55 / 138
第1章.嘘つき預言者の目覚め
54 レダの預言者 ④
しおりを挟む
ざらりとした何かの感触でわたしは目が醒めた。
真っ白い毛並みが視界に広がっている。
わたしは思わず、がばっと起き上がった。
ざらりとしたモノの正体は子犬の舌だった。
どうやら子犬がわたしの顔を舐めたらしい。
後ろ足で伸びあがって、わふわふと尻尾を振っている。
(いたた…)
何だか身体中が筋肉痛の様に痛い。
記憶が定かでないけど、
(途中で本物の『マヤ王女』が出てきたような気が...する)
色々と混乱してるけど、わたしが横になっているのはニキアスの寝台のようだった。
寝台の上に飛び乗った子犬の身体を撫でていると、ナラがたらいと手ぬぐいを持ってテントの中に入って来た。
「...マ、マヤ様!だ、大丈夫ですか?」
「...え?あ…大丈夫よ。ごめんなさい。心配かけて…」
あまり良く覚えて無いため、わたしが曖昧に笑うとナラは笑いごとではありませんと珍しく厳しい顔をした。
「大変な騒ぎになりました。ニキアス様が今直接お医者さまを呼びに行かれています」
「え?…ニキアスが?直接呼びに行ったの?」
「はい。ユリウス様が呼んでくると言ったのに、話も聞かずに飛び出して行ってしまわれました。仕方なくユリウス様はわたしを呼びに来られて、マヤ様の側にいてくれと」
(ニキアスったらテンパってしまったのかしら…)
「そ、そうだったのね...」
(それはへらへら笑っていたら怒られるわね…)
と考えていると、なにやらテントの外が少し騒がしい。
(何かしら?)
わたしが少し顔をだすと、白い大きな犬がテントのちょうど入口に静かに立っていた。
「…ごめんね、びっくりさせたわね」
わたしは静かに見上げる犬の前にしゃがんで笑いかけた。
驚いたのだが、今度は親犬までもわたしの頬をペロリと舐めたのだった。
********
するとちょうどテントの外のある方向から兵等の声がする。
「ニキアス様っ!引っ張るのはお止めください!」
「それでは遅いんだ!いっそお前を抱えるぞ?」
二キアスの大きな声がして、大分ご年配の…明らかに兵士の格好とは違う、トーガを着た小柄な男性と言い合いをしているようだ。
男性の腕を引っ張るのを止めて背中におんぶする事にしたらしい。
その状態でテントの方向へ走ってくるのが見えた。
背負っている男の人は、迎えに言った医者なのか、しきりにニキアスに大声で文句を言っている。
ニキアスが後ろを振り向きながら、彼に対して何か言っていた。
わちゃわちゃの二人をテントの前で親犬と共に立って待っていると、ニキアスがこちらを振り向いた。
わたしの姿を見ると、立ち尽くす。
二キアスの手の力が緩んだ為か彼の背中に背負われた医者が、ずるっと地面に滑り落ちた。
わたしは思わず声をあげた。
「ニキアス様、危ないですわ。お医者様が落ち…」
「マヤ!!」
ニキアスが走ってきて、驚いたままのわたしを思いきり抱きしめたのだった。
******
「マヤ…マヤ…!...」
ニキアスは何度も繰り返しわたしの名前を呼んでわたしを腕の中に抱いた。
わたしはしばらくされるがままになっていたが、ニキアスの結構な腕の力で抱きしめられると
「二…ニキアス様…苦しいです」
と、思わず腕を叩いて言ってしまった。
(プロレスの技にこんなのがあった気がする...)
「す…済まない、苦しかったか」
慌てたニキウスは、身体を離した。
ニキアスの顔を見上げたわたしは、そこにいつも必ず彼がいつも付けている筈のあるものが無くて驚いてしまった。
「...二、ニキアス様…め、面布はどうされたんですか?」
ニキアスははっと気が付いたように左目を掌で隠し、わたしが明らかに分かるほど青ざめてしまった。
「…君が触った後燃えるように熱くなって思わず取ってしまってから...その後すっかりつけるのを忘れていた」
その後はわたしがいきなり意識が無くなり倒れて、度肝を抜かれたニキアスは一瞬それどころでは無くなってしまった...という事らしい。
(ニキアスにしては考えられない事なのだが、今まで面布を外していたのを忘れていたらしい)
「…もう一度見せてください」
「嫌だ…また呪い云々の言葉を俺は聞きたくない」
駄々っ子の様な口調で目線を反らすニキアスにわたしはお願いをした。
「ニキアス様...そんな事決して言いません…お願いします」
「...嫌だ」
「お願い。いいこだから...見せてください」
僅かに抵抗するニキアスの左手をゆっくり開かせていき髪をかきあげると、いつも隠している左目とその周囲の皮膚が少しずつ露わになった。
「…嫌なのに…」
「…大丈夫ですから...ね...?」
――なんとそこには。
確かに――痣はあった。
けれど、何故か青の色素が大分抜けて褐色の色に変化している。
とても以前マヤが言っていた様な青黒い『ヴェガ神の呪い』と呼んでいるような代物では無くなっていたのだった。
真っ白い毛並みが視界に広がっている。
わたしは思わず、がばっと起き上がった。
ざらりとしたモノの正体は子犬の舌だった。
どうやら子犬がわたしの顔を舐めたらしい。
後ろ足で伸びあがって、わふわふと尻尾を振っている。
(いたた…)
何だか身体中が筋肉痛の様に痛い。
記憶が定かでないけど、
(途中で本物の『マヤ王女』が出てきたような気が...する)
色々と混乱してるけど、わたしが横になっているのはニキアスの寝台のようだった。
寝台の上に飛び乗った子犬の身体を撫でていると、ナラがたらいと手ぬぐいを持ってテントの中に入って来た。
「...マ、マヤ様!だ、大丈夫ですか?」
「...え?あ…大丈夫よ。ごめんなさい。心配かけて…」
あまり良く覚えて無いため、わたしが曖昧に笑うとナラは笑いごとではありませんと珍しく厳しい顔をした。
「大変な騒ぎになりました。ニキアス様が今直接お医者さまを呼びに行かれています」
「え?…ニキアスが?直接呼びに行ったの?」
「はい。ユリウス様が呼んでくると言ったのに、話も聞かずに飛び出して行ってしまわれました。仕方なくユリウス様はわたしを呼びに来られて、マヤ様の側にいてくれと」
(ニキアスったらテンパってしまったのかしら…)
「そ、そうだったのね...」
(それはへらへら笑っていたら怒られるわね…)
と考えていると、なにやらテントの外が少し騒がしい。
(何かしら?)
わたしが少し顔をだすと、白い大きな犬がテントのちょうど入口に静かに立っていた。
「…ごめんね、びっくりさせたわね」
わたしは静かに見上げる犬の前にしゃがんで笑いかけた。
驚いたのだが、今度は親犬までもわたしの頬をペロリと舐めたのだった。
********
するとちょうどテントの外のある方向から兵等の声がする。
「ニキアス様っ!引っ張るのはお止めください!」
「それでは遅いんだ!いっそお前を抱えるぞ?」
二キアスの大きな声がして、大分ご年配の…明らかに兵士の格好とは違う、トーガを着た小柄な男性と言い合いをしているようだ。
男性の腕を引っ張るのを止めて背中におんぶする事にしたらしい。
その状態でテントの方向へ走ってくるのが見えた。
背負っている男の人は、迎えに言った医者なのか、しきりにニキアスに大声で文句を言っている。
ニキアスが後ろを振り向きながら、彼に対して何か言っていた。
わちゃわちゃの二人をテントの前で親犬と共に立って待っていると、ニキアスがこちらを振り向いた。
わたしの姿を見ると、立ち尽くす。
二キアスの手の力が緩んだ為か彼の背中に背負われた医者が、ずるっと地面に滑り落ちた。
わたしは思わず声をあげた。
「ニキアス様、危ないですわ。お医者様が落ち…」
「マヤ!!」
ニキアスが走ってきて、驚いたままのわたしを思いきり抱きしめたのだった。
******
「マヤ…マヤ…!...」
ニキアスは何度も繰り返しわたしの名前を呼んでわたしを腕の中に抱いた。
わたしはしばらくされるがままになっていたが、ニキアスの結構な腕の力で抱きしめられると
「二…ニキアス様…苦しいです」
と、思わず腕を叩いて言ってしまった。
(プロレスの技にこんなのがあった気がする...)
「す…済まない、苦しかったか」
慌てたニキウスは、身体を離した。
ニキアスの顔を見上げたわたしは、そこにいつも必ず彼がいつも付けている筈のあるものが無くて驚いてしまった。
「...二、ニキアス様…め、面布はどうされたんですか?」
ニキアスははっと気が付いたように左目を掌で隠し、わたしが明らかに分かるほど青ざめてしまった。
「…君が触った後燃えるように熱くなって思わず取ってしまってから...その後すっかりつけるのを忘れていた」
その後はわたしがいきなり意識が無くなり倒れて、度肝を抜かれたニキアスは一瞬それどころでは無くなってしまった...という事らしい。
(ニキアスにしては考えられない事なのだが、今まで面布を外していたのを忘れていたらしい)
「…もう一度見せてください」
「嫌だ…また呪い云々の言葉を俺は聞きたくない」
駄々っ子の様な口調で目線を反らすニキアスにわたしはお願いをした。
「ニキアス様...そんな事決して言いません…お願いします」
「...嫌だ」
「お願い。いいこだから...見せてください」
僅かに抵抗するニキアスの左手をゆっくり開かせていき髪をかきあげると、いつも隠している左目とその周囲の皮膚が少しずつ露わになった。
「…嫌なのに…」
「…大丈夫ですから...ね...?」
――なんとそこには。
確かに――痣はあった。
けれど、何故か青の色素が大分抜けて褐色の色に変化している。
とても以前マヤが言っていた様な青黒い『ヴェガ神の呪い』と呼んでいるような代物では無くなっていたのだった。
1
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
自暴自棄になってJK令嬢を襲ったら何故か飼われる事になりました
四十九・ロペス
恋愛
仕事も家庭も金も全て失い自暴自棄になった中年男と謎の令嬢との暴力と凌辱から始まるストーリ。
全てを失っても死ぬことさえできない西野の前に現れた少女。
軽蔑されたと思った西野は突発的に彼女に暴行を働いてしまう。
警察に突き出されると確信していたのだが予想外な事が起きる。
「あなた、私に飼われなさい」
中年男と女子高生の異常な恋愛を書いてみました。
初めての作品なので拙い文書ですが、よろしくお願いします。
また感想などもお待ちしております。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる