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第1章.嘘つき預言者の目覚め

65 筋書き ②

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「初めまして将軍殿、どうぞ宜しくって言うべきか?」

白い仮面の男はニキアスへ嘲笑する様に笑った。
そのふざけた挨拶を無視したまま、ニキアスは男をじっと観察した。

背丈は副官ユリウスと同じくらいだが、しっかりと細身の筋肉が付いた体幹はしなやかな感じである。

(なるほど戦いに慣れた者の身のこなしだ)
少しずつ昇ってくる朝陽を背に立つ男の赤に近い鳶色の髪は、その中で燃え上がる火の様にも見える。

「なあ、少し遊ぼうぜ」
声は若くおどけた口調だが、肉食獣の様な動作と仮面越しにこちらの動きを観察する視線は、ニキアスでも『侮ると危険だ』と察する事ができる。

おまけに今は面布だけで普段よりニキアスの視界が開けているにも関わらず、こちらの視界が一部遮断されているように感じるのは。

――『』だと直感で分かった。

(しかしどう考えても不自然だ)
ニキアスは尋ねた。
「何故…お前のような盗賊の類がどの神かは知らんが――強力な加護を身に付けている?」

神から特別に加護を戴くのには「その神が守るべき預言者」か、そうでなければ通常神殿などで、神官と共に「勉学や修行を受け認めてもらう」必要があるのだ。

神官と共にと言っても同じ事をする神職の神官ですら加護を貰えるかどうかは、努力と才能と運次第になる。

レダの神殿を出てからのニキアスが次のドゥーガの神殿で『神の加護』を貰うまでに血の滲むような努力を重ねている。

そして、何よりもこれだけの強い加護を身に付けている者の情報をアウロニア帝国の将軍で戦士でもあるニキアスが知らないというのは、奇妙な話しでもあった。

「…ははっ、何故だろうなぁ」
白い仮面の男は小馬鹿にするように笑った。

「そりゃあ…お前よりオレの方が優秀で能力があるからじゃね?」

ニキアスはその挑発には乗らなかった。

「ならばそれはきっとそうなのだろう」
ニキアスは特に否定する事も無く、それがどうでも良い事の様にあっさり認めると、今度は低い声で問うた。

「マヤ王女は何処だ?攫ったのはお前か?」

 ******

「王女を返せ。返せば追わないと約束しよう。幾何かの宝ならば、好きに持っていけ」
淡々と語りかける口調のニキアスから少しずつだが殺気が感じられる。

ギデオンは嗤って言った。
「そんなにあのマヤ王女が大事か?あんな預言以外はできなさそうな女に…」

『執着するなんて…』と言った途中でギデオンはその台詞を止めた。

ニキアスから――メサダ神の加護があるから視えるのだが、黒い煙の様なものが立ち昇っているのが見えたからである。

「――

先程と変わり声までも無機質に変わっている。

(なるほど…こいつか…)
ギデオン王子は刮目し理解した。

『マヤ王女の死』こそが、ギデオンがメサダ神の預言者と神官から伝え聞いた伝承の一番初めトリガーなのだ。

『メサダ神の書』に記される『亡国の皇子』が展開されるのにはいくつか分岐がある。
幾つかある分岐のうち、きっかけのひとつとして言われているのが、マヤ王女の死だった。

幾つかのきっかけを経て後『アウロニア帝国の崩壊』と言うドミノ倒しが完成するらしいのだが、ギデオンは神官でも預言者でもない為詳細は知らされていない。

『ニキアス将軍は、現在のアウロニア帝国を中から壊していく大きな駒の一つになるだろう』
と神官らから説明されてはいたがギデオンは半分信じていなかった。

ニキアスは仮にも皇軍将軍なのだから、それは有り得ないと。

 ******

『幼い頃に王宮から追放されている』
という点において、二人は若干似通っている境遇である。

ニキアスは自分の王宮内での存在を見限り、現皇帝の探索と暗殺からも身を躱すためいつも一人で逃げ続けた。
一方でギデオンは、王子で時期王位を簒奪され、家臣タウロスと共に王宮から逃げ延びなければならなかった。

自分の方が捻くれている――と勝手に思っていたのだが。
(オレの方が…タウロスが側にいて、メサダの神殿の助けや盗賊の頭に拾ってもらった事を含め、まだ幸せだったのかもしれんな)
とギデオンは薄っすらと考えた。

(オレは――運が良かったぜ)
この二人の明暗を分けているのは、明らかにその性格と役割の差によるものなのだが、未だギデオンはそれに気が付いていなかった。
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