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最終章 Heroine Becomes a Hero !

人を呪わば穴二つ

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 嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。ここに、ここに3人がいるわけ____ッ!



 セオドアの身体にたくさんのものが抱きついた。足元には愛おしい子供たちが。胸には____愛する女が。




 セオドアの口は、勝手に動いていた。


 「アミィ、セラ、アド…………」


 「セオ様!セオ様ッ…………!」


 「ひっぐ、うわぁぁぁぁん!」

 「心配させないでよ!父ちゃん!」


 「………みんな、どうして………」


 「私が連れてきちゃった」


 「………!」



 そう言ったのは、悠々と歩くアルティア皇妃様だった。両手を合わせててへぺろ、と舌を出している。



 「起きてたから、ちょうどいいなって、ね!」


 「なっ、………約束が違うじゃないですか!」


 「細かいことを気にすると、将来禿げるよ?」


 「ッ………貴方って人は__「セオ様!血が!」…………」


 アミィールはすぐさま俺の腕を見て顔を真っ青にする。そして、涙を零し始めた。まずい、まずい。


 「何故っ、なぜ傷があるのですかっ!傷ついたのですか!?」


 「アミィ、おちついて、これは、その………」


 「教えてくださ『お前らの為だよ』____わたくし達の、ため?」


 セオドアに詰め寄るアミィールを止めたのは、ハデスだった。ハデスはにっこり笑いながら歌でも歌うように言う。


『セオドアは、この呪いの人柱を、自分の血で____1つずつ、解いていたのだ。

 お前らの呪いを完全に消し去るために、な』

 「ッ、そんなこと、なぜ………!」


『_____愛する者の為に動くことに、理由は必要なのか?』


 「…………………ッ」



 ケルベロスの言葉に、アミィールは黙る。納得していない顔をしている。………アミィールは俺が傷つくことに過剰なくらい反応する。それだけ愛されているのだ。ゲームの世界とか関係なく…………俺を、俺だけを愛してくれている。


 だけど、それ以上に。


 「アミィ」


 「____ッ」



 セオドアは唇を重ねた。何度か重ねる。けどいつもの貪るようなキスではない。触れるだけのキス。それをしてから、アミィールの頬に伝う涙を親指で拭った。


 「___隠していて、ごめん。

 けどね。俺は___アミィや子供達の為なら、なんでもやる。傷ついても、苦しくても。アミィが怒っても、泣いても………俺はやる。


 だって____ずっと一緒に居たいから」


 「ッ、………そんなの……ずるいです…………なぜ、…………なぜそのようなことを…………

 怒れないじゃ、ないですか…………」


 「俺は卑怯者だから、ね」


 セオドアはそう言ってちゅ、とアミィールの頬にキスを落としてから、足元の愛おしい子供達にしゃがんで視線を合わせた。


 「セラ、アド。

 __お父様も、父ちゃんも………頑張るから、見ててくれる?」



 「っぐ、………わたくし、しゅくじょなのでっ、とのがたのやることにくちだししません!」

 「ひっく、………そのかわり、たくさん、たくさんあそべよっ!」


 セオドアはふ、と笑って泣いている子供たちの頭を撫でた。


 そして、くるりと最後の柱と向かい合う。………手首の血が止まってしまった。これはまた傷つくしかない。


 けど、不思議と怖くないんだ。俺の血が、俺の力が愛する人と子供達を救うのだから。


 これ以上誉なことがあるか。



 セオドアは、隠し持っていた短刀を手に取る。
 ___今までは、ハデスやラフェエル皇帝様、ケルベロスに切ってもらっていたけれど、最後くらい、俺が自分で『男の勲章』をつけたい。



 そう思ったセオドアは大きく息を吸った。そして、意を決して___血の出ていない方の手首を、短刀で切った。









 「!セオ様…………ッ!」



 わたくしが動く前に、セオドア様の手首から滴る血が、人柱に落ちた。人柱は___黒い流砂のようにサラサラと消えていく。黒い光を纏って、消えていく。


 その時、不思議なことが起きた。



 「___!」


 「わあっ!」 


 「うおっ!」


 「きゃっ」



 アミィール、セラフィール、アドラオテル、アルティアの身体からも黒い光が現れた。ぶわ、と花が咲くように舞う黒い光の玉達が全員を囲んだ。


 徐々に軽くなっていく身体。
 ギチギチに縛られた熱い鎖が解けていく。


 これにはセオドアも驚いた。初めて呪いが解かれる瞬間に居合わせたから。


 これは____呪いの………?


 黒い光は禍々しいはずなのに、綺麗だった。舞っている光に手を伸ばしてみる。



『_____ありがとう』


 「____!」


 声が、辺りに響いた。
 聞こえているのは俺だけではなく、ハデスとケルベロス以外が辺りを見た。


『____ありがとう、ありがとう』


『もう呪わなくていい世界なんだな』


『もう我々を苦しめた龍神は居ないのだな』


『10万年、10万年は長かった』


『いや、短かったろう?一時の夢、現の夢』


『夢心地だった』


『苦しかったけれど』


『でも、龍神はいなくなり、世界を守ってくれているのを知ってるよ』


『呪いをずっと押し付けててごめんね』


『ゼグス様の血を引く人間、居てよかった』

『そして、____青年。


 我々を救ってくれて…………ありがとう』





 「_____ッ、ああ…………!」




 俺は、この時知ったんだ。

 呪いをかけた人間達、龍神を殺す為だけに呪い続けた人間達、ハデスと同じように死神だと思っていた。


 けど、その死神が____誰よりも、『死』を欲していたんだ。



 「ッ、うあぁっ…………!」



 セオドアは___泣いた。
 黒い光に包まれながら、美しく哀れな魂達を思って、涙を流した。


 そんなセオドアに、家族は歩み寄る。
 アルティア、ラフェエル、アミィール、セラフィール、アドラオテルが一人一人、折り重なるように泣きじゃくる救世主に言った。



 「______私たちだけじゃなかった。呪いに苦しんでいたのは、龍神だけじゃなかったんだ。

 みんな、みんな苦しかったんだ」


 「______サクリファイス大帝国の人間はみな物好き、誰かの為に命を賭すのを美学だと思いがちだ。

 そんな思考、間違っているに決まっているのにな」



 「あんたは人のことを言えないわ、ラフェエル」


 「お身体、軽いよ、おとうさま、わたくしたち、もう怯えること、ないのね。きっと、きっと素敵なことだよね」

 「フンッ、そんなことしなくたって俺達はさいきょーなんだから、必要なかっただろ?」



 「アドの馬鹿、空気読みなさいよ」


 「空気に文字は書いてないから読めないもんねー」


 「____セオ様、やはり、わたくしは…………………心優しき、強き貴方と共に生涯を全うできることを、誇りに思います。


 愛しております、セオ様………いえ、セオ」




 「_____俺達は、呪われた一族なんじゃない。『穢れた一族』なんかじゃない。

 ただ、愛が深い………普通の、普通の家族で、…………たくさんの人と繋がって生きている、生き物で。


 アミィ、俺は______貴方のヒーローに、やっとなれたよ。


 愛している、アミィ」




 セオドアは泣きながら、全員に抱き締められながら、愛おしいヒロインにキスをする。



 たくさんの黒い光の中、幸せそうに笑う家族達は___夜が明けるまで、静かにこの幸せを噛み締めていた。














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