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第3章 森の妖精神と次期龍神
森の妖精神は泣いている
しおりを挟む森の中を歩く。
クリスティドとエリアスは昔話に華を咲かせている。同じように昔話に混ざる気にはならなかった。
それよりも、アルティアが静か過ぎることが気になった。いつもなら頼んでもないのに騒いで文句を言う、起きている限り喋り続けるような女がまったく喋らないのだ。
アルティアに視線を向けると、目が合った。何かを言いたげにしてから顔を背ける。
何か言いたいならいつものように言えばいいものを、何を考えているのだ?
首を傾げていると、先頭を歩いていたエリアスが足を止めた。どうやら、着いたらしい。しかし、様子がおかしかった。
「どうした」
「…………やはり、森の妖精神様は悲しんでいらっしゃるようで……………森に結界が張ってあります」
そう言って、エリアスは手を前に出した。空中に浮いていた手は薄い膜に阻まれた。目を凝らしてみると、魔力を感じた。……………結界か。
契約者であるエリアスさえ居れないのだから余程のことなのだろう。しかし、悠長に妖精神を待ってやる義理はない。
「…………………………アルティア」
「…………………………何?」
「この結界をどうにかしろ」
「……………………………」
アルティアはその言葉に歩き始めた。
やはり、おかしい。アルティアの事だから、"私は別に妖精神に会いたくないからやだ"だの"なんで私がしなきゃならないの!?"だの捲し立てるものだと思っていた。
こんなに大人しく命令に動くのは初めてかもしれない。
アルティアはエリアスの横に立った。
ぴた、とガラスのような結界に触れる。
………………冷たい結界。
漠然とそう思った。氷のように冷たい結界は触れてて悲しい気持ちになった。ただでさえいい気分ではない。
____考えるの、やめよう。
私は1度首を振って乱れた気持ちをリセットした。そして、静かに呟いた。
「……………____ブレイク」
「……………!」
私の言葉に、触れていた場所にヒビがはいった。ヒビは徐々に広がり思いのほか大きく張られていた結界全体に巡らせると、パリィン、と割れた。緑色の破片が宙を舞う。
結界の先には______枯れ果てた植物に囲まれ、陽射しを一心に受けた黄緑と緑の長い三つ編みを前に流し、金色の瞳から大粒の涙を零しつつ私を見つめる女がいた。
綺麗だ、と思った。
見た目は完璧に女神。なのに、泣いている姿は凄く人間臭かった。
「リーファ様!」
見蕩れている私を我に返らせたのは、エリアスの声だった。エリアスは小走りをして泣いてる女に近づき土下座した。
「申し訳ございません!わたくしがグランド様のお話を聞きたがったばっかりに…………………!」
『 ………………エリー…………………何故、戻ってきたのです……………わたくしは1人になりたいのです。放っておいてくださいまし。
次期龍神に選ばれし人の魂、屈服の儀はまた今度にしてくださらない?』
綺麗な声なのに、何処か虚ろだ。心が壊れそうな時に出る虚ろ。………身をもって、知っている。
そんなことを思ってると、ラフェエルが前に出た。
「貴様の都合など知らない。屈服の儀を行え」
「おいラフェエル!相手は森の妖精神様だぞ!無礼だ!
森の妖精神様、お初にお目にかかります、私は隣国・シースクウェア大国の第三王太子クリスティド・スフレ・アド・シースクウェアと申します。
差し支えなければ、何故涙をお流しになっているのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
『クリスティド……………マリンとアクアの魔力を感じますね。しかし、貴方には関係の無いこと。
話したって____グランドと会えないのは、変わらないのですから』
森の妖精神はそう言って再び涙を流した。
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