236 / 270
第12章 "幻の島"・ワールドエンド
聖女は必死に食い止める
しおりを挟む「……………でさ、あの時も大変だったよね!盗人グループがさ!毎日毎日襲ってきて…………!」
空が暗くなっていく中フランは必死に、沢山の思い出話を身振り手振りでしていた。他の仲間たちは____みんな、焚き火を見ている。
でも、フランは黙らなかった。否、黙りたくなかった。
この話が終わったら_____ワールドエンドの最果てにあるという遺跡に着いてしまう。
でも。
みんなで一生懸命ラフェエルが死なない方法を考えた。しかし、収穫はなかった。つまり………………このまま、遺跡に行ったら、ラフェエルが死んでしまうのだ。
そんなの嫌だった。
その現実を受け入れたくなかった。
だから、フランは喋り続けた。みんなに話を振って、出来る限り行く時間を遅らせることしかできなかった。
問題の先延ばしなのは、わかっている。
我ながら苦しすぎると思う。
けど、それでもなんの情報のないまま、ラフェエルが死ぬとわかった上で遺跡に足を踏み入れるのは、嫌だった。
行きたくない。
このまま、指をくわえて愛し合うふたりを引き離したくなかった。
………………アルティア先輩の為に死のうとするラフェエル様の気持ちは、18歳なりたての私にはわからない。
けど、これが間違っていることぐらいわかる。
アルティア先輩の為にラフェエル様が命を投げ捨てるのは嫌だ。
ラフェエル様が死んで、アルティア先輩が泣く姿を想像できる自分に嫌気が差す。
でも、私に出来るのはこれしかなくて。話を沢山、沢山して時間を先延ばし、『やっぱり死にたくない』、『やっぱり帰ろう』という言葉を言わせようとすることぐらいしか、頭の悪い私には思いつかないんだ。
だから、たっくさん言葉を重ねた。
「ねえ!クリスティド様、エリー、リーブ、ガロ、ダーインスレイヴ様!他になんかない!?あんなことも、こんなこともあったわよね!
もっと、もっと話しましょう!私たちの旅の物語、私達の思い出、全部全部話して!」
「……………」
「………………」
「………………」
「…………」
「…………………」
全員はやっぱり、口を開かない。フランはそれに顔を歪めながら再び言葉を重ねた。
「みんなも話したいことあるでしょ!話そうよ!ねえ!」
「…………………フラン」
「わっ、アルティア先輩!アルティア先輩もなにかあ_____ッ」
フランは立ち上がったアルティアを見て、やっととめどなく溢れる言葉を止めた。
アルティアは……………目を伏せて、小さく笑っていた。
「あのね、…………その、思い出話、は…………………これで、おしまい!」
そう言ったアルティア先輩は___とても明るくて、いつもの"あの顔"だった。
世界の不幸全てを背負い込んで、強く哀しく笑う顔。
それを見て、言葉の代わりに涙が出た。
_____また、アルティア先輩は選んだんだ。
とても悲しい道を、選んだんだ。
「ッ、嫌だよ………私、アルティア先輩のその顔、嫌いだよ………なんで、なんで先輩はいつもそうして……………1人で苦しい道を選ぼうとするの……………ヒロインなのに、なんで幸せにならないのよ!」
そう叫んで泣き崩れるフラン。アルティアは泣いている自分より小さな聖女の頭にぽん、と掌を乗せた。
「これが物語なのだったら_____今が、最終章。
私、龍神からヒロインになってみせる。
だから______見守ってて、ね?」
「ッ、……………」
運命は、変えられない。
アルティア先輩が自分のことをヒロインだといい、小説の喩えに話をする。
アルティア先輩が何を決意したのかはわからない。
けど、不思議と______目の前から消えてなくなる直前のようだ、と思えた。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
シテくれない私の彼氏
KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
高校生の村瀬りかは、大学生の彼氏・岸井信(きしい まこと)と何もないことが気になっている。
触れたいし、恋人っぽいことをしてほしいけれど、シテくれないからだ。
りかは年下の高校生・若槻一馬(わかつき かずま)からのアプローチを受けていることを岸井に告げるけれど、反応が薄い。
若槻のアプローチで奪われてしまう前に、岸井と経験したいりかは、作戦を考える。
岸井にはいくつかの秘密があり、彼と経験とするにはいろいろ面倒な手順があるようで……。
岸井を手放すつもりのないりかは、やや強引な手を取るのだけれど……。
岸井がシテくれる日はくるのか?
一皮剝いだらモンスターの二人の、恋愛凸凹バトル。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
薬師の能力を買われた嫁ぎ先は闇の仕事を請け負う一族でした
あねもね
恋愛
薬師として働くエリーゼ・バリエンホルムは貴族の娘。
しかし両親が亡くなって以降、叔父に家を追い出されていた。エリーゼは自分の生活と弟の学費を稼ぐために頑張っていたが、店の立ち退きを迫られる事態となる。同時期に、好意を寄せていたシメオン・ラウル・アランブール伯爵からプロポーズを申し込まれていたものの、その申し出を受けず、娼館に足を踏み入れることにした。
エリーゼが娼館にいることを知ったシメオンは、エリーゼを大金で身請けして屋敷に連れ帰る。けれどそこは闇の仕事を請け負う一族で、シメオンはエリーゼに毒薬作りを命じた。
薬師としての矜持を踏みにじられ、一度は泣き崩れたエリーゼだったが……。
――私は私の信念で戦う。決して誰にも屈しない。
変態王子&モブ令嬢 番外編
咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と
「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の
番外編集です。
本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。
「小説家になろう」でも公開しています。
精霊に転生した少女は周りに溺愛される
紅葉
恋愛
ある日親の喧嘩に巻き込まれてしまい、刺されて人生を終わらせてしまった少女がいた 。
それを見た神様は新たな人生を与える
親のことで嫌気を指していた少女は人以外で転生させてくれるようにお願いした。神様はそれを了承して精霊に転生させることにした。
果たしてその少女は新たな精霊としての人生の中で幸せをつかめることができるのか‼️
初めて書いてみました。気に入ってくれると嬉しいです!!ぜひ気楽に感想書いてください!
破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました
平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。
王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。
ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。
しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。
ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる