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第1章.嘘つき預言者の目覚め
70 アナラビの決断 ①
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「アナラビだ!アナラビが戻って来たぞ」
ギデオンがボレアスと共に盗賊団の元へ戻ってきた。
見覚えのあるニキアスの愛馬である黒馬にギデオンが乗り、人間の姿で出て行ったボレアスはまた大きな白い犬に戻っていた。
白い仮面を外して盗賊団員等に囲まれているギデオンにわたしはなんとか近づいて行った。
「ギ…アナラビ、お話があるのです。実は…」
わたしがそう言った途端、すぐにギデオンは頷いた。
「ボレアスから聞いた。土砂…ナントカだろ?直ぐに起こるのか?」
「…それは、時間までは分かりません…」
正直そこまでの詳細は分からない。
わたしはすぐにギデオンに返答できなかったが、ニキアスと共にハルケ山を越える行軍にいた場合ならそろそろだ。先程起きた地震の影響を考えれば、本当はもういつ起こってもおかしくと言っていい程だ。
「分からないのか、何だよそれ、まあいい」
わたしの答えにギデオンは笑って隣に立つタウロスの肩をぽんと叩いた。
「本来であれば、このアウロニアの軍の強奪計画は無かったモンだ。アウロニア軍が街道を通るという情報が割れてから、計画したしな」
ギデオンはわたしを顔を見つめながらニヤッと笑った。
「んーじゃあ…コルダ国へお頭を迎えに行きがてら、あんたからゆっくりと話を聞こうとするかな」
「え…?」
わたしは呆然とギデオンの顔を見つめた。
(コルダ国?…って、ずっとずっと東の?それってこのままわたしを連れて行くって事?)
次の瞬間ボレアスが一言吠えた。
『駄目だ、アナラビ。彼女はニキアス将軍の元へ返せ』
人語を話す犬だと認識しなかった盗賊達はどよめいた。
『ニキアスは必ずやって来る。マヤ王女を連れ戻すために今度は盗賊側が必ず血を流す事になるぞ』
*******
「お前はそう主張するが、奴はアウロニア軍の将軍サマだろ?こんな森の奥に入って来てわざわざ王女を取り戻しにくるって言うのか?…軍を置いてまで?そりゃ責任放棄ってモンだろ」
ギデオンは盗賊とは思えない一見まともな発言をしたが、ボレアスは『ニキアスは必ず来る』と断言した。
『少し前からずっとドゥーガの加護を感じる。こんなに長く加護を祈り続けられる者はごく稀だ。…お前は別だが』
つまりアナラビと信仰神は違えど、ニキアスはほぼアナラビ同様の事が出来るという事だ。
盗賊団員の皆が――神殿に行かない者ですらアナラビの不思議な力は『人ならざる者に守られている』と感じる事が出来た。
『――アナラビは別格だ』
盗賊等のなかで最早それは周知の事であり、だからこそ若年ながらアナラビが盗賊団の頭の補佐としての地位を確立していられるのだ。
皆が顔を見合わせたところでマヤ王女が恐る恐る発言をした。
「あの…わたしをニキアスの処へ返してください。馬に乗せてくれればわたしひとりで帰ります。そして必ず彼も連れてアウロニア軍に戻ります」
*****
「――何を言ってやがる。オレはヤだね」
ギデオンが即座に言った。
「オレらは盗賊団だ。価値のあるモノを簡単に手放すわけがないだろう」
「でもこのままじゃ…」
わたしが言いかけた瞬間だった。
今までにない地面の縦揺れがわたし達を襲った。
「きゃっ!」
一瞬よろめいたのをボレアスが身体を寄せて支えてくれた。
「あ、ありがと、ボレアス…」
と言った途端にハルケ山から一斉に野鳥が飛び立った。
「な…なに?」
わたし達が思わずハルケ山を見上げると、ゴゴゴ…と今度はすさまじい地鳴りがし始めた。
ハルケ山から少し離れていても、大量の土砂が木々を倒し破壊する音と
緑の木々と土の充満する匂いがはっきりと漂ってきて分かるくらいだ。
暫く地面を揺らし地鳴りのような音が続くのを、わたしも含めた皆が呆然としながら見つめていた。
そしてそれが少し収まってくると――今度は皆一斉にわたしの方を見つめた。
明らかに先程とはわたしを見る目が違っている。
畏怖というか明らかに怖がっている表情だ。
わたしの心臓は痛い位鳴って呼吸するのも苦しくなる程だった。
「――アナラビ…彼女は危険です」
タウロスはギデオンへ小声で注意深く言った。
「…そりゃ何でだよ、タウロス。すげえじゃん、預言は見事に的中したぜ?連れて行けば…」
『オレ等の役にも立つだろうが』と、ギデオンはタウロスへ抗議した。
「――だからです」
タウロスはその言葉へ被せるように返答したのだった。
「『大きな力にはそれなりの代償も伴う』と昔私の父が言っておりました。
彼女の預言者としての資質は疑うべくも無いでしょうが、彼女の代償に我らが巻き込まれるのはいけません」
「今彼女を連れて行けば、煩わしい災厄が付きまとうのはもう目に見えています。そしてアナラビ…あなたもまだやるべき事がある筈です」
聞き分けの無い子供を諭すようにタウロスはアナラビへと伝えた。
ギデオンがボレアスと共に盗賊団の元へ戻ってきた。
見覚えのあるニキアスの愛馬である黒馬にギデオンが乗り、人間の姿で出て行ったボレアスはまた大きな白い犬に戻っていた。
白い仮面を外して盗賊団員等に囲まれているギデオンにわたしはなんとか近づいて行った。
「ギ…アナラビ、お話があるのです。実は…」
わたしがそう言った途端、すぐにギデオンは頷いた。
「ボレアスから聞いた。土砂…ナントカだろ?直ぐに起こるのか?」
「…それは、時間までは分かりません…」
正直そこまでの詳細は分からない。
わたしはすぐにギデオンに返答できなかったが、ニキアスと共にハルケ山を越える行軍にいた場合ならそろそろだ。先程起きた地震の影響を考えれば、本当はもういつ起こってもおかしくと言っていい程だ。
「分からないのか、何だよそれ、まあいい」
わたしの答えにギデオンは笑って隣に立つタウロスの肩をぽんと叩いた。
「本来であれば、このアウロニアの軍の強奪計画は無かったモンだ。アウロニア軍が街道を通るという情報が割れてから、計画したしな」
ギデオンはわたしを顔を見つめながらニヤッと笑った。
「んーじゃあ…コルダ国へお頭を迎えに行きがてら、あんたからゆっくりと話を聞こうとするかな」
「え…?」
わたしは呆然とギデオンの顔を見つめた。
(コルダ国?…って、ずっとずっと東の?それってこのままわたしを連れて行くって事?)
次の瞬間ボレアスが一言吠えた。
『駄目だ、アナラビ。彼女はニキアス将軍の元へ返せ』
人語を話す犬だと認識しなかった盗賊達はどよめいた。
『ニキアスは必ずやって来る。マヤ王女を連れ戻すために今度は盗賊側が必ず血を流す事になるぞ』
*******
「お前はそう主張するが、奴はアウロニア軍の将軍サマだろ?こんな森の奥に入って来てわざわざ王女を取り戻しにくるって言うのか?…軍を置いてまで?そりゃ責任放棄ってモンだろ」
ギデオンは盗賊とは思えない一見まともな発言をしたが、ボレアスは『ニキアスは必ず来る』と断言した。
『少し前からずっとドゥーガの加護を感じる。こんなに長く加護を祈り続けられる者はごく稀だ。…お前は別だが』
つまりアナラビと信仰神は違えど、ニキアスはほぼアナラビ同様の事が出来るという事だ。
盗賊団員の皆が――神殿に行かない者ですらアナラビの不思議な力は『人ならざる者に守られている』と感じる事が出来た。
『――アナラビは別格だ』
盗賊等のなかで最早それは周知の事であり、だからこそ若年ながらアナラビが盗賊団の頭の補佐としての地位を確立していられるのだ。
皆が顔を見合わせたところでマヤ王女が恐る恐る発言をした。
「あの…わたしをニキアスの処へ返してください。馬に乗せてくれればわたしひとりで帰ります。そして必ず彼も連れてアウロニア軍に戻ります」
*****
「――何を言ってやがる。オレはヤだね」
ギデオンが即座に言った。
「オレらは盗賊団だ。価値のあるモノを簡単に手放すわけがないだろう」
「でもこのままじゃ…」
わたしが言いかけた瞬間だった。
今までにない地面の縦揺れがわたし達を襲った。
「きゃっ!」
一瞬よろめいたのをボレアスが身体を寄せて支えてくれた。
「あ、ありがと、ボレアス…」
と言った途端にハルケ山から一斉に野鳥が飛び立った。
「な…なに?」
わたし達が思わずハルケ山を見上げると、ゴゴゴ…と今度はすさまじい地鳴りがし始めた。
ハルケ山から少し離れていても、大量の土砂が木々を倒し破壊する音と
緑の木々と土の充満する匂いがはっきりと漂ってきて分かるくらいだ。
暫く地面を揺らし地鳴りのような音が続くのを、わたしも含めた皆が呆然としながら見つめていた。
そしてそれが少し収まってくると――今度は皆一斉にわたしの方を見つめた。
明らかに先程とはわたしを見る目が違っている。
畏怖というか明らかに怖がっている表情だ。
わたしの心臓は痛い位鳴って呼吸するのも苦しくなる程だった。
「――アナラビ…彼女は危険です」
タウロスはギデオンへ小声で注意深く言った。
「…そりゃ何でだよ、タウロス。すげえじゃん、預言は見事に的中したぜ?連れて行けば…」
『オレ等の役にも立つだろうが』と、ギデオンはタウロスへ抗議した。
「――だからです」
タウロスはその言葉へ被せるように返答したのだった。
「『大きな力にはそれなりの代償も伴う』と昔私の父が言っておりました。
彼女の預言者としての資質は疑うべくも無いでしょうが、彼女の代償に我らが巻き込まれるのはいけません」
「今彼女を連れて行けば、煩わしい災厄が付きまとうのはもう目に見えています。そしてアナラビ…あなたもまだやるべき事がある筈です」
聞き分けの無い子供を諭すようにタウロスはアナラビへと伝えた。
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