャル人と似た風貌を持つ。
唯一違う点は、エリュージャル人は青い瞳を持つが、クラハスタ人は緑の瞳を持つ事だ。
髪は同じ黒髪同士なので、見分ける点はそこになる。
因みに、エリュージャルは森の要塞を持つが、クラハスタは広大な見晴らしの良い領土を持つ。
見晴らしが良い分、戦になれば戦略が立て易いのが利点だ。
また、良質な鉱山を複数抱えているので鉄製品や金細工などが盛んな産業である。
「クラハスタ王国の金細工とエリュージャル王国の織物」と言えば、金持ちがこぞって欲しがる二大ブランドでもある。
その様な繋がりの為、セリアとエリスは幼い頃から交流があった。
子供の頃は、セリア、エリスと、セリアの許嫁のレギの3人で遊ぶ事が多かった。
その内にセリアの両親が殺害され、それとほぼ同時期にレギが行方不明になった。
そして女王に即位した事によりエリスと個人で会う事が無くなって行ったのだ。
アリルとエリスは幼少時に一度だけ会い、その後に水神として再会した。
以後、外交時など機会があれば僅かな時間でも会う仲になった。
今では、一晩中、酒に付き合わされる事も珍しくは無い。
「…良かったら、アリル神もご一緒しませんか?
ー…きっとエリスさまも喜ばれますもの」
セリアのダメ押しも手伝い、結局同行者はアリルとジャミルになったのだ。
「詳しい日程が決まり次第、また連絡を差し上げますね」
その言葉により、クラハスタ王国への話は終了した。
他にも、幾つかの議題を済ませ、この日の会議は無事に閉会したのである。
「でも、ジャミルが一緒に行くとは思わなかったな」
会議が終わり、セリアが退室した後。
資料の片付けをしているジャミルに声をかけた。
「?…何でだよ」
「いや、普段はラケディアの傍を離れたがらないから、さ?」
「ん~…。
まぁなあ。
しかし仕事だし。
幾ら隣国とはいえ、外国に行くなんて中々無いだろ?
お前が行くなら兎も角、一緒に行くのがリオンだと少し心配だしなー」
「まあっ!ジャミルにいさま、酷いですわっ!」
「クスクス。
リオンも早く皆様に認められる様に頑張らなくてはね?」
「~…ティニアねえさまぁ…」
ジャミルの言葉に噛み付くリオン。
可愛らしく腰に手を当てて憤慨する様は、怒っていても迫力に欠けてしまう。
そして、そんな彼を優しく穏やかに宥めるティニア。
リオンもティニアには頭が上がらないのか、柳眉が下がってしまう。
「…ティニア。
ぼくとジャミルが戻るまで、この国を頼むよ?」
「お任せ下さいませ、アリルさま!
不肖の身ながら、このティニアとリオン、皆様の足手まといにならぬ様、精一杯尽力を捧げたく思いますわ」
「それは心強いな。
ただ、張り切りすぎて、ケガをしない様にね?
君に何かあったら、君の母上に顔向け出来ないし、…何より、ぼくが辛い」
「…アリルさま…」
ティニアの柔らかい髪を優しく撫でながら囁くアリルの言葉を心底嬉しそうに、ウットリとした表情で聞き入っていた。
恒例の女王と四大聖神の会議の日。
セリアはどこかソワソワしていた。
アリルとは、満月の日の密会以来に会う。
尤も、仕事バカな彼の事だ。
あの後だからと、自分に対する態度が変わるとは思えないが…。
それでも…。
それでも。
あんなキスをした後だ。
どこか顏が綻んでしまう。
(ダメね、しっかりしなきゃ。怒られちゃう)
フフッと笑いながら、会議の支度をしつつ、午前中の執務をこなしていた。
そして、午後。
侍女に連れられ、アリル、ジャミル、ティニア、リオンの順に会議室に現れた。
「お久しぶりです、セリアさま!」
「お元気そうで何よりですわ」
「何もお変わりは無いようですね」
「…息災そうで何よりです」
2ヶ月に一度の会議の場。
皆、何も無い事を喜んでいる。
だが、アリルがどこか素っ気無いのが引っ掛かる。
(…?)
些か不思議に思うも、まあそんな日もあるだろうと、さして気にも止めずに「こちら側は何もありませんよ。あなた方も、お元気そうで何よりです」とだけ返しておいた。
そして、今回の会議の議題は。
「来月、我々が隣国のクラハスタ王国に赴くのは、既にお伝えしてますよね?
同行する人数は、女王以下、総勢で100名強です。
まぁ、人数も少ないですし、今回は四大聖神である貴方達はエリュージャルに残り、私の不在中の警護に就いて頂きたく思うのですが、いかがかしら?」
「クラハスタ王国に赴かれるのは、何日程ですか?」
「現状予定では往復を含め、約半月程ね、ティニア。
無論、状況によっては前後します」
「…では、二人は警護に就き、二人は同行しませんか?
幾ら隣国と言えど、全く安全と言うわけではありませんもの」
「…では、今回はジャミル神とリオン神で行かせては如何でしょうか?
リオンの経験にもなるし、ジャミルがいれば、仮に何かあっても安心でしょう」
女王に同行するメンバーの纏めに入ったアリルに、リオンはふと疑問を投げ掛けた。
「アリルにいさまは、行かないのですか?」
「別に、私が行かなくても大丈夫だろう?
無論、何かあればスグに駆けつけるが」
「そう言って、城に残ってティニア神とイチャつくのが目的では無いのかな?アリル神どの」
リオンの疑問に答えるアリルに対して、完全に冷やかしたチャチャを入れるジャミル。
それだけ普段の2人がラブラブな証拠だが、この場には相応しく無い遊びだ。
当然、根が生真面目なアリルはジャミルに食って掛かった。
「何をバカな…!」
キッと睨み付ける。
元々が美人顔のアリルなだけに、凄みが増す。
…が、子供の頃からの付き合いのジャミルには効果が無く、どこ吹く風である。
「ま、まぁまぁ!
二人とも、睨み合いしないの!
私はジャミル神とリオン神が来てくれるなら、心強いわよ?」
「ホントですか?セリアさまっ!」
慌てて仲裁に入るセリア。
実際問題、今回は誰が来てくれても大丈夫だし、リオンとジャミルなら楽しいだろうと思ったのも事実だ。
リオンとは(性別は違えど)姉妹の様だし、ジャミルには兄の様に慕っている部分もある。
嘘は全く言っていない。
「いやいや、陛下。
リオン神が行くと騒がしいですよ?
…それに、アリル神はエリス王子にお会いしなくても良いのか?」
セリアの提案に、やや苦言を呈するジャミル。
遊びで行かない以上、未熟なリオンを少ない人数に加えるのは心許ないのも事実だ。
セリアの従兄弟の、クラハスタ王国の王太子エリス。
彼とも旧知の仲であるアリル。
最近では何か用が無ければ、中々会えないので皆が口を揃えて同行しなくて良いのかと問うのだ。
言われた本人は、自分の意思よりリオンの経験を優先させる事を伝えたが。
「…うーん、そうだなぁ…。
しかし、別に私が行くまでも無い気がするが…。
やはり今回は、先程の提案通りリオンを同行させて頂き経験を積ませた方が宜しいかと。
ま、何かしらミスがあるからフォローはジャミルに任せた」
「そう言えば、アリルさまはエリス殿下と息がピッタリでしたわよね。
機会があれば、私も久しぶりに殿下にお会いしたいですわ」
「いや、息がピッタリ…と言うのかな…?
アレは…」
ふんわりしたティニアの言葉に首を傾げる。
アリル自身は決して息が合うとは思ってないが、どうやら向こうが気に入ってくれたらしく、会えば色々と絡んで来るのだ。
*
クラハスタ王家は、元々エリュージャル王家から派生している為にエリュージャル人と似た風貌を持つ。
唯一違う点は、エリュージャル人は青い瞳を持つが、クラハスタ人は緑の瞳を持つ事だ。
髪は同じ黒髪同士なので、見分ける点はそこになる。
因みに、エリュージャルは森の要塞を持つが、クラハスタは広大な見晴らしの良い領土を持つ。
見晴らしが良い分、戦になれば戦略が立て易いのが利点だ。
また、良質な鉱山を複数抱えているので鉄製品や金細工などが盛んな産業である。
「クラハスタ王国の金細工とエリュージャル王国の織物」と言えば、金持ちがこぞって欲しがる二大ブランドでもある。
その様な繋がりの為、セリアとエリスは幼い頃から交流があった。
子供の頃は、セリア、エリスと、セリアの許嫁のレギの3人で遊ぶ事が多かった。
その内にセリアの両親が殺害され、それとほぼ同時期にレギが行方不明になった。
そして女王に即位した事によりエリスと個人で会う事が無くなって行ったのだ。
アリルとエリスは幼少時に一度だけ会い、その後に水神として再会した。
以後、外交時など機会があれば僅かな時間でも会う仲になった。
今では、一晩中、酒に付き合わされる事も珍しくは無い。
「…良かったら、アリル神もご一緒しませんか?
ー…きっとエリスさまも喜ばれますもの」
セリアのダメ押しも手伝い、結局同行者はアリルとジャミルになったのだ。
「詳しい日程が決まり次第、また連絡を差し上げますね」
その言葉により、クラハスタ王国への話は終了した。
他にも、幾つかの議題を済ませ、この日の会議は無事に閉会したのである。
「でも、ジャミルが一緒に行くとは思わなかったな」
会議が終わり、セリアが退室した後。
資料の片付けをしているジャミルに声をかけた。
「?…何でだよ」
「いや、普段はラケディアの傍を離れたがらないから、さ?」
「ん~…。
まぁなあ。
しかし仕事だし。
幾ら隣国とはいえ、外国に行くなんて中々無いだろ?
お前が行くなら兎も角、一緒に行くのがリオンだと少し心配だしなー」
「まあっ!ジャミルにいさま、酷いですわっ!」
「クスクス。
リオンも早く皆様に認められる様に頑張らなくてはね?」
「~…ティニアねえさまぁ…」
ジャミルの言葉に噛み付くリオン。
可愛らしく腰に手を当てて憤慨する様は、怒っていても迫力に欠けてしまう。
そして、そんな彼を優しく穏やかに宥めるティニア。
リオンもティニアには頭が上がらないのか、柳眉が下がってしまう。
「…ティニア。
ぼくとジャミルが戻るまで、この国を頼むよ?」
「お任せ下さいませ、アリルさま!
不肖の身ながら、このティニアとリオン、皆様の足手まといにならぬ様、精一杯尽力を捧げたく思いますわ」
「それは心強いな。
ただ、張り切りすぎて、ケガをしない様にね?
君に何かあったら、君の母上に顔向け出来ないし、…何より、ぼくが辛い」
「…アリルさま…」
ティニアの柔らかい髪を優しく撫でながら囁くアリルの言葉を心底嬉しそうに、ウットリとした表情で聞き入っていた。
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