サンストーンへ愛の讃歌を

みわ

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5話

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 どれくらいの時間が経ったのかは分からなかった。ぼやっとする思考のなか、風呂場から父達が出ていくのが見えた。今すぐ濡れた服を脱いで暖を取りたかったが、疲れはてた身体は言うことを聞かず、倒れたまま乱れた息を整えるのに尽くしていた。
 しかし何時までもここに居てはまた父に殴られかねない。フラフラする身体に鞭を打って部屋に戻り、服を着替えて布団に入った。髪を乾かすのも、夕飯を食べるのも、何もかもが億劫でそのまま目を閉じる。意識が奥底へと落ちていく感覚に安堵を覚える。いっそこのまま一生目覚めなければ良いのに__。
 そんなことを思ったところでどうにもならない。残酷なことに必ず日は昇り新しい1日が訪れるし、朝食を作らなければまた殴られてしまうという恐怖から目を覚まして起き上がる。窓から見える空はうんざりするほど綺麗な青が広がっていた。
 朝食と学校へ持っていく弁当を作り、父が起きてくる前に急いでご飯をかきこんで家を出る。隠していたおにぎりはカピカピになってしまっていたため捨てた。
 昨日も通った道を歩いていると近くの木に鳩が止まった。よく見ると昨日の鳩だ。茶褐色のあの鳩、珍しく胸にすこし黒い模様があるから覚えていた。鳩も覚えているのだろうか、こちらをじっと見ているし、着いてくる。いまご飯はないぞ。学校に着くと鳩は何処かへ飛びだっていった。
 校舎に入ればたくさんの生徒の声で耳鳴りがする。気持ち悪い。早足で教室に入れば視線が集まるのがわかった。昨日のこともあって教室の空気は重い。

「えっ...。」

 自席に向かうと机には以前に何度も見た光景が広がっていた。机にかかれた落書きには自分を罵倒する言葉がたくさんあった。周りからクスクスと笑い声が聞こえる。やばい吐きそう。口元を手で押さえるが今度は息が上手く吸えない。眩暈が酷い。倒れそうになっていると後ろから冬木の声が聞こえた。

「おはよう、どうしたの皆?秋元君も席に座らないの...って、は、何これ。誰がやったの!?」

 冬木はどうやらこの事態は知らなかった様で誰がやったのかとクラスメイトに問い詰めていた。

「冬木、そんなやつ気にすんなよ。散々酷い目に合わされてきたんだろ?つか秋元テメェ、冬木に謝れよ。謝罪も出来ねぇクソやろうなのか。」

「ッッ!!、ご、ごめんな、さ...。ぅっ、ッッ!!」

「昨日も言っただろう!?僕は気にしてない!今すぐこの机を戻してっ!秋元君も、ごめんね、もう大丈夫だから。あ、ちょっと!!秋元君!!??」

 冬木の呼び止める声が聞こえたが教室を飛び出して屋上へと走った。気持ち悪い、苦しい。ごめんなさい、ごめんなさい。誰に届けるでもない謝罪を繰り返してひたすら足を動かした。結局屋上に届く最後の階段を登っている途中で限界が来て倒れた。息をたくさん吸っているのに肺に酸素が送られていないような気がする。頭痛もするし身体に力が入らない。
 しかしそんな身体でも衝動的にそのまま持ってきた鞄の中からカッターを取り出し、袖をまくって左腕に巻かれた包帯を取ると、力加減など一切考えず肌に刃を立てて切った。痣や火傷とは違う横に伸びたいくつもの跡の上に新しいものを作っていく。
 嫌いだ。この傷も、瞳も、滴る血も、自分の過去の過ちも、自身の存在の何もかもが、醜くて、憎くて、大嫌いだ。消えてしまえ、お前など!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!!」

 叫び声と共にカッターを振り下ろす。しかし腕に刃が刺さる前に誰かの手によって止められてしまった。その手を辿るとかつてのように自分の瞳を真っ直ぐに見つめる彼が居た。




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