上 下
14 / 51
13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました 【side A】

14 お城を立て直しましょう

しおりを挟む
 

 翌日の朝、ベッドサイドテーブルを見ると昨日のピンクのバラではなく
 今度はフリージアの花束が飾ってあった。

 甘い――良い香りが部屋中を満たしている。
(昨夜の花の香りは…これね)

 夜中に寝室に来てわたしの額にキスをしていったのは誰だろう?
――といっても、まあ普通ならジョシュア様しか考えられないが。

(それ以外なら、ちょっとしたサスペンスになってしまうわよ)

 また今回もカードが添えられていて、走り書きで以下の内容が簡潔に書いてあった。

『おはよう。バートンに足首の件も聞いた。
 昨日は大変だったようだが、今朝の気分はどうだろうか?

 オリバーのことは、きみが嫌じゃなければ手を借りるといい』

 初日に比べたら大分文章が長い――うん、いい傾向だわ、とわたしは思った。

 来た時こそすれ、この結婚がダメなら離婚しよう――と思っていたが、この『苔城』の人達が皆いい人過ぎるのと、ジョシュア様の環境の不憫さで、離婚を今簡単に考えるのは保留にしようかな――とさえ思い始めていたのだ。

(少なくともこの城に住む人の不遇さを、少しでも改善してから去りたいわ)
 弟シャルルの『人が良すぎる』の言葉が頭に過ったけれども。

 とりあえず、半年…いや三ヶ月だけでも粘りたいところだったから、ジョシュア様のカードに書かれるメッセージの長さは、少しは希望の持てる事象の一つだった。

 +++++++++++++++++

 起き上がってベルを鳴らすと、デイジーがやって来て、身支度の手伝いをしてくれる。
 昨日よりは右足首の痛みと腫れも治まってきているようだった。

「――しばらくの間は、お部屋で過ごされることになりますね」
 と髪にリボンを付けながらデイジーが言う。

「え?どうして?」
 なぜ部屋に閉じこもらねばならないのかが分からない。

「――だって先生から安静のご指示が…」

「足の安静でしょ?自分で歩かなければいいんでしょ?」
 口をぽかんと開けてデイジーはわたしを見つめていた。

「それはそうですけれど…」

「うんうん、そうでしょ?…だから、移動はオリバーに手伝ってもらうからいいわ。でも彼も業務があるでしょうから、これからバートンを部屋に呼んでもらいたいの。従業員採用の進展具合と、良ければ面談の日程も決めておきたいから」

 わたしはデイジーにそう一気に言うとグーッと鳴り始めた自分のお腹を擦った。
「じゃあ、朝食にしましょう。お腹が空いちゃったわ」

 +++++++++++++++++

 バートンは非常に優秀で、お給金がいいからと既に何人からか打診があった就職希望者から、一通りの簡単な聞き取り調査をして終えていたらしい。

「じゃあ、この子とこの子、それからこの少し年配の方も面談して良ければ採用しましょう。後、庭師は真面目そうなこの二人、コックの履歴書は…あ、コック長は読み書き出来るの?」

 わたしは朝食のオムレツをパクパクと口に入れて片付けながらバートンへ訊いた。
 エシャロットと角切りトマト、チーズが入っているようだ。

「はい。出来ます」
「この屋敷の識字率は素晴らしいわ。コックなのに…」

「いえ…彼は特殊でして――それよりも、奥様」

 わたしの顔を見ながらバートンが呟いた。

「そんな…書類をお読みになりながら、お食べにならずとも…」

「あ、そうね。ヘイストン家での癖が出ちゃったわ、ごめんなさい。
 ――テーブルマナーが悪かった?」

「いえ。…そういう事では無く…なぜそんなに慣れていらっしゃるのか…」
「…ええ。マナーは完璧でお美しゅうございますが…」

 デイジーとバートンが同時に言ったのけれど…何が言いたいんだろう?

 ヘイストン侯爵家では朝食のテーブルの上に数部の新聞と、膨大なヘイストン侯爵領の収支の書類が並べられる。

 ――勿論シャルルの方にも同じように並べられていた。
 これは跡取り競争の課題の一つでもあったから。

(悔しいかな…シャルルのほうが書類が多いにも関わらず、早く終わっていたのだけれど)

 一瞬でそれを見つつ、となりに控える秘書に問題点を指摘していく――という行為を何年かやっていたわたしにとって
(朝食の席で履歴書を確認するのは朝飯前なんだけどな)

 ――と思いつつ、異星人を見るようなバートンの視線を感じてしまったので
(結婚したら自重すべきかしらね…郷に入っては郷に従えって言うし)
 とも思ったのだった。

 +++++++++++++++++

 面談の日程を整えて貰うと、わたしはジョシュア様が頂いている王宮からの送金の書類を、もう一度確認していった。

 すでにヘイストン侯爵家に昨日遣いは送ったが、それまでに確認する事がまだあった。

 そうこうしているうちに昼近くになると、椅子にキャスターをつけた車いすなるものをオリバーが持って来てくれた。

 どうやら屋敷にあるものを使って、わざわざつくってくれたらしい。
(確かにずっと抱えて運ぶ訳にもいかないしね)

「座ってもらうと後ろから背もたれを押して移動できるそうです」
 オリバーが書いたメモを見て、バートンが説明してくれる。

「ありがとう。オリバー、助かったわ」
 これならデイジーにも押してもらえそうだったし、痛くないほうの足を使えばゆっくりだけど、自分で移動もできそうだ。

 オリバーは美しい顔でにっこりと笑った。

 後光が差すようなありがたい感じの微笑みだった。
 思わず胸の前で指を切りたくなる。

 救世主オリバーのお陰でわたしは車いすに乗って部屋から出て、広間で昼食を無事食べる事ができたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る

束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。 幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。 シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。 そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。 ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。 そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。 邪魔なのなら、いなくなろうと思った。 そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。 そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。 無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜

まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください! 題名の☆マークがえっちシーンありです。 王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。 しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。 肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。 彼はやっと理解した。 我慢した先に何もないことを。 ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。 小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました* コミカライズは最新話無料ですのでぜひ! 読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします! ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。 王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?  担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。 だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!

【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
「俺と結婚してくれたら、衣食住完全補償。なんだったら、キミの実家に支援させてもらうよ」 「え、じゃあ結婚します!」 メラーズ王国に住まう子爵令嬢マーガレットは悩んでいた。 というのも、元々借金まみれだった家の財政状況がさらに悪化し、ついには没落か夜逃げかという二択を迫られていたのだ。 そんな中、父に「頼むからいい男を捕まえてこい!」と送り出された舞踏会にて、マーガレットは王国の二大公爵家の一つオルブルヒ家の当主クローヴィスと出逢う。 彼はマーガレットの話を聞くと、何を思ったのか「俺と契約結婚しない?」と言ってくる。 しかし、マーガレットはためらう。何故ならば……彼には男色家だといううわさがあったのだ。つまり、形だけの結婚になるのは目に見えている。 そう思ったものの、彼が提示してきた条件にマーガレットは飛びついた。 そして、マーガレットはクローヴィスの(契約)妻となった。 男色家疑惑のある自由気ままな公爵様×貧乏性で現金な子爵令嬢。 二人がなんやかんやありながらも両想いになる勘違い話。 ◆hotランキング 10位ありがとうございます……! ―― ◆掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

処理中です...