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魔法の修行は厳しい

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「違う。何度も言ったろ。


ー…そうじゃない」



仮初めとは言え、リオンの弟子となった千種。

取り敢えず、もしも誰かに千種の事を聞かれた時に怪しまれずに誤魔化せるよう。
最低限の魔法の勉強を始めたのだ。


修行とはとても言えない、初歩の初歩。
尤も、それまで魔法と言うものに関わった事のない千種には、青天の霹靂だ。
リオンがユックリ、優しく発音してもどうしても千種に伝わらない。
英語とも日本語とも違う発音に、完全にお手上げだ。


「~…ごめんなさい」


「いや、チグサのせいじゃ無い。


ぼくの教え方が悪いんだ。すまない」



「リオン先生のせいじゃないよ。

私が出来ないから…」


申し訳無さと不甲斐なさで肩を落とす。


リオンの教え方は、きっと魔法に慣れ親しんだエリュージャル人ならスグに伝わるのだろう。

こういう時、自分が異質な存在と思い知らされる。

一生懸命教えてくれるリオンに申し訳無い。



「…少し、休憩しようか」


「…うん」 



持って産まれた才能はどうしようも無い。
ある者には溢れる程にあるし、無い者は逆立ちしても無いのだ。

努力でカバーするのには限度がある。



千種は、学校の勉強は平均以上だが如何せん魔法は縁がない。


「リオン先生の顔に、泥を塗っちゃうね…」


リオンに出された紅茶を口に運びながら、ポツリ口にする。



「…気にするな。

ぼくだって、ここまで来るのに何百年もかかった。

少しずつ出来る様になれば良いさ」




「うん…」



「それに、まずはこの世界の文字を読み書き出来る様にならないとな。
いつまでも翻訳が必要なのもチグサも不便だろ」


「うん…」


リオンが、どうした物かと考えを巡らせる間。
千種はじっとテーブルに置かれたティーカップを見つめ続けた。
何かを睨む様に見ていないと思ったから。



「チグサ?」



「…」



 泣いても仕方無いのは分かっているのに。


「今は、焦っても仕方無いんだ。
焦る方が、悪い方向へ導かれてしまう。

だから。ー…ゆっくり深呼吸をして。




チグサの思った通りに動けば良い」



リオンの優しさに、ダメだと分かっていても涙が溢れてしまう。




ー…でも。




(ーーーも、やだ!)




自分の出来なさ具合に腹が立つ。

頭の中に嵐の情景が浮かんだ。


魔法に大切なのは、イメージを明確にする事。

次は、そのイメージをいかに正確に具現するか、だ。


千種はイメージは出来ても具現が出来ないのだ。


雨を降らせる位、初歩の初歩だが生憎と水の一滴も出ないのだ。



「もー!!

雨よ、降れーーーー!!」


声の限りに絶叫する。
リオンは、それでは魔法は発動しないと呆れ混じりの視線で諭す。


分かってる。
リオンの言う事なんて分かっている。

それでも今の千種は、叫ばずにいられなかった。


叫んで。

心の限りに叫んで。


肺と脳内を空っぽにすれば、きっと気持ちが切り替わると思ったから。





ふぅ。と息を吐いた。


「えへへ、リオン先生。
ちょっとガス抜きしちゃった。

急に叫んじゃって、ごめんなさい!」



「それは別に構わないが…」



心配そうに見つめるリオン。


ー…まだ、続けられるか?


と、沈黙の問いを静かに頷き肯定する。




「少し休憩しよう。
買い出しに行って、夕食後にまた復習だ」



「はい、先生…」


取り敢えず、リセットしようと言うリオンの提案に頷いた刹那。




異変は突然やって来た。
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