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第9章 次期龍神達の"防衛戦"
生贄皇子の笑顔の理由は
しおりを挟むフランの叫び声は、まだ続く。
「サクリファイス大帝国の第一皇太子だけが犠牲になるなんて!」
『____"犠牲"とは、心外だな』
フランの言葉を遮ったのは、星の妖精神・ゼグスだった。ゼグスは____ラフェエルとほとんど同じ顔で、言った。
『サクリファイス大帝国の第一皇太子は、契約者であり、友であり、………それ以上である存在が"これからの世界を変えてくれる"と信じて、この道を歩み続けたんだ。
この世界の人類のために…………ここまで、来たんだ。
たとえそれが自分が死ぬと分かっていても、誇り高き第1皇太子__我が子孫は後悔などしないさ』
「~ッ!」
アルティアは泣きながら、ゼグスの前に来た。そして、その胸を喋りながら弱々しい力で殴った。
「私、私はラフェエルに言っちゃったよ!『早くワールドエンドに行こう』って!『私は龍神になる』……………そのあとのこともいっぱい、いっぱい!」
そう。言ったんだ。
ワールドエンドに行って、私がちゃんとした龍神になったら、平民になって暮らすって。
平民になっても遊ぼうね、お城に遊びに行く、奴隷国を制圧して新しい町を作るのもいいって、他にもいっぱい、いっぱい。
ラフェエルがこの事を口にしたことは無かった。
でも、知らなかったとは思えなかった。
ラフェエルは頭がいい。わからないはずがない。
それに、その話をする度に_____
「ラフェエルの気持ちも何も知らないでさぁ!
だけど、ラフェー……………………笑ってた、笑ってたんだ……………!」
アルティアはゼグスを叩くのをやめて、その場で泣き崩れた。涙はいくらでも溢れてきた。とめどなく流れる涙をどうすればいいのか分からなくて、ひたすら目を擦ってた。
ラフェエルは、龍神になった後の話をすると笑ってたんだ。
優しく、悲しい顔。
けど私は、その意味すら知らなかった。
それどころか笑顔が見れて嬉しくて、すすんで『龍神になった後のこと』を話していた。
ラフェエルは言い返すことをしなかった。
_____全部理解して、受け入れて、笑っていたんだ。
そう思うと悲しかった。私が龍神と同じようにラフェエルを殺そうとしてたことすら理解していなかったんだ。
ゼグスはひたすら泣くアルティアをそ、と抱き寄せた。何か喋るわけではなく、ただ子供のように泣きじゃくる幼い次期龍神を抱き締めた。
ラフェエルと、同じ匂いがする。
アルティアは目を瞑り、思い出した。
* * *
「ぶぅ………………」
その日の私は、突然の雨で不貞腐れていた。
早くワールドエンドに行きたいのに阻まれて不機嫌だった。その隣にいたラフェエルが言う。
「なんだその気色悪い顔は」
「……………元からこの顔だし」
そう言って、膝を抱える私。
ラフェエルはそんな私をそ、と抱き締めた。
…………セイレーン皇国を出てから、ラフェエルのボディタッチは増えた。距離がぐ、と近づいて、最初こそ戸惑っていたけど、何かをされるわけじゃないと知っているから黙ってそれを受けていた。
でも、その日はそれだけじゃなかった。
「なあ、アル」
「…………何?」
「私は____お前には、いつも笑っていて欲しい」
「…………?ニコニコしろ、ってこと?」
そうじゃない、と首を振るラフェエル。
ラフェエルは顔を上げて、空から降り注ぐ雨をみた。
「心の底から馬鹿みたいに笑うお前は____私に"勇気"を与える。
何が起きても大丈夫だと思わせてくれるんだ」
「はあ?アイノコクハクですか?」
「…………………その不細工を見たくないだけだ、勘違いもここまで来れば清々しいな」
「んなっ…………………ふふ、変なの。貶されてるのに嬉しいよ。次期龍神は一生あんたの隣で笑っててあげる」
「_____ああ、そうしてくれ」
ぽん、と頭に乗る大きな手。
ラフェエルの笑顔。
私は、それを見てもう一度声を出して笑ったんだ。
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