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13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました 【side A】
8 旦那様に拒否られて
しおりを挟む「きゃあああ!」
いきなり蝋燭の灯りが消えた事で部屋が真っ暗になった。
一瞬の暗転でわたしもパニックに陥ってしまう。
「ま…窓…窓は…」
ベッドから慌てて転びそうになりながら降りると、窓際まで暗闇の中で手を前に突き出して進む。
やっと窓際に移動して分厚いカーテンを開けると、そこにはある筈の明るい月明りが…。
――――無かった。
月は分厚い雲に阻まれて、月明りどころか鬱蒼とした黒い森のシルエットががっつり見えて、目には見えない何か(魔物系)が湧き上がってきそうでさっきよりもずっと、もっと怖くなる。
(ひょえええ……)
慌ててさっとカーテンを閉め直し、また手探りでベッドのシーツの中に潜り込んだ。
(めっちゃ怖いじゃないの……)
頭から被ったシーツの中で、もぞもぞといも虫のように動いていると、部屋の扉が小さくカチリと開く音がして静かに人影が入ってきた。
廊下も薄暗くさっきの森を見たせいか、入って来る影がなんだか魔物にも見えてくるから不思議だ。
その影は音がしない様に静かに閉めた後、こちらに近づいてきた。
入ってきた人影――多分ジョシュア様だと思うが、暗すぎてベッドの位置が分からないらしい。
部屋の中が暗くてウロウロしているのが、シーツの中で息を潜めているわたしにも気配で分かった。
そのうちガタンと音がして
「痛ッ…!小指がっ…」
と小さく男性の声がした。
気の毒なことにどうやら見えなさすぎて、ベッドの脚かサイドテーブルに足をぶつけてしまったらしい。
「……あの、大丈夫ですか?」
恐る恐るシーツから顔を出し尋ねると、ぎょっとしたような影の頭がこちらを向くのが分かった。
(多分、眠っていると思われたんだろうな)
と思いつつも、わたしの声も知らずひそひそ声になってしまった。
「あの…アリシア=ヘイストンと申します。この度嫁いでまいりました。お仕事がお忙しい所に押し掛けるような形になって申し訳ありません」
ジョシュア様の影はハア…とため息をついたように思われた。
「…持参金の話をバートンから聞いた」
低い抑揚のない声だった。
「それでは…」
「――それはきみの金だから……」
その言葉と共に風を切る音がして、どさっ…バサっという音がした。
手を伸ばすと、わたしとジョシュア様の間に細長い何か――クッションのようなものが置かれている。
眼のまえに…こんもりとした山のシルエットが見えるのは多分ジョシュア様だろうが、背を向けて横になっているのは間違いない。
「あの…、これって…境界線ってことでしょうか?」
恐る恐るジョシュア様に声をかけると、簡潔な一言だけ返ってきた。
「そうだ」
(めっちゃ避けられてる…なぜ?)
その後はジョシュア様もわたしも身動きしないまま時間が過ぎ、わたしはいつの間にか眠ってしまっていた。
+++++++++++++++++
「…うーん…」
自分の声と花の香りに気がついて目が覚めた。
部屋に瑞々しい花の香りが広がっている。
窓を見ると分厚いカーテンの下から太陽の陽が漏れている。
カーテンの隙間からの僅かな光も部屋を明るく照らしていた。
ふと見ると、サイドテーブルにいつの間にか一抱え程あるピンク色のバラが花瓶に活けられていた。
(あら?…デイジーが眠っている間に活けてくれたのかしら?)
がばっと起き上がってベッドの隣――ジョシュア様が横になっていたらしきところを見ると、確かに横になり休んでいた形跡がある。
(良かった…昨日の夢じゃなかった)
とほっとしてしまった…が。
(いやいや)
安心している場合ではないのよ。
昨日引かれた『境界線』のクッションが、しっかりと置かれていたままになっているではないの。
ジョシュア様がわたしと『夜の仲良し』をする気が無いというのは、もう昨夜のことを思い返せば明らかだ。
いくらわたしが鈍くてもそれは分かる。
(これが続くのはちょっと辛いな…)
確実に『離婚』という赤色のサインが見えている気がして、わたしはため息をついた。
そのまま起き上がって、わたしはカーテンを開いた。
いきなり強烈な朝日が部屋の中を照らし、目が開けられない。
外は眩しい程の晴天なのだ。
わたしの心は曇り空だが。
その時ベッドの枕の上に、白いカードが置いてあるのに気がついた。
わたしはそれをペラッと持ち上げて読んでみる。
そこには美しい筆記体文字で
『おはよう。全てきみの好きにしていい――ジョシュア』
と書いてあった。
わたしはそれをしばらく眺め考えてから、呼び鈴を鳴らしてデイジーを呼んだ。
+++++++++++++++++
「おはようございます」
わたしはデイジーと共に食事を摂る広間に向かった。
今日は色々なところを巡るつもりなので、淡いブルー生地でリボンのついた動きやすい簡素なワンピースに着替えている。
昨夜と同じ様に、バートンとコック帽のイケメンが朝食の準備をしてくれていた。
ふかふかの白パン、自家製のソーセージ、チーズ入りスクランブルエッグとフレッシュな野菜サラダ――やはり味は上等である。
「すごく美味しいわ…卵の味もバターも濃厚ね」
と褒めると、イケメンは満足そうに頷いた。
「お褒め頂きありがとうございます。光栄です。奥様」
低めで響く渋い良い声だった。
その声が少し気になり訊いてみた。
「…そう言えばあなたのお名前を知らないわ」
「コックで結構です。この城には俺しかいませんので」
そう答えるとニヤッとニヒルに笑った。
(…ジョシュア様と同じぐらいの年かしら)
何だかちょっとミステリアスな男性だった。
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