66 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
66 筋書き ③
しおりを挟む
「…あの、ね…教えて」
口がやっと利けるようになったわたしは、タウロスへ質問した。
ギデオンがわたしに掛けた呪いはまだ完全に解けていない為、身体を動かすのにまだ少し不自由がある。
「…ハルケ山の何処に行くの?」
タウロスはわたしの身体を抱き上げてがっちりと掴んでいる。
まるで逃がさないとでも言っているかのようだ。
岩男タウロスはわたしをねめつけてから、一言だけ言った。
「――ハルケの中腹にあるアジトです」
(ま…まずいわ)
麓近くだったらまだ良かったのに、今一番に土砂崩れが起こる可能性が高い場所だ。
雑木林だと思った場所は段々木々が多くなり草も生い茂って、森と言ってもいい位になっている。
山が近づいているのだろう。良くない兆候である。
(このままハルケ山に入ったら…)
「ア…アナラビは何処?お願い、話したい事があるの。急を要するわ」
とわたしは必死にタウロスへ訴えた。
「彼は少し貴女の恋人と遊んでくると言っていました。暫くしたら戻るでしょう」
『なんといっても彼にはメサダ神の加護がありますから』
とボソッと付け加えた。
(――やっぱりアナラビはギデオン王子なんだわ)
わたしは改めてそう確信してした。
ギデオンは、メサダ神の加護をただ一人小説内では受けていた人物だからである。
それにしてもこのタウロスは…。
(全然取り付く島もないって態度というか)どうやらわたしが逃げると思っているのか、全く信用してないらしくほとんど自分で歩かせてもらえない。
わたしは最終的に財宝を積んだ盗品達と共に、馬より小さなラバの背中に乗るように言われてしまった。
このまま山の中腹まで進んでいくらしい。
ラバに乗る準備をしながら、
(もうだめだわ。これ以上ギデオンを待てない。一度ここで説明するしかない)
「ねえタウロス、それから…ボレアス、聞いて」
わたしはラバの足元に佇む白い大きな犬に向かって声を掛けた。
*****
「ハルケ山でこれから大きな土砂崩れが起こるの。災害級よ。皆巻き込まれるてしまうわ」
わたしはハルケ山の危険性について訴えたが、タウロスは最初のニキアスと同じような反応だった。
「ハア…また嘘をお付きになるつもりですか?」
とため息をついて、それからは手を止めずラバの鞍を付け始めた。
マヤ王女の嘘つき預言者ぶりは周知の事実だと言った具合だ。
(どうしよう…信じてくれない)
ただボレアスは、違った。
『それは本当か?姫君』
わたしの顔をじっと見つめ、静かに訊いてきた。
(ボレアスだったら信じてくれるかもしれないわ)
彼は先日の部分的な土砂崩れを体験しているからだ。
「本当よ信じて。このままだと皆…あなたの仲間も含め、全員巻き込まれるわ。この間体験したでしょ?」
と伝えると、ボレアスは確認するように自分の後ろ足を見た。
『――分かりました』
と言うと、ボレアスはわたしの足元にじゃれつく仔犬へ戻るように吠えて、ぼそぼそと子犬の耳元で伝えた。
子犬は飛びだし木々の間に消えて、程なくして戻ってきた。
森のあちこちで犬の遠吠えが聞こえ始める。
暫くしてボレアスが言った。
『これでミリスは大丈夫だろう。暫くハルケ山のねぐらに戻らないよう伝わったはずだ』
わたしが安堵して頷いたけれど、ボレアスは
『あとは盗賊団だが、タウロスはアナラビの命令しか聞かないだろう』
と言った。
「でも…彼がまだ戻って来ないわ。でもこのまま進むとハルケ山のシルエットが変わる位の土砂が起こってしまう…」
『何?まさかそんなに大規模な――』
ボレアスもその規模には懐疑的だったが
「そうなるのは、地盤が緩くなっているだけが原因じゃないのよ。この間は地震も一緒に起きたし…」
とわたしは説明した。
『地震…?』
ボレアスは知らなかったようだ。
あまりここでは起こらないのかもしれない。
わたしはボレアスに地面の揺れる現象について説明した。
(前回と同じ大した揺れじゃないかもしれないけれど)
でも前回――実際に起きているのが気になるのだ。
ただでさえズルズルの地盤に僅かでも地震が起これば…結果は火を見るよりも明らかだ。
わたしの不安そうな様子に、ボレアスは自分がどうするかを決めた様だった。
『分かりました。私がアナラビを迎えにいく。王女、私の子を見ていて欲しい』
そう言うと、彼の姿はその場で白い煙のような光に包まれた。
次の瞬間そこに立っていたのは――背が高く白い長い髪に真っ白い肌の男性だった。
わたしはあんぐり口を開けて彼を見つめてしまった。
「に…人間?…」
わたしが呆然としながら質問をすると、ボレアスは少し笑った。
「正確には獣人族だ。白い狼は神に仕える眷属だが、一部が人間と交わり地表に落とされた――私はその末裔だ」
獣の声帯でないボレアスは、しっかりとした人の声で喋った。
二十代後半くらいに見える彼は、犬の姿でいた時と同じ金色の瞳だった。
口がやっと利けるようになったわたしは、タウロスへ質問した。
ギデオンがわたしに掛けた呪いはまだ完全に解けていない為、身体を動かすのにまだ少し不自由がある。
「…ハルケ山の何処に行くの?」
タウロスはわたしの身体を抱き上げてがっちりと掴んでいる。
まるで逃がさないとでも言っているかのようだ。
岩男タウロスはわたしをねめつけてから、一言だけ言った。
「――ハルケの中腹にあるアジトです」
(ま…まずいわ)
麓近くだったらまだ良かったのに、今一番に土砂崩れが起こる可能性が高い場所だ。
雑木林だと思った場所は段々木々が多くなり草も生い茂って、森と言ってもいい位になっている。
山が近づいているのだろう。良くない兆候である。
(このままハルケ山に入ったら…)
「ア…アナラビは何処?お願い、話したい事があるの。急を要するわ」
とわたしは必死にタウロスへ訴えた。
「彼は少し貴女の恋人と遊んでくると言っていました。暫くしたら戻るでしょう」
『なんといっても彼にはメサダ神の加護がありますから』
とボソッと付け加えた。
(――やっぱりアナラビはギデオン王子なんだわ)
わたしは改めてそう確信してした。
ギデオンは、メサダ神の加護をただ一人小説内では受けていた人物だからである。
それにしてもこのタウロスは…。
(全然取り付く島もないって態度というか)どうやらわたしが逃げると思っているのか、全く信用してないらしくほとんど自分で歩かせてもらえない。
わたしは最終的に財宝を積んだ盗品達と共に、馬より小さなラバの背中に乗るように言われてしまった。
このまま山の中腹まで進んでいくらしい。
ラバに乗る準備をしながら、
(もうだめだわ。これ以上ギデオンを待てない。一度ここで説明するしかない)
「ねえタウロス、それから…ボレアス、聞いて」
わたしはラバの足元に佇む白い大きな犬に向かって声を掛けた。
*****
「ハルケ山でこれから大きな土砂崩れが起こるの。災害級よ。皆巻き込まれるてしまうわ」
わたしはハルケ山の危険性について訴えたが、タウロスは最初のニキアスと同じような反応だった。
「ハア…また嘘をお付きになるつもりですか?」
とため息をついて、それからは手を止めずラバの鞍を付け始めた。
マヤ王女の嘘つき預言者ぶりは周知の事実だと言った具合だ。
(どうしよう…信じてくれない)
ただボレアスは、違った。
『それは本当か?姫君』
わたしの顔をじっと見つめ、静かに訊いてきた。
(ボレアスだったら信じてくれるかもしれないわ)
彼は先日の部分的な土砂崩れを体験しているからだ。
「本当よ信じて。このままだと皆…あなたの仲間も含め、全員巻き込まれるわ。この間体験したでしょ?」
と伝えると、ボレアスは確認するように自分の後ろ足を見た。
『――分かりました』
と言うと、ボレアスはわたしの足元にじゃれつく仔犬へ戻るように吠えて、ぼそぼそと子犬の耳元で伝えた。
子犬は飛びだし木々の間に消えて、程なくして戻ってきた。
森のあちこちで犬の遠吠えが聞こえ始める。
暫くしてボレアスが言った。
『これでミリスは大丈夫だろう。暫くハルケ山のねぐらに戻らないよう伝わったはずだ』
わたしが安堵して頷いたけれど、ボレアスは
『あとは盗賊団だが、タウロスはアナラビの命令しか聞かないだろう』
と言った。
「でも…彼がまだ戻って来ないわ。でもこのまま進むとハルケ山のシルエットが変わる位の土砂が起こってしまう…」
『何?まさかそんなに大規模な――』
ボレアスもその規模には懐疑的だったが
「そうなるのは、地盤が緩くなっているだけが原因じゃないのよ。この間は地震も一緒に起きたし…」
とわたしは説明した。
『地震…?』
ボレアスは知らなかったようだ。
あまりここでは起こらないのかもしれない。
わたしはボレアスに地面の揺れる現象について説明した。
(前回と同じ大した揺れじゃないかもしれないけれど)
でも前回――実際に起きているのが気になるのだ。
ただでさえズルズルの地盤に僅かでも地震が起これば…結果は火を見るよりも明らかだ。
わたしの不安そうな様子に、ボレアスは自分がどうするかを決めた様だった。
『分かりました。私がアナラビを迎えにいく。王女、私の子を見ていて欲しい』
そう言うと、彼の姿はその場で白い煙のような光に包まれた。
次の瞬間そこに立っていたのは――背が高く白い長い髪に真っ白い肌の男性だった。
わたしはあんぐり口を開けて彼を見つめてしまった。
「に…人間?…」
わたしが呆然としながら質問をすると、ボレアスは少し笑った。
「正確には獣人族だ。白い狼は神に仕える眷属だが、一部が人間と交わり地表に落とされた――私はその末裔だ」
獣の声帯でないボレアスは、しっかりとした人の声で喋った。
二十代後半くらいに見える彼は、犬の姿でいた時と同じ金色の瞳だった。
1
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい
なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。
※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?
yori
恋愛
*ノーチェブックスさまより書籍化&コミカライズ連載7/5~startしました*
コミカライズは最新話無料ですのでぜひ!
読み終わったらいいね♥もよろしくお願いします!
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ふりふりのエプロンをつけたメイドになるのが夢だった男爵令嬢エミリア。
王城のメイド試験に受かったはいいけど、処女なのに、性のお世話をする、ご奉仕メイドになってしまった!?
担当する騎士団長は、ある事情があって、専任のご奉仕メイドがついていないらしい……。
だけど普通のメイドよりも、お給金が倍だったので、貧乏な実家のために、いっぱい稼ぎます!!
R18、アブナイ異世界ライフ
くるくる
恋愛
気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。
主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。
もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。
※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる