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第1章.嘘つき預言者の目覚め

66 筋書き ③

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「…あの、ね…教えて」
口がやっと利けるようになったわたしは、タウロスへ質問した。
ギデオンがわたしに掛けた呪いはまだ完全に解けていない為、身体を動かすのにまだ少し不自由がある。

「…ハルケ山の何処に行くの?」
タウロスはわたしの身体を抱き上げてがっちりと掴んでいる。
まるで逃がさないとでも言っているかのようだ。

岩男タウロスはわたしをねめつけてから、一言だけ言った。
「――ハルケの中腹にあるアジトです」

(ま…まずいわ)
麓近くだったらまだ良かったのに、今一番に土砂崩れが起こる可能性が高い場所だ。

雑木林だと思った場所は段々木々が多くなり草も生い茂って、森と言ってもいい位になっている。
山が近づいているのだろう。良くない兆候である。

(このままハルケ山に入ったら…)
「ア…アナラビは何処?お願い、話したい事があるの。急を要するわ」
とわたしは必死にタウロスへ訴えた。

「彼は少し貴女の恋人と遊んでくると言っていました。暫くしたら戻るでしょう」
『なんといっても彼にはメサダ神の加護がありますから』
とボソッと付け加えた。

(――やっぱりアナラビはギデオン王子なんだわ)

わたしは改めてそう確信してした。
ギデオンは、メサダ神の加護をただ一人小説内では受けていた人物だからである。

それにしてもこのタウロスは…。
(全然取り付く島もないって態度というか)どうやらわたしが逃げると思っているのか、全く信用してないらしくほとんど自分で歩かせてもらえない。

わたしは最終的に財宝を積んだ盗品達と共に、馬より小さなラバの背中に乗るように言われてしまった。
このまま山の中腹まで進んでいくらしい。

ラバに乗る準備をしながら、
(もうだめだわ。これ以上ギデオンを待てない。一度ここで説明するしかない)

「ねえタウロス、それから…ボレアス、聞いて」
わたしはラバの足元に佇む白い大きな犬に向かって声を掛けた。

 *****

「ハルケ山でこれから大きな土砂崩れが起こるの。災害級よ。皆巻き込まれるてしまうわ」

わたしはハルケ山の危険性について訴えたが、タウロスは最初のニキアスと同じような反応だった。
「ハア…また嘘をお付きになるつもりですか?」
とため息をついて、それからは手を止めずラバの鞍を付け始めた。

マヤ王女の嘘つき預言者ぶりは周知の事実だと言った具合だ。
(どうしよう…信じてくれない)

ただボレアスは、違った。
『それは本当か?姫君』
わたしの顔をじっと見つめ、静かに訊いてきた。

(ボレアスだったら信じてくれるかもしれないわ)
彼は先日の部分的な土砂崩れを体験しているからだ。

「本当よ信じて。このままだと皆…あなたの仲間も含め、全員巻き込まれるわ。この間体験したでしょ?」
と伝えると、ボレアスは確認するように自分の後ろ足を見た。

『――分かりました』
と言うと、ボレアスはわたしの足元にじゃれつく仔犬へ戻るように吠えて、ぼそぼそと子犬の耳元で伝えた。
子犬は飛びだし木々の間に消えて、程なくして戻ってきた。

森のあちこちで犬の遠吠えが聞こえ始める。
暫くしてボレアスが言った。
『これでミリスは大丈夫だろう。暫くハルケ山のねぐらに戻らないよう伝わったはずだ』

わたしが安堵して頷いたけれど、ボレアスは
『あとは盗賊団こいつらだが、タウロスはアナラビの命令しか聞かないだろう』
と言った。

「でも…アナラビがまだ戻って来ないわ。でもこのまま進むとハルケ山のシルエットが変わる位の土砂が起こってしまう…」
『何?まさかそんなに大規模な――』

ボレアスもその規模には懐疑的だったが
「そうなるのは、地盤が緩くなっているだけが原因じゃないのよ。この間は地震も一緒に起きたし…」
とわたしは説明した。

『地震…?』

ボレアスは知らなかったようだ。
あまりここでは起こらないのかもしれない。
わたしはボレアスに地面の揺れる現象について説明した。

(前回と同じ大した揺れじゃないかもしれないけれど)
でも前回――実際に起きているのが気になるのだ。

ただでさえズルズルの地盤に僅かでも地震が起これば…結果は火を見るよりも明らかだ。

わたしの不安そうな様子に、ボレアスは自分がどうするかを決めた様だった。

『分かりました。私がアナラビを迎えにいく。王女、私の子を見ていて欲しい』
そう言うと、彼の姿はその場で白い煙のような光に包まれた。

次の瞬間そこに立っていたのは――背が高く白い長い髪に真っ白い肌の男性だった。

わたしはあんぐり口を開けて彼を見つめてしまった。
「に…人間?…」

わたしが呆然としながら質問をすると、ボレアスは少し笑った。
「正確には獣人族だ。白い狼は神に仕える眷属だが、一部が人間と交わり地表に落とされた――私はその末裔だ」

獣の声帯でないボレアスは、しっかりとした人の声で喋った。
二十代後半くらいに見える彼は、犬の姿でいた時と同じ金色の瞳だった。
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