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第7章 次期龍神、人狼少年を拾う

次期龍神のトラウマ

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 「…………………っ」







 アルティアは目の前で行われている虐待に、顔を歪める。


 そう言った男の顔は見えないけど____きっと、気持ち悪い笑顔を見せているのだろう。



 私にはわかった。

 だって、私も同じことをされた経験があるから。




 ______この出来損ないがぁ!俺の種だろテメェは!?



 _____身体を売れ。そのためにこの偉大なるお父さんがたっぷり身体に叩き込んでやるからな?





 私は震える自分の身体を抱いた。
 私の記憶に刻まれた、私の心に焼き付けられた___"呪いの言葉"。



 _____いやだ。


 _____助けて。


 _____誰でもいいから私を助けて。





 あの時の苦しい気持ちが、痛みが鮮明に蘇る。


 やめろ、やめろ、やめろ。


 私はもうあの男の子供じゃない。ガーランドの子供だ。


 私の周りには私を助けてくれる人が沢山いる。



 _____あの子には?



 今目の前で私と同じ目に合わされてるあの子には、味方はいないの?




 巫山戯るな。



 巫山戯るな。


 ________巫山戯るな!



 「………………ダーインスレイヴ」




 私は込み上げる嫌悪と憎悪と怒りを抑えて、そう小さく呟いた。ぽう、と青紫色に染まった剣が現れる。それを掴んだ。




『おい、アルティア。どうしたんだい?ラフェエルは____って、あの子供を助けるつもりか?』



 ダーインスレイヴが脳に直接語りかけてくる。


 無視するアルティアに、ダーインスレイヴは続けた。




『そんなどす黒い気持ちで何をするつもりだ。無視をしないで答えて。助けてなんのメリットがあるんだ?あの子供は___少々厄介な存在だぞ』



 _____そんなこと、知らないよ。

 助けるとか助けないとか、メリットとか厄介とか……………………そんなの全て、どうでもいい。


 ここで私が動かないで_____誰が動くんだ。



 アルティアは1歩、足を踏み出した。






 *  *  *




 ______ボクは、謝ることしかできない。




 人間達の言葉、いやらしく歪んだ口元、様々な道具で痛めつけられる……………………もう50年も、こうされてきた。


 ボクは"人狼"で、希少種だと人間達は言っていた。この目も珍しいと言われた。


 でも本当にそうなのかは知らない。



 だって、ボクはボク以外の"人狼"を見たことがないから。


 両親が子供を育てるらしいけれど、ボクには両親はいない。会ったこともない。いつだってボクの目の前にいたのはボクを殴るこの人と、沢山の人間_キゾクと呼ばれていた_人だけだから。



 怖いことなんて、もう何も無い。



 殴られるのも、触れられるのも、舐められるのも、人間のおしっこをするモノをお尻に無理やりいれられるのも、逆に人間のメスのアナに自分のモノをいれらされるのも、ヘンな薬を飲まされるのも、その他の全部全て何もかも…………………"アタリマエ"のことだから。



 ソレをされればご飯を少しだけ貰えるから。



 何も怖くない。



 「おい!聞いてるのかクソ化け物!」




 拳が振り上げられ________?




 何が起きたのか、分からなかった。

 固まる人間。その人間の胸に青紫の色の"何か"が生えている。


 ボクに触れていた男が目を見開いている。



 静かになった空間の中、胸に生えた"ナニか"が無くなった。




 人間が崩れ落ちていく。その先には________人間の、メス。


 黒くて長い髪、仮面を着けた、黒いドレスを着て、片手には血の滴る青紫色の剣を持った人間のメスが、居たんだ。










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