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第1章 異世界転生と出会い

今の私が知っていること

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  私は前世で見ず知らずの男に殺された。
  物心がついた頃、……ううん、生まれてからずっと親にありとあらゆる虐待をされ、それでも様々な仕事をしてお金を貯めてやっとの事で逃げ出し自由を得たその直後に。
   恋人はおろか友達も居なかったし、未練はない。ただ悔しかった。他人を恨んで、自分を憎んで、それでも自由に枯渇して。

   その結果がこれなんて、笑えちゃう。


   神も仏もありゃしない。そんなモノがあったらそもそもこんな人生を送ってなかったはずだ。大嫌い。


   そう思って目を閉じたら、此処に居た。驚く事に赤ん坊になってたのだ。そして、そんな私を抱き締めていたのがこのガーランド=ワールド=ドラゴンだった。



  *  *  *




   最初こそ、期待した。16歳の時に買ったスマートフォンで毎日親の目を盗んで見ていた転生小説の世界に来た!と。この際悪役令嬢でもいい、破滅エンドを全力で回避して慎ましく生きれれば……と思ったのも束の間、男は目を細めて言ったのだ。



   「君は思ったより優秀だね。こんなに鮮明に"前世の記憶"を持っているなんて」




   「……………」



   即バレでした。あんぐりとだらしなく口を開く私に男はとんでもない事を言った。



   「我が君を選んだんだ。人間に対して、神に対して果てしない憎悪を持ちながら、それでも明るく人間らしい君の魂………別世界の神々がわざわざ奪い合ったんだよ?君を」



   「……………」



   何を言っているのか、全くわからない。は?どういう事?新しい人生が待ってるんじゃ……………。



   「人生、ね。人間じゃない君に人生という言葉は使えないねえ。だって君は__龍だから」



   「…!」





  私の目に男の手が覆い被さった。



   ………嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!!!!




   ____そこからの記憶は覚えていない。後から男に聞いた。龍の姿になって暴れたらしい。赤ん坊なのに凄い魔力だったよとけらりと笑いながら言っていた。私が覚えているのはその後。我に返ったら全身が痛かった私に、やっぱり笑顔で言ったんだ。





   「君は、アルティア。アルティア=ワールド=ドラゴン。……我__9代目龍神・ガーランド=ワールド=ドラゴンは父として、母として、君を歓迎するよ」



   「ふぇ、……ふぇぇぇん………!」



   そう言って額に口付けられた。私は___ただ、泣く事しかできなかった。





 *  *  *






   ……とまあ、こんな流れで私は転生の醍醐味を全部奪われた状態で今世を生きてます。まだ5ヶ月だけど。

   え?龍神の後継者の説明になってないって?そりゃあ私も龍神の後継者ってのが分かっていないんで。だってまだ5ヶ月だよ?分かるわけないじゃんねー。でも、分かってることがない訳では無い。


 私が住んでいる場所はアトランティスと言う大空洞。ゴツゴツした岩肌剥き出しの、色気の欠片もない場所に住んでいる。基本このガーランドと私の2人で此処に住んでいるけれど、必要な時は骸骨やら吸血鬼やらゾンビやら、所謂アンデッドが現れます。それからわかる通り、私の知っている世界ではない。おまけに魔法まで使えちゃう訳だからRPGゲームの世界に居る気分。空を飛べるし、バリアもはれるし、この前は蝋燭に火を灯すことも成功した。赤ん坊でも大抵の事はできるから生活自体に不満はない。ただ……



   グゥウ、とお腹が鳴る。私はバッ、とお腹を抑えて息を止める。が、時すでに遅し。


   「あら~、アル、お腹空きまちたか~?」


   それを聞きつけた黒髪のナイスバディの女……基女に化けたガーランドがクネクネと胸丸出しに抱き上げてきた。



   ……この時間は地獄だぁ………




   私は色んな意味で泣きたくなった。













    
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