上 下
462 / 469
第31章 『呪い』と戦う主人公

子供たちの暴走看病 #3

しおりを挟む
 




 セラフィールは最近覚えたピアノの歌をアカペラする。とても激しい歌で胸に置かれた手をトントトン、とリズムを立てて叩いている。そのうち先程アミィールに怒られ、頭にたんこぶを作ったアドラオテルがまたまた顔を出した。手には年季の入った絵本を持っている。


 「じゃー俺は、絵本を読んであげるぞ!

 むかーしむかし、あるところに………」


 「………………」

 セオドアは真顔を作った。
 カオスだ、カオスの空間が出来ている…………左耳からはセラフィールの可愛い歌声が聞こえ、右耳にはアドラオテルの軽い調子の音読が聞こえている。

 どちらを聞けばいいのか分からない上寝るタイミングを失ったセオドアは黙って2人の『看病』を受けていた。




 *  *  *



 子供達は俺を看病してくれた。
 とても嬉しいんだ。

 嬉しいんだけど……………



 「ぐがー!」


 「すう…………」



 「……………重い」




 ぽつりと呟いたセオドアの身体の上には2人の子供達。アドラオテルは絵本を持って、セラフィールは俺の顔の近くにピアノの楽譜を散らかして。その他にも2人の玩具に囲まれている。


『看病』というより『看病ごっこ』を受けている気分だった。子供達は俺の頭にタオルを乗せることまで取り合っていたんだぞ?


 ____そんなの、嬉しいに決まっているじゃないか。

 身体に乗る重みが愛おしい。
 考えれば、いや、考えなくても分かるよな。生まれた時はあんなに小さかった命達がこんなにも大きくなったんだぞ?あともう少しすれば4歳だ。もう4年、この子供達といるけど、こんなに大きくなったとは思ってなかった。


 たどたどしくとも、俺を看病してくれたんだぞ?…………16歳までの俺だったらこんな未来、描けなかった。ああ、何度でも思うさ。さっきの夢ではないけれど、アミィールと出会ってなかったらこの子供達は生まれなかったんだぞ?



 ____とても、素敵なことじゃないか。

 俺たちの愛の結晶はこんなに愛らしく、優しく、楽しい子達で。


 俺はまだまだ未熟だけど、それでもパパ、なんてよんでくれるんだ。嬉しいさ。


 そんなことを思いながら子供たちを布団の中に入れる。熱が出てるからダメかもしれないけれど、だいぶよくなってきたし、少しくらい___「だめですよ、セオ様」…………あ。



 そんなことを思っていると、アミィールが二人の子供たちを抱き抱えた。そして、優しく微笑む。
  


 「子供たちに熱が移ってしまいます…………なんて、もう手遅れかもしれませんが」


 「アミィ」


 アミィールは子供達を部屋に未だ備え付けられた大きなゆりかごに寝かせてセオドアに近づく。隣に来ると、セオドアの顔を自分の胸に埋めた。



 「………もう、大丈夫ですか?」


 「………ああ。熱も下がった、と思う。
 アミィとアド、セラのおかげだね」


 「ふふ。…………でも、もう熱を出さないでくださいまし。わたくし、セオ様が死んでしまうのは本当に嫌です」


 「………ん、今回の件は反省している。
 当たり前だけどアミィにも子供達にも、夫で父親は私一人だものな」



 「そうです。貴方はただ1人、わたくしの愛おしい夫は貴方一人なのです。


 …………その貴方がいなくなってしまっては、わたくしと子供達は………」


 小さくなっていく声。微かに震えている。……………その気持ちを理解するのは難しくなかった。

 俺だって、逆の立場なら同じことを思うだろう。アミィールと子供達のいない世界など考えられない。考えたくない。


 「____アミィ」


 「セオさ…………っん」



 セオドアは少し離れてから次は自分からアミィールを抱き寄せ、キスをした。熱が移るかもしれない。いや、移ってもいい、なんて自分勝手なことを考えている。


 俺と同じ菌さえも受けて欲しいと思うのだから俺は最低なのだろう。けど、…………我慢はできなかった。


 「ん、ふぁ…………」


 熱を出したというのに、それを感じさせないような猛猛しいキス。頭が朦朧とする、甘い唇に、熱のせいかいつもよりも熱い舌。


 でも、愛おしい人からのキスは全部嬉しくて、心地よくて、全ての事柄がどうでも良くなるのです。


 セオドアはアミィールを優しくベッドに押し倒した。耳まで赤いセオドアは、息遣いが荒い。甘い吐息を漏らしながらアミィールの甘い蜜を享受する。そして、慣れた手つきでアミィールのドレスに触れた。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

「優秀すぎて鼻につく」と婚約破棄された公爵令嬢は弟殿下に独占される

杓子ねこ
恋愛
公爵令嬢ソフィア・ファビアスは完璧な淑女だった。 婚約者のギルバートよりはるかに優秀なことを隠し、いずれ夫となり国王となるギルバートを立て、常に控えめにふるまっていた。 にもかかわらず、ある日、婚約破棄を宣言される。 「お前が陰で俺を嘲笑っているのはわかっている! お前のような偏屈な女は、婚約破棄だ!」 どうやらギルバートは男爵令嬢エミリーから真実の愛を吹き込まれたらしい。 事を荒立てまいとするソフィアの態度にギルバートは「申し開きもしない」とさらに激昂するが、そこへ第二王子のルイスが現れる。 「では、ソフィア嬢を俺にください」 ルイスはソフィアを抱きしめ、「やっと手に入れた、愛しい人」と囁き始め……? ※ヒーローがだいぶ暗躍します。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

処理中です...