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第1章.嘘つき預言者の目覚め
20 兆し ②
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「ニキアス危ない!土砂崩れが起こるわ!」
わたしは振り向いてニキアスへと叫んだ。
(――一体どうして!?二日も早いなんて…!?)
しかも今じゃなくて行軍中に起きる予定だったはずなのに。
山の斜面を次々と小石や土がパラパラと転がって落ちてくる。
わたしが叫んだ瞬間、山の上の方を確認するや否や直ぐにニキアスはわたしを抱きかかえた。
ニキアスから見て右の上側――山の木々がわずかに揺れて傾いていくのを目の端で確認したのだ。
山の麓側に向かって斜め左下に横断する様に、ニキアスはわたしを抱えて走り始めた。
草木と土の香りが暴力的に立ち昇り、地鳴りのような音と共に樹々が裂けて薙ぎ倒される音が後ろから聞こえた。
ニキアスは一度舌打ちすると、
わたしの前で小さくドゥーガ神への加護の祈りの言葉を唱え始めた。
**********
ニキアスは闘神ドゥーガへの加護を祈り続けた。
マヤはニキアスの胸元にしがみついていた。
「ご…ごめんなさい、ニキアス。わたしが神託を証明したいばかりに、貴方を巻き込んで…」
「――うるさい、黙れ。舌を噛むぞ」
ドゥーガへの加護により身体が薄っすら光に覆われ始めると、ニキアスは足を止めてその場で自身のマントを頭から被りそのままマヤを抱え込んだ。
「ニキアス…!」
マヤはニキアスを見上げて涙混じりの声で彼の名を呼んだ。
ニキアスはそのまま彼女を見降ろして言った。
「いいかマヤ、聞け。必ず助ける。俺を信じろ」
**********
(あ…)
その瞬間わたしの脳裏に覚えていないはずの幼い頃のマヤ王女の記憶が流れ込んできた。
それと同時に、倒れた樹々を巻き込んだ岩と石混じりの泥の波が、ニキアスとわたしの頭上を襲った。
**********
マヤ王女はゼピウス国の第二王女だ。
生誕して三歳の時に『レダ神の祝福の神託』を受けた。
そしてそれは、ゼピウス国の不幸の始まりでもあった。
王として即位してからずっと、マヤ王女の父であるゼピウス国王の愚かな政治は始まってはいたが、国が傾く程ではなかった。
本来であれば、マヤは神託を受けた時からレダ神の神殿で神官のよる教育を受けるはずだった。
そのまま神殿の中で真面目に学べば、レダ神の預言者の中でも抜きんでた存在になっていたに違いない。
それをゼピウス王は、自分の娘が優秀な預言者だと知るや否や、国王の私欲による『神託』を歪んだ解釈に落とし込みゼピウスの国力を確実に弱体化させていった。
マヤが受けたレダ神の神託を無視し、預言で事前に不作による飢饉の恐れがあることを指摘されていたにも拘わらず全く対策をしなかった。
それどころか過度な国民への税の負担を強いて王族の為の豪奢な宮殿の建設や、見栄の為に巨大な堀を作ったり必要のない国境への軍隊の編成を行った。
そうしてゼピウス国は砂で作った城のように崩れていったのだった。
***************
わたしの脳裏に幼いニキアスが視えた。
幼い頃から美しい顔立ちをしていたのは顔の右側を見れば既にわかる。
左側の顔の上半分は布で覆われてはいるが。
マヤは少年を本で見たルチアダ神に似ていると思っていた。
ルチアダ神は芸術の神で美しい乙女の姿をしていた。
そう…マヤはこの下働きをするしては美しすぎる少年を気に入っていた。
わざわざ本や文章の読み書きを教えたりしたのはその為だ。
しかし数式や星の動きなどはニキアスは既に理解していた。
マヤは数字が苦手だったので、ニキアスに時折宿題の答えを教えてもらっていた。
数式を教えてくれる時のニキアスの右側の顔をうっとり見つめていたりする事もあった。
(彼はいつか――『ドゥーガ神』の加護を受けるだろう)
彼が現在いるのは『レダ神』の神殿であるにも関わらず、何故かマヤはそう思った。
(雄々しく美しい戦士の青年に成長するニキアスが視えるわ)
しかし成長した時も、彼は顔の左上部だけ布で覆われていた。
マヤ王女は気になって仕方が無かった。
だから何度も頼んだのだ。
『その布の下はどうしたの?どうしてそれを外せないの?』
お願い。
見せて――と。
「姫さまに見せるようなものではありません。どうぞこの布の下の事は捨て置いてください」
ニキアスは少し微笑んで、マヤが分からないと言った数式の解き方を教えてくれた。
(王女であるわたしが頼んでいるのに…)
何故かマヤは、ニキアスに拒絶されたようで寂しくなったのだ。
わたしは振り向いてニキアスへと叫んだ。
(――一体どうして!?二日も早いなんて…!?)
しかも今じゃなくて行軍中に起きる予定だったはずなのに。
山の斜面を次々と小石や土がパラパラと転がって落ちてくる。
わたしが叫んだ瞬間、山の上の方を確認するや否や直ぐにニキアスはわたしを抱きかかえた。
ニキアスから見て右の上側――山の木々がわずかに揺れて傾いていくのを目の端で確認したのだ。
山の麓側に向かって斜め左下に横断する様に、ニキアスはわたしを抱えて走り始めた。
草木と土の香りが暴力的に立ち昇り、地鳴りのような音と共に樹々が裂けて薙ぎ倒される音が後ろから聞こえた。
ニキアスは一度舌打ちすると、
わたしの前で小さくドゥーガ神への加護の祈りの言葉を唱え始めた。
**********
ニキアスは闘神ドゥーガへの加護を祈り続けた。
マヤはニキアスの胸元にしがみついていた。
「ご…ごめんなさい、ニキアス。わたしが神託を証明したいばかりに、貴方を巻き込んで…」
「――うるさい、黙れ。舌を噛むぞ」
ドゥーガへの加護により身体が薄っすら光に覆われ始めると、ニキアスは足を止めてその場で自身のマントを頭から被りそのままマヤを抱え込んだ。
「ニキアス…!」
マヤはニキアスを見上げて涙混じりの声で彼の名を呼んだ。
ニキアスはそのまま彼女を見降ろして言った。
「いいかマヤ、聞け。必ず助ける。俺を信じろ」
**********
(あ…)
その瞬間わたしの脳裏に覚えていないはずの幼い頃のマヤ王女の記憶が流れ込んできた。
それと同時に、倒れた樹々を巻き込んだ岩と石混じりの泥の波が、ニキアスとわたしの頭上を襲った。
**********
マヤ王女はゼピウス国の第二王女だ。
生誕して三歳の時に『レダ神の祝福の神託』を受けた。
そしてそれは、ゼピウス国の不幸の始まりでもあった。
王として即位してからずっと、マヤ王女の父であるゼピウス国王の愚かな政治は始まってはいたが、国が傾く程ではなかった。
本来であれば、マヤは神託を受けた時からレダ神の神殿で神官のよる教育を受けるはずだった。
そのまま神殿の中で真面目に学べば、レダ神の預言者の中でも抜きんでた存在になっていたに違いない。
それをゼピウス王は、自分の娘が優秀な預言者だと知るや否や、国王の私欲による『神託』を歪んだ解釈に落とし込みゼピウスの国力を確実に弱体化させていった。
マヤが受けたレダ神の神託を無視し、預言で事前に不作による飢饉の恐れがあることを指摘されていたにも拘わらず全く対策をしなかった。
それどころか過度な国民への税の負担を強いて王族の為の豪奢な宮殿の建設や、見栄の為に巨大な堀を作ったり必要のない国境への軍隊の編成を行った。
そうしてゼピウス国は砂で作った城のように崩れていったのだった。
***************
わたしの脳裏に幼いニキアスが視えた。
幼い頃から美しい顔立ちをしていたのは顔の右側を見れば既にわかる。
左側の顔の上半分は布で覆われてはいるが。
マヤは少年を本で見たルチアダ神に似ていると思っていた。
ルチアダ神は芸術の神で美しい乙女の姿をしていた。
そう…マヤはこの下働きをするしては美しすぎる少年を気に入っていた。
わざわざ本や文章の読み書きを教えたりしたのはその為だ。
しかし数式や星の動きなどはニキアスは既に理解していた。
マヤは数字が苦手だったので、ニキアスに時折宿題の答えを教えてもらっていた。
数式を教えてくれる時のニキアスの右側の顔をうっとり見つめていたりする事もあった。
(彼はいつか――『ドゥーガ神』の加護を受けるだろう)
彼が現在いるのは『レダ神』の神殿であるにも関わらず、何故かマヤはそう思った。
(雄々しく美しい戦士の青年に成長するニキアスが視えるわ)
しかし成長した時も、彼は顔の左上部だけ布で覆われていた。
マヤ王女は気になって仕方が無かった。
だから何度も頼んだのだ。
『その布の下はどうしたの?どうしてそれを外せないの?』
お願い。
見せて――と。
「姫さまに見せるようなものではありません。どうぞこの布の下の事は捨て置いてください」
ニキアスは少し微笑んで、マヤが分からないと言った数式の解き方を教えてくれた。
(王女であるわたしが頼んでいるのに…)
何故かマヤは、ニキアスに拒絶されたようで寂しくなったのだ。
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