20 / 30
20 魔法は解けて ①
しおりを挟む
自分の首筋に冷たくて鋭い物が当たるのを感じた瞬間――当たった部分の皮膚が熱くなる。
ほんの少しチクリとした痛みを感じた――と思うと同時に、わたしは激しい眩暈に襲われた。
視界が視界がグルグルと渦を巻いて、自分で自分の身体を支えられなくなりそうだ。
(座っているのに…倒れてしまいそう…)
ぐらりと傾きそうになるわたしの身体を、さっと力強い誰かの腕が支えてくれた。
『誰かしら』と思う間もなく次の瞬間、いきなり薄い紗幕が掛かったかの様な状態の自分の小さい頃の記憶の映像が頭の中に映し出された。
(あ…あれは)
あれは――わたしが八歳の時のある場面だ。
覚えている。
お父様に呼ばれて――わたしが中庭へと向かうと、お父様が誰かお客様と楽しそうに談笑をしている声が聞こえた。
あの日確か…お父様が『これから新しいお義母様を紹介する』と、新しく義母になるという『ライラ様』という女性を、イーデン家へと連れて来たのだ。
お母様が家を出ていってから、直ぐの話しだった。
あまりの急な事態の展開に、わたしは幼いながらも驚いていた。
「実はな…お前には初めて紹介するが、これからお前の新しい母親になってくれる女性なのだ。仲良くしてやってくれ」
するとその女性は、スッとお父様の影の中から抜け出す様に姿を現した。
美しく金髪を結い上げたすらりとした女性が、わたしの目の前に姿勢良く立っている。
(そうだわ…思い出した)
わたしは直感的に――何故か『この女性が怖い』と思ったのだ。
流行のドレスを完璧に着こなしたその女性は、白いパラソルをさしていて、わたしを見下ろしたその女性の顔がは、靄がかかった様にはっきりと見えない。
彼女は、か細く柔らかな声でわたしへと云った。
「初めまして。キャロライン様。わたくし…ライラと申します。どうぞ仲良くしてくださいませね」
けれど次の場面で――わたしは目を見張った。
彼女の真っ赤な口紅を塗った唇が、声にはならずパクパクと動いたのだ。
『の・ろ・わ・れ・ろ』
真っ赤な唇がヌメヌメとした生き物の様に動く。
そして――いきなりその口の両端が、きゅっと思い切り吊り上がった。
わたしは呆然と彼女の顔を見上げ――小さく悲鳴を上げた。
(どうして忘れていたのだろう…?)
彼女は。
彼女の姿は。
義妹『レティシア』の姿だった。
++++++
「キャロル!危ない…!」
わたしの身体から力が抜けてぐらりと傾き、そのまま地面に倒れてしまいそうになる所を間一髪誰かの腕が支えてくれた。
「ごめんよ。やはり君に負担が大き過ぎた…大丈夫かい?キャロル」
はっと気が付いたわたしは、そこで『倒れない様に』とわたしの腕を引いてくれた人物の顔を見上げた。
わたしは驚いてしまった。
見た事のない、知らない人だったのだ。
「…ふぁっ…?」
(だ…誰、この人…?)
わたしの目の前にいる男性が、一体誰なのか分からなかった。
「…あの…?」
「キャロル…キャロル、気分はどう?身体は大丈夫かい?」
心配そうな表情でわたしの顔を覗き込み、身体を支えてくれているのは、艶やかな黒髪に黒い瞳の――とても端正なつくりをした甘い顔立ちの男性だ。
(…え?誰かしら…?このヒト…)
何処かで見た事があるような気がしてけれど、私は思わず呟いていた。
「ダ…ダニエル様は…何処にいますの?」
それよりもダニエル様は一体どうなってしまったのか…わたしは心配で仕方が無かった。
わたしの傍にあの少年のダニエル様の姿が無い。
銀髪の髪の少年――わたしが囲む様にして庇った少年の姿がすっかり消えてしまっている。
(わたしの生気で良かったのかしら?…十分に吸って頂けたのかしら?)
もしや――あのまま吸血鬼になってしまった訳じゃないよね。
生気を吸う為にダニエル様に歯を立てられたけれど、首のチクリとした痛みは今は無い。
けれど――自分の身体が異様に重く…怠く感じる。
そして、異様に眠い。
急に訪れた恐ろしい程の眠気に、わたしの頭は全く働かなかった。
瞼が重りを付けた様に重くて、そのまま意識が眠りの闇に転がり落ちてしまいそうだ。
「ダ、ダニエル様…ダニエル様は何処にいってしまったのれすか…?」
わたしは半泣きの口調のまま、辺りを見渡してダニエル様の姿を捜した。
すると小さくため息をついたミハエル神父が、呆れた様な口調でわたしを見下ろしながら言った。
「おいおい、どうやら…このお嬢ちゃんはお前の元の姿が分からんらしいぞ」
「ふぁ?…元の…?」
(…元って何の事?)
そのまま意識が無くなってしまいそうな眠気に必死で逆らいながら、わたしはミハエル神父へと尋ねた。
すると、目の前で膝まづく黒髪で黒い瞳の美しい青年は、わたしへと優しく微笑みかけた。
「キャロル…僕だよ」
わたしの肩をしっかりと節のしっかりとした長い指が掴んでいる。
「僕が…ダニエルだよ。肖像画を見せただろう?君のお陰でやっと元の姿に戻れたんだんだ」
ほんの少しチクリとした痛みを感じた――と思うと同時に、わたしは激しい眩暈に襲われた。
視界が視界がグルグルと渦を巻いて、自分で自分の身体を支えられなくなりそうだ。
(座っているのに…倒れてしまいそう…)
ぐらりと傾きそうになるわたしの身体を、さっと力強い誰かの腕が支えてくれた。
『誰かしら』と思う間もなく次の瞬間、いきなり薄い紗幕が掛かったかの様な状態の自分の小さい頃の記憶の映像が頭の中に映し出された。
(あ…あれは)
あれは――わたしが八歳の時のある場面だ。
覚えている。
お父様に呼ばれて――わたしが中庭へと向かうと、お父様が誰かお客様と楽しそうに談笑をしている声が聞こえた。
あの日確か…お父様が『これから新しいお義母様を紹介する』と、新しく義母になるという『ライラ様』という女性を、イーデン家へと連れて来たのだ。
お母様が家を出ていってから、直ぐの話しだった。
あまりの急な事態の展開に、わたしは幼いながらも驚いていた。
「実はな…お前には初めて紹介するが、これからお前の新しい母親になってくれる女性なのだ。仲良くしてやってくれ」
するとその女性は、スッとお父様の影の中から抜け出す様に姿を現した。
美しく金髪を結い上げたすらりとした女性が、わたしの目の前に姿勢良く立っている。
(そうだわ…思い出した)
わたしは直感的に――何故か『この女性が怖い』と思ったのだ。
流行のドレスを完璧に着こなしたその女性は、白いパラソルをさしていて、わたしを見下ろしたその女性の顔がは、靄がかかった様にはっきりと見えない。
彼女は、か細く柔らかな声でわたしへと云った。
「初めまして。キャロライン様。わたくし…ライラと申します。どうぞ仲良くしてくださいませね」
けれど次の場面で――わたしは目を見張った。
彼女の真っ赤な口紅を塗った唇が、声にはならずパクパクと動いたのだ。
『の・ろ・わ・れ・ろ』
真っ赤な唇がヌメヌメとした生き物の様に動く。
そして――いきなりその口の両端が、きゅっと思い切り吊り上がった。
わたしは呆然と彼女の顔を見上げ――小さく悲鳴を上げた。
(どうして忘れていたのだろう…?)
彼女は。
彼女の姿は。
義妹『レティシア』の姿だった。
++++++
「キャロル!危ない…!」
わたしの身体から力が抜けてぐらりと傾き、そのまま地面に倒れてしまいそうになる所を間一髪誰かの腕が支えてくれた。
「ごめんよ。やはり君に負担が大き過ぎた…大丈夫かい?キャロル」
はっと気が付いたわたしは、そこで『倒れない様に』とわたしの腕を引いてくれた人物の顔を見上げた。
わたしは驚いてしまった。
見た事のない、知らない人だったのだ。
「…ふぁっ…?」
(だ…誰、この人…?)
わたしの目の前にいる男性が、一体誰なのか分からなかった。
「…あの…?」
「キャロル…キャロル、気分はどう?身体は大丈夫かい?」
心配そうな表情でわたしの顔を覗き込み、身体を支えてくれているのは、艶やかな黒髪に黒い瞳の――とても端正なつくりをした甘い顔立ちの男性だ。
(…え?誰かしら…?このヒト…)
何処かで見た事があるような気がしてけれど、私は思わず呟いていた。
「ダ…ダニエル様は…何処にいますの?」
それよりもダニエル様は一体どうなってしまったのか…わたしは心配で仕方が無かった。
わたしの傍にあの少年のダニエル様の姿が無い。
銀髪の髪の少年――わたしが囲む様にして庇った少年の姿がすっかり消えてしまっている。
(わたしの生気で良かったのかしら?…十分に吸って頂けたのかしら?)
もしや――あのまま吸血鬼になってしまった訳じゃないよね。
生気を吸う為にダニエル様に歯を立てられたけれど、首のチクリとした痛みは今は無い。
けれど――自分の身体が異様に重く…怠く感じる。
そして、異様に眠い。
急に訪れた恐ろしい程の眠気に、わたしの頭は全く働かなかった。
瞼が重りを付けた様に重くて、そのまま意識が眠りの闇に転がり落ちてしまいそうだ。
「ダ、ダニエル様…ダニエル様は何処にいってしまったのれすか…?」
わたしは半泣きの口調のまま、辺りを見渡してダニエル様の姿を捜した。
すると小さくため息をついたミハエル神父が、呆れた様な口調でわたしを見下ろしながら言った。
「おいおい、どうやら…このお嬢ちゃんはお前の元の姿が分からんらしいぞ」
「ふぁ?…元の…?」
(…元って何の事?)
そのまま意識が無くなってしまいそうな眠気に必死で逆らいながら、わたしはミハエル神父へと尋ねた。
すると、目の前で膝まづく黒髪で黒い瞳の美しい青年は、わたしへと優しく微笑みかけた。
「キャロル…僕だよ」
わたしの肩をしっかりと節のしっかりとした長い指が掴んでいる。
「僕が…ダニエルだよ。肖像画を見せただろう?君のお陰でやっと元の姿に戻れたんだんだ」
10
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
クラスの双子と家族になりました。~俺のタメにハーレム作るとか言ってるんだがどうすればいい?~
いーじーしっくす
恋愛
ハーレムなんて物語の中の事。自分なんかには関係ないと思っていた──。
橋本悠聖は普通のちょっとポジティブな陰キャ。彼女は欲しいけど自ら動くことはなかった。だがある日、一人の美少女からの告白で今まで自分が想定した人生とは大きくかわっていく事になった。 悠聖に告白してきた美少女である【中村雪花】。彼女がした告白は嘘のもので、父親の再婚を止めるために付き合っているフリをしているだけの約束…の、はずだった。だが、だんだん彼に心惹かれて付き合ってるフリだけじゃ我慢できなくなっていく。
互いに近づく二人の心の距離。更には過去に接点のあった雪花の双子の姉である【中村紗雪】の急接近。冷たかったハズの実の妹の【奈々】の危険な誘惑。幼い頃に結婚の約束をした従姉妹でもある【睦月】も強引に迫り、デパートで助けた銀髪の少女【エレナ】までもが好意を示し始める。
そんな彼女達の歪んだ共通点はただ1つ。
手段を問わず彼を幸せにすること。
その為だけに彼女達は周りの事など気にせずに自分の全てをかけてぶつかっていく!
選べなければ全員受け入れちゃえばいいじゃない!
真のハーレムストーリー開幕!
この作品はカクヨム等でも公開しております。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
王太子から婚約破棄され、嫌がらせのようにオジサンと結婚させられました 結婚したオジサンがカッコいいので満足です!
榎夜
恋愛
王太子からの婚約破棄。
理由は私が男爵令嬢を虐めたからですって。
そんなことはしていませんし、大体その令嬢は色んな男性と恋仲になっていると噂ですわよ?
まぁ、辺境に送られて無理やり結婚させられることになりましたが、とってもカッコいい人だったので感謝しますわね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる