88 / 138
第2章.『vice versa』アウロニア帝国編
1 ウビン=ソリス《太陽の都》 ①
しおりを挟む
凱旋のパレードは非常に盛大だった。
ウビン=ソリスに向けての街道の行軍が首都に近づにつれ、段々と皇軍を含めた軍隊の帰りを迎える盛大な拍手と歓声が、彼らを迎えた。
石畳の道路には賑やかな音楽隊や屋台が立ち並び、そこかしこに軍の働きを讃える垂れ幕や看板が立ち並んで、老若男女問わずの人々でごった返していた。
ゼピウス国を制圧し、アウロニア帝国に更なる富をもたらした将軍ニキアス=レオスが率いる皇軍『ティグリス』は、他の隊より更に多くの切花の吹雪を受ける事になったのだ。
特に出陣の際は黒い仮面をしていたのが、帰還の際には薄い面布のみで美しい顔を晒した将軍ニキアス=レオスが通る際は、一際女性の大きな歓声がそこかしこで聞こえ、興奮のあまり卒倒する女性が続出したのだった。
****************
ニキアスは直ぐに、アウロニア皇帝ガウディ陛下に謁見する事となった。
「此度の戦、大変大義であった」
謁見の間にある玉座に座るガウディは、椅子の肘掛けに置いた指をトントンと規則的に鳴らし、姿勢を崩したままニキアス=レオス将軍の戦果の報告を受ける事になった。
30歳を僅かに過ぎた位で痩身、長身の――どこかカマキリを思わせる容貌だ。
真っ黒な光を映さない瞳をしており、美貌のニキアスとはほとんど似ている部位は無い。
強いて言えば黒い髪の色だけである。
ニキアスの懐からゼピウス国の玉璽から取り出されると、皇帝の側近はうやうやしく受け取り、ガウディの元に運んだ。
ガウディは側近に大きな刃の斧を持ってこさせると、玉璽を床に置いた。
ガウディ自ら大斧を振るって皆の目の前で玉璽を派手に破壊すると、目を猫の様に細めて満足気に笑った。
それは皇帝ガウディが今回の戦争の成果をまずまず認めた証拠でもあった。
*****************
「なんでも好きなものを取らせよう」
褒美は何が良いか?
持っていた斧を家臣に渡すとガウディ皇帝は再びドサリと椅子へ身体を沈め、下を向いたまま跪いている将軍ニキアスに問うた。
「はい。では、此度の戦で攫ってきた第二王女を私めにいただきとうございます」
「第二王女…?マヤ王女のことか?」
「そうです。私と彼女はかつて許嫁であり縁のある仲です。このまま彼女の身受けをしたいと思っております」
「ほう…」
ふっとガウディは笑った。
彼の望みは『イェラキ隊に戻りたい』だと思っていたからである。
(女できたか)
しかも敵国の元王女だ。
ガウディは思わせぶりに言葉を選んだ。
「…良いと言ってやりたい所ではある」
ニキアスがその言葉を聞いて更に平伏しようとしたその瞬間である。
「――が」
皇帝の次の言葉に、ニキアスの身体が僅かに傾いだ。
「我がその女の面通りをしてから決めよう。勿論、敵国の女は褒賞の対象だが、預言者という立場は図らずも厄介だからな」
「弟を心配する兄の気遣いだと思うがよい」
皇帝はニキアスを見下ろすように言った。
「今夜は先勝の祝賀会だ。戦の事後処理で将軍も疲れているだろうが、ほんの少しでも顔を出すが良いぞ」
ニキアスは下を向いたままで表情を変えなかった。
「…御意」
とだけ言って礼儀正しく礼をすると、皇帝の間を足を鳴らして立ち去った。
ガウディは可笑しくて仕方が無いというように、珍しくいつまでもくつくつと笑っていた。
****************
「マヤ様!アウロニアの市場ですよ!」
歓声に包まれながら皇軍は行進していったが、この馬車だけ途中でルート変更をしていた。
香辛料の匂いがする通りを馬車が通る。
大丈夫なのかしらと不安になったが、ナラは気にしていないようだった。
「ニキアス様の邸宅に直接行くそうです」
途中でナラは教えてくれた。
『マヤ王女を必ず貰い受けるつもりだから』
強いニキアスの意向があったのと、宮殿に連れて行けば、二度と連れ出せなくなるかもしれないと危惧した為であった。
首都よりもほんの少し郊外にニキアスの屋敷はあった。
馬車を降りて周りをみると、外部からの侵入者への警戒感からか邸宅の周りをぐるっと高い塀が囲んでいる。
ニキアスの自宅は、白い大理石と青銅と花崗岩でできた三階立ての広い邸宅だった。
(わ…ちょっと神殿チック…)
と思ったが、中は温かな色調の敷物がふんだんに敷かれて、リラックスできそうな設えだった。
暫く待っていたが、ニキアスはなかなか帰ってこなかった。
仕方が無くわたしは先に夕食を食べて、入浴も済ませてしまった。
夜も更けた頃、どうも屋敷の入口が騒がしい。
ニキアスがやっと帰って来らしい。
ニキアスに会うために、ナラと玄関まで降りてきたわたしは、困り顔になっている奴隷らと鉢合わせをしてしまった。
「マ、マヤ様!」
ニキアス宅の奴隷は一斉に平服しようとしたけれど、それを手で押しとどめて彼らに事情を訊いた。
「ニキアスは何処にいるの?」
「それが…何故か大変ご気分を害されていて、お一人で入浴するから入ってくるなと行ってしまわれました」
途方に暮れた様に、夕方わたしも使った――大きな浴室兼サウナのある部屋の場所を指した。
ニキアスは奴隷に身体を必要以上に触らせない。
暗殺対策とも言ってけれど。
(何かあったのかしら)
わたしはナラと奴隷達へ頷いた。
「いいわ…じゃあ、わたしが行ってみる」
ウビン=ソリスに向けての街道の行軍が首都に近づにつれ、段々と皇軍を含めた軍隊の帰りを迎える盛大な拍手と歓声が、彼らを迎えた。
石畳の道路には賑やかな音楽隊や屋台が立ち並び、そこかしこに軍の働きを讃える垂れ幕や看板が立ち並んで、老若男女問わずの人々でごった返していた。
ゼピウス国を制圧し、アウロニア帝国に更なる富をもたらした将軍ニキアス=レオスが率いる皇軍『ティグリス』は、他の隊より更に多くの切花の吹雪を受ける事になったのだ。
特に出陣の際は黒い仮面をしていたのが、帰還の際には薄い面布のみで美しい顔を晒した将軍ニキアス=レオスが通る際は、一際女性の大きな歓声がそこかしこで聞こえ、興奮のあまり卒倒する女性が続出したのだった。
****************
ニキアスは直ぐに、アウロニア皇帝ガウディ陛下に謁見する事となった。
「此度の戦、大変大義であった」
謁見の間にある玉座に座るガウディは、椅子の肘掛けに置いた指をトントンと規則的に鳴らし、姿勢を崩したままニキアス=レオス将軍の戦果の報告を受ける事になった。
30歳を僅かに過ぎた位で痩身、長身の――どこかカマキリを思わせる容貌だ。
真っ黒な光を映さない瞳をしており、美貌のニキアスとはほとんど似ている部位は無い。
強いて言えば黒い髪の色だけである。
ニキアスの懐からゼピウス国の玉璽から取り出されると、皇帝の側近はうやうやしく受け取り、ガウディの元に運んだ。
ガウディは側近に大きな刃の斧を持ってこさせると、玉璽を床に置いた。
ガウディ自ら大斧を振るって皆の目の前で玉璽を派手に破壊すると、目を猫の様に細めて満足気に笑った。
それは皇帝ガウディが今回の戦争の成果をまずまず認めた証拠でもあった。
*****************
「なんでも好きなものを取らせよう」
褒美は何が良いか?
持っていた斧を家臣に渡すとガウディ皇帝は再びドサリと椅子へ身体を沈め、下を向いたまま跪いている将軍ニキアスに問うた。
「はい。では、此度の戦で攫ってきた第二王女を私めにいただきとうございます」
「第二王女…?マヤ王女のことか?」
「そうです。私と彼女はかつて許嫁であり縁のある仲です。このまま彼女の身受けをしたいと思っております」
「ほう…」
ふっとガウディは笑った。
彼の望みは『イェラキ隊に戻りたい』だと思っていたからである。
(女できたか)
しかも敵国の元王女だ。
ガウディは思わせぶりに言葉を選んだ。
「…良いと言ってやりたい所ではある」
ニキアスがその言葉を聞いて更に平伏しようとしたその瞬間である。
「――が」
皇帝の次の言葉に、ニキアスの身体が僅かに傾いだ。
「我がその女の面通りをしてから決めよう。勿論、敵国の女は褒賞の対象だが、預言者という立場は図らずも厄介だからな」
「弟を心配する兄の気遣いだと思うがよい」
皇帝はニキアスを見下ろすように言った。
「今夜は先勝の祝賀会だ。戦の事後処理で将軍も疲れているだろうが、ほんの少しでも顔を出すが良いぞ」
ニキアスは下を向いたままで表情を変えなかった。
「…御意」
とだけ言って礼儀正しく礼をすると、皇帝の間を足を鳴らして立ち去った。
ガウディは可笑しくて仕方が無いというように、珍しくいつまでもくつくつと笑っていた。
****************
「マヤ様!アウロニアの市場ですよ!」
歓声に包まれながら皇軍は行進していったが、この馬車だけ途中でルート変更をしていた。
香辛料の匂いがする通りを馬車が通る。
大丈夫なのかしらと不安になったが、ナラは気にしていないようだった。
「ニキアス様の邸宅に直接行くそうです」
途中でナラは教えてくれた。
『マヤ王女を必ず貰い受けるつもりだから』
強いニキアスの意向があったのと、宮殿に連れて行けば、二度と連れ出せなくなるかもしれないと危惧した為であった。
首都よりもほんの少し郊外にニキアスの屋敷はあった。
馬車を降りて周りをみると、外部からの侵入者への警戒感からか邸宅の周りをぐるっと高い塀が囲んでいる。
ニキアスの自宅は、白い大理石と青銅と花崗岩でできた三階立ての広い邸宅だった。
(わ…ちょっと神殿チック…)
と思ったが、中は温かな色調の敷物がふんだんに敷かれて、リラックスできそうな設えだった。
暫く待っていたが、ニキアスはなかなか帰ってこなかった。
仕方が無くわたしは先に夕食を食べて、入浴も済ませてしまった。
夜も更けた頃、どうも屋敷の入口が騒がしい。
ニキアスがやっと帰って来らしい。
ニキアスに会うために、ナラと玄関まで降りてきたわたしは、困り顔になっている奴隷らと鉢合わせをしてしまった。
「マ、マヤ様!」
ニキアス宅の奴隷は一斉に平服しようとしたけれど、それを手で押しとどめて彼らに事情を訊いた。
「ニキアスは何処にいるの?」
「それが…何故か大変ご気分を害されていて、お一人で入浴するから入ってくるなと行ってしまわれました」
途方に暮れた様に、夕方わたしも使った――大きな浴室兼サウナのある部屋の場所を指した。
ニキアスは奴隷に身体を必要以上に触らせない。
暗殺対策とも言ってけれど。
(何かあったのかしら)
わたしはナラと奴隷達へ頷いた。
「いいわ…じゃあ、わたしが行ってみる」
2
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活
ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。
「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。
現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。
ゆっくり更新です。はじめての投稿です。
誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。
乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。
緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!
三園 七詩
ファンタジー
美月は気がついたら森の中にいた。
どうも交通事故にあい、転生してしまったらしい。
現世に愛犬の銀を残してきたことが心残りの美月の前に傷ついたフェンリルが現れる。
傷を癒してやり従魔となるフェンリルに銀の面影をみる美月。
フェンリルや町の人達に溺愛されながら色々やらかしていく。
みんなに愛されるミヅキだが本人にその自覚は無し、まわりの人達もそれに振り回されるがミヅキの愛らしさに落ちていく。
途中いくつか閑話を挟んだり、相手視点の話が入ります。そんな作者の好きが詰まったご都合物語。
2020.8.5
書籍化、イラストはあめや様に描いて頂いてております。
書籍化に伴い第一章を取り下げ中です。
詳しくは近況報告をご覧下さい。
第一章レンタルになってます。
2020.11.13
二巻の書籍化のお話を頂いております。
それにともない第二章を引き上げ予定です
詳しくは近況報告をご覧下さい。
第二章レンタルになってます。
番外編投稿しました!
一章の下、二章の上の間に番外編の枠がありますのでそこからどうぞ(*^^*)
2021.2.23
3月2日よりコミカライズが連載開始します。
鳴希りお先生によりミヅキやシルバ達を可愛らしく描いて頂きました。
2021.3.2
コミカライズのコメントで「銀」のその後がどうなったのかとの意見が多かったので…前に投稿してカットになった部分を公開します。人物紹介の下に投稿されていると思うので気になる方は見てください。
男を惑わせる女狐の娘ですが、母娘共々監禁される未来を回避して幸せを掴みます
イセヤ レキ
恋愛
美しい母と共に、住み込みの使用人として生活する、みや。
みやは最近、「母娘共々監禁される」夢をよく見ることに悩んでいた。
みやの母は、新華族で占術を得意とする家門の生まれで、みやの見る夢はこれから起こり得る未来である。
今まで悪い夢を見たときはそれらを変えてきたが、どうにも監禁される夢だけは消えてくれない。
焦るみやは、長年お世話になった町医者の「斑目家」から母娘で逃げようとするのだが――?
※全八話、完結済
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる