侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい

花月

文字の大きさ
上 下
6 / 14

6 脳筋(?)ナイジェル様と秘密の尾行

しおりを挟む

 58-①

「……なるほど、そういう事ですか」

 フリードの連続攻撃を躱しながらシルエッタは、そう呟いた。

 ……彼女は気付いた。影魔獣に命を吸われて、死ぬ寸前だった目の前の実験動物が突如として生気を取り戻した理由を。

「吸命剣の力ね……」

 吸命剣・妖月は、斬った相手の生命力を吸い、使い手に注ぎ込む……先程、あの実験動物の少年は、私が召喚した影魔獣を妖月で刺した。

 おそらく、妖月は突き刺した影魔獣の生命力を吸い取り、あの少年に注ぎ込んだはずだ。

 ……あの実験動物の体内に入り込んだ影魔獣も、宿主が死ねば自分も消えてしまう事くらいは本能的に理解しているはずだ。あの少年に巣食う影魔獣は、宿主の生命力の代わりに……妖月を通じて流れ込んできた生命力を餌として喰らったのだ。

 そして、体内の影魔獣が宿主の生命力を喰らうのを止めた事によって、あの少年は元気を取り戻した……と、大方そんな所であろう。

「あら?」

 フリードの攻撃をひらりと躱し続けていたシルエッタだったが、とうとう壁際まで追い詰められてしまった。

「追い詰めたぞ、シルエッタ!!」

 恐竜型影魔獣、《黒王》の頭部と化したフリードの右拳が “グルル……” と低く唸る。

「おう、観念せぇコラァ!!」
「そうです、もう逃げられませんよ!!」

 武光とナジミも包囲に加わった。

 だが、シルエッタは微塵も焦る様子を見せず、静かに微笑んだ。

「な……何がおかしい!?」
「ふふ……今に分かりますよ」

 武光とフリードがシルエッタに飛びかかろうとしたその時だった。

「隊長ーーー!!」

 工房の入り口を固めていたはずのクレナ、ミナハ、キクチナの三人が大慌てで工房内に入ってきた。

「たたたた大変ですっ!!」
「どないした、クレナ!?」

 慌てふためくクレナ達を見て、シルエッタはニコリと微笑んだ。

 奴らは私を追い詰めたと思っているかもしれないが……それは違う。既にこの工房は……私の召喚した三十体もの影魔獣達によって完全に包囲されているのだ。ジワジワとなぶり殺しに──

 だが、シルエッタの思考はクレナが発した言葉によって遮られた。

「て……です……天驚魔刃団が!!」

「「……は?」」

 奇しくも、武光とシルエッタが同じタイミングで同じリアクションをした次の瞬間……


 “バコーーーーーン!!”


 工房の壁をぶち破って一つの影が飛び込んできた。

「お、お前は……!!」
「よう、本体!! 吸命剣・妖月……返してもらうぞッッッ!!」


 影光が 現れた!!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。

さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」  突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。    彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。  そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。  しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。 (私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)  ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが…… 「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」  我が子に対しても容赦のないヴァス。  その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。  悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。  ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。  誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。 「もう大丈夫」  その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。  婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

処理中です...