上 下
102 / 138
第2章.『vice versa』アウロニア帝国編

15 バアルとの面会 ①

しおりを挟む
「いや…恋人を連れて来たわけでは…」
「マヤ王女だろう?…あんなにお互い毛嫌いしていたのに一体どういう訳なんだ」

(――確かに)す
ニキアスは思い返していた。

以前のレダの神殿で彼女の輝きと愛らしさに心惹かれる事があったとはいえ
(ここ数年は全くその感情も消え去っていたというのに)

「…確かに不思議ではありますね」

「成る程、その左目の痣彼女が癒してくれたものなのだな」
「...そこまでお見通しですか」
「レダ神の気配がそこからするからな。レダの巫女はお前の周りには彼女しかいないではないか。
しかし神の治療力まで使えるのは、彼女は普通の預言者ではあるまい」

「いえ、彼女自身はただの預言者だと...」
「お前の眼はそう言ってないぞ。崇拝者のそれだ」

ニキアスが黙ってしまったのを見て、バアルは穏やかに微笑んだ。

「...まあしかし、恋愛とは往々にしてそういうものだろう。理屈で説明出来ない頭の働きが作用する」
「恋愛感情とは『心で感じるもの』ではないのですか?」

「感情も全て脳の動きだ。身体の筋肉を動かす全ての指令と同様に。芸術のルチアダ神辺りは『愛は心で感じるもの』と言いそうだが」
とバアルは話題を変えた。

「ところで何か…不穏な内容の預言をお前は知っているか?」

「いえ。…預言内容は全て預言者が管理して陛下に伝えるものですから」
「ふむ…まあそうだろうが。...しかし今回は非常に稀な内容だ。少しは宮殿内で噂になっているかと思ったが…」

バアルはそのまま考え込んでいた。

 *****

そう言えばと、ニキアスは前置きして
「後程マヤがバアル様との面会のお約束がしたいと言っておりました」

「私とか?何故だ?」
バアルは、基本皇宮内の預言者と関り合いに成りたがらない。

預言者としての資質が高くとも富や名声に目が眩み、過去に不要にバアルを貶めようとする輩が何人もいたからである。

「帝国の領土をまわっている方の話がきいてみたい、との事でした」
「そうか...。今回の旅で荒れている彼の国ゼピウスを私は訪れていないが...色々な話を聞きたいのかもしれぬな。了解した。彼女から申し出があれば、その様に取り図っておこう」

「ありがとうございます、バアル様」

ニキアスが部屋を退出する際、扉の前でバアルはニキアスをぐっと抱きしめた。

「ニキアス…私欲私怨に惑わされることなく、自分に必要だと思った道を真っ直ぐ進みなさい。次回いつ会えるか分からないが、いつでもお前にドゥーガ神の加護がある事を祈っている」

「俺もです…バアル。貴方にいつもドゥーガ神の加護があらん事を」

 ******

廊下を時折振り向きながら歩くニキアスと少年ユリウスを見送りつつバアルはその場で考えていた。

(とりあえずニキアスに異変は無い様だ)

それは安心材料の一つにはなったが、ドゥーガの預言では今後急速に『帝国内での内乱が乱発する』とあった。

その神託内容に各ドゥーガの神殿の話題は持ち切りだった。

『ドゥーガ神』は闘いの神の為、その争いの有無や時期、場所などは大まかに教えてはくれるが、その原因までははっきりとは言及しない。

ましてや
(帝国全土に広がる戦いとなれば、帝国内が荒れるのは避けられない現実となるだろう)

闘いのドゥーガ神の預言者でありながら、この様な賢者紛いの事をしているのは、どの様に戦いが起こるのか、また無用な闘いであればどの様に避けられるのかを常に考えているからである。

(前回の隣国ゼピウスが滅びた時の様に、今回のドゥーガの神託で戦いが止められないという事があってはならぬ)

多くの人民が自分に関係の無い戦いに巻き込まれ、命を落とす事はあってはならないのだ。

そう考えるとバアルはため息を付いて、自室へと踵を返したのだった。

 ********


「早速ご面会のお約束が取れましたわ」

「…まあ本当?お忙しい方だからもうしばらく後だと思っていたわ」
「さすが…ニキアス様のお口添えもあって、優先的に先に変えて頂けたそうです」

「…そうなの?ありがたいわね」
わたしは見ていた帝国の地図から顔を上げて、リラに返事を返した。

(帝国内を放浪をする預言者…彼ならわたしの問いに答えてくれるかもしれない)

皆既日食はともかくも、わたしは蝗害の情報が欲しかった。

テヌべ川のどこの辺りで起こるものなのか――バアル様の話をきいて、出来れば特定しておきたかったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。 どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。 現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。 傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。 フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。 みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。 途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。 2020.8.5 書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。 書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第一章レンタルになってます。 2020.11.13 二巻の書籍化のお話を頂いております。 それにともない第二章を引き上げ予定です 詳しくは近況報告をご覧下さい。 第二章レンタルになってます。 番外編投稿しました! 一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*) 2021.2.23 3月2日よりコミカライズが連載開始します。 鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。 2021.3.2 コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。

男を惑わせる女狐の娘ですが、母娘共々監禁される未来を回避して幸せを掴みます

イセヤ レキ
恋愛
美しい母と共に、住み込みの使用人として生活する、みや。 みやは最近、「母娘共々監禁される」夢をよく見ることに悩んでいた。 みやの母は、新華族で占術を得意とする家門の生まれで、みやの見る夢はこれから起こり得る未来である。 今まで悪い夢を見たときはそれらを変えてきたが、どうにも監禁される夢だけは消えてくれない。 焦るみやは、長年お世話になった町医者の「斑目家」から母娘で逃げようとするのだが――? ※全八話、完結済

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

処理中です...