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第8章 氷の精霊、星の妖精神と次期龍神
生贄皇子と星の妖精神の密談
しおりを挟む「…………………………………」
ラフェエルは、紫色の結界の中にいた。
そう、太陽神・ドゥルグレと話した時のような密室、全てを遮断する空間だ。しかし、ドゥルグレが作り出したものより数倍強い結界だと見ただけでわかる。
長机、柔らかい椅子…………………密談をするにはうってつけのその場所を作り出した男は長机の1番奥に座っている。
自分とほとんど同じ顔をした男。
ゼグス=ユートピア=サクリファイス_____もとい、ゼグス・リヴ・レドルド・サクリファイス。
星の妖精神にして、"生贄の始まり"である元サクリファイス大帝国第1皇太子だ。
屈服の儀を終わらせた後、『話がしたい』と言われたのだ。なんの話かは____大方予想出来ていた。だからそれを受けたのだ。
『ごめんね、長旅の後なのに呼び止めてしまって。少し無理矢理だったかな?』
「____構わない」
『そっか。話をする前に改めて______すまなかった』
ゼグスは、紅銀の頭を深々と下げた。
そうしながら言葉を重ねる。
『私が龍神と戦おうとしたばかりに_____君を初めとする、サクリファイス大帝国歴代第1皇太子には申し訳が立たない。
私にもっと、もっと力があれば………否、私が国民をちゃんと止めていれば………………こんなことにはならなかった』
温厚な喋り方をしていた男が、悔しげな声を上げている。よほど悔やんでいるようだ。
確かに、話を聞いた時は驚いた。怒りがなかったとは言わない。
けれど。
ラフェエルは静かに、けれど確かな口調で言う。
「頭を上げてくれ。____いくら謝られても許す気は起きない」
『そう、だよな…………………』
「______だが、気持ちは分からんでもない」
『………………?』
ゼグスは僅かに頭をあげ、現第1皇太子の顔を見る。
深く刻まれていた眉間の皺がない。笑っている訳では無いが、怒りは感じられなかった。
「私が貴方の立場であれば、同じ事をしていただろう。突然現れた龍神に蹂躙され続けるのは不愉快だっただろうし、人間同士のくだらない争いを止め、手を組むというのは大きな功績だ。
事実、大国と呼ばれる国は____もう大きな争いをしていない。困った時は助け合い、"話し合い"のみで問題を解決する。それは貴方が尽力したことが影響しているだろう。
そして、人間でありながら妖精神や精霊を味方につけたのは素晴らしい事だと私は思う。
___国民全員が貴方のために命を捧げた程に慕われていた貴方の子孫であることを、私は誇りに思う」
全て本心だ。
昔の私であれば、怒り狂っていただろう。
この男を私は呪っていただろう。
こう思えるようになったのは……………紛れもなく、アイツの影響だ。
「私はアル____龍神と"契約"出来たことにより、視野が広くなった。様々なものを受け入れる力が身についた。
龍神……………アルティアと出会えた。
憎む以上に感謝を覚える私が、貴方をなぜ責められる?」
『______!』
ゼグスの目から、涙が零れた。
_______ずっと、罪悪感が付き纏っていた。
10万年、10万年も悪夢を見ていた。自分のした事が胸につかえ、呼吸すらままならないことだってあった。
これは罰なのだ、私を慕う者のたくさんの命を奪った私の罪だと受け入れてきた。
しかし。
目の前の男は______5000年前に現れた"サクリファイス大帝国第一皇太子"と同じ事を言ったのだ。
1度だけでなく2度も子孫に"赦された"のだ。
ゼグスは、静かに涙を流し続けた。
これでは、私の相棒である氷の精霊・ゼグスを泣き虫だと茶化すことは出来ないな。
そんなことを思いながら、ひたすら泣いた。
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