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第5章 聖女、聖の精霊と次期龍神
契約に亀裂の入った音がした
しおりを挟むアルティアは外を見ながらぼんやり思いに耽る。
聖なる力とか、聖女とか、平民が王族に養子にはいるとか………………転生小説ではあるあるだよね。乙女ゲームにもそんなのがあったなぁ。ヒロインは実は隠された力がある!男達はそのせいか一目惚れして奪い合う!………みたいな?超王道シンデレラストーリーのテンプレだよね。
憧れがないとはいわない…………というか憧れしかないです、はい。めちゃくちゃ憧れてます。もう私からしたら"人間"ってだけで羨ましい。
私の姿は人間だし、ご飯を初めとする全て人間だけど、これも大きな努力の賜物なのです。
龍の姿は魔力が暴れて制御できないけどありのままでいられるというか。少なくとも人間の姿で寝る時に、寝ぼけて龍化しないように束縛魔法で全身ガチガチに固める必要がなくなる。正気を失ってもガーランドがいれば半殺ししてくれるし。
こんなことならアトランティスにいる時意地を張らずにちゃんと龍の姿に慣れとけばよかった。だからといって旅の途中龍の姿を見せるわけにはいかないし…………
やっぱり人間に産まれたかったなー。チート能力持ちと普通の平民どっちが欲しい?と言われたら迷わず平民を選ぶよ。
もっと我儘を言うなら聖女がよかったよ。聖なる力で国を幸せに~!とか言って神に祈りながら聖なる力を行使したかったよ。イケメンに囲まれて!か弱い乙女に!なりたかった!
でも現実の私は龍神という人ですらない存在で、聖なる力どころか魔王のようなチート能力で神を崇めず苦しめる存在なわけで。
イケメンは周りに居るけど____
横暴理不尽独裁自己中皇子ラフェエルと、
爽やかだけどポンコツな王子クリスティドと、
命令に忠実だけど自己主張がない側近リーブと、
幽霊でプライバシーガン無視の魔剣ダーインスレイヴと、
ワンワンワンダフル!な龍神大好き悪魔カイテルと、
親バカ丸出し頭お祭り状態の父親ガーランドと、
幼稚な太陽神ドゥルグレと……………
顔を思い浮かべて、1人で吐きそうになる。馬車酔いなのか、頭のおかしいイケメンの顔を思い浮かべたからか…………
まともなのは水の精霊・アクアと土の精霊・グランドくらい?でもアクアはショタだし、グランドは森の妖精神リーファとデキてるしな……………
はぁー、ほんと、聖女になりたかった!
「………………アルティア、君の思考はいつも賑やかだね」
「ほらもうそういう所だよね、残メン感がもう凄い。顔はレベル高いのに全てをぶち壊すのギャップじゃないからね」
「……………………んぬん」
「え?なに、ラフェエル」
「……………私も龍神がお前ではなく現"聖女"のフランだったらいいと言ったんだ」
「はぁあ!?なにそれ!」
思わず大きな声が出た。馬車内に響く。この失礼な言い方も鼻についたけどそれ以上に……………そういった時、ラフェエルの顔がほんのり顔が赤かったから。
それを見た時、頭が真っ白になって…………気づいたら怒鳴ってて。
わかんないけど、腹が立ったのだ。
でも、すぐに目を見開いて私を見るラフェエルの顔が目に入って、我に返った。
けれど、残念な事にこういう時何を言えばいいのかわからなくて、その勢いのまま言葉を続けた。
「…………………私だって、聖女の方がよかったわよ。……アンタなんかとキスすることも契約もしなくてもよかったし旅をしなくてもよかったもの!
ふん!」
罰覚悟でそう言った。
でも____罰は落ちなかった。
代わりに、ラフェエルは一言だけ口にした。
「_____そうだな」
「…………………ッ!」
そう言った時のラフェエルの顔を、私はきっと一生忘れられない。
いつもの鉄仮面顔に……………初めて悲しい色を帯びていたから。
私とラフェエルはこの後、一言も口を聞かなかった。
____この後、このやり取りを後悔するとも知らずに………………………私達は、セイレーン皇居の地面を踏んだのだった。
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