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第31章 『呪い』と戦う主人公

取り乱す皇女

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 「セオ様…………ッ!」


 ダーインスレイヴが去った後、アミィールはすぐさま愛おしい夫の顔を両手で包んだ。熱い、熱すぎる。熱?病気?不治の病?


 錯乱するアミィール。しかし、この戸惑いも当然だった。夫___セオドアは6年共にしてきたけれど、熱どころか風邪ひとつ引かない強い人だった。手洗いうがい、鼻うがい、除菌から何から『そこまで?』と思うほど徹底的に風邪予防をする。理由を聞くと、『アミィや子供たちに風邪を移したくないから』と可愛い笑顔で言っていた。


 なのに、こんなにも今顔が熱いのだ。息遣いも荒い。それだけでわたくしも苦しくなる。涙も出る。やだ、やだ…………セオドア様が居なくなるのは嫌っ!




 「んん、………ママ?」


 「ふぁ~、おっはあ母ちゃん」


 「セラ、アド…………」



 子供達が起きてきてしまった。
 乱れた紅銀の髪、黄金と緑の瞳の娘、セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。
 同じく乱れた群青色の髪、紅と黄金の瞳の息子、アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイスだ。

 2人は双子で、3歳である。
 その2人は目を擦りながら近づいてくる。


 「朝からひどいお顔~どうし………って、父ちゃん?」


 「おかお、真っ赤だよ………?」


 「…………ッ」


 子供たちに不安が広がる。…………だめ、わたくしがここで狼狽したら、子供達が泣いてしまう。

 アミィールはそう思うとすぐさま涙を拭いて、無理に笑顔を作る。


 「パパは、大丈夫ですわ。2人とも、いい子なので…………ッ」


 「ママッ!」

 「母ちゃんッ!」


 胸に代償の痛みを感じて抑え込む。………今は、だめ。ダメなの。耐えなさいわたくし。わたくしまで倒れては、セオドア様も子供たちも悲しんでしまわれる。食いしばれ、………!


 アミィールは胸を抑えながら、再び顔を上げた。



 「だ、いじょうぶ、………パパは、寝ているだけですわ…………ですので、アド、セラ、少しの間だけ、遊んでいてくださいまし」


 「…………ッ、わたくし、あそばない!」

 「俺もだ!父ちゃん!起きろよ!」



 子供達なりに何かを察したのか走って父親に近づく。そして、揺らした。何度も何度も揺らしているけれど、父親は荒い息遣いしか聞かせてくれない。いつもの優しい声も、怒る声も出さなくて、2人はとうとう泣き出した。


 「ひっく、パパぁ、起きてよォ…………」


 「父ちゃん!なあ!俺、お尻出すぞ!ぞうさんも出すぞ!裸になってやるぞ!

 怒ってよ!起きて怒ってよ……!」



 「ッ、セラ、アド………ッ!」



 アミィールはとうとう再び涙を流しながら2人を抱き締めた。家族が泣いている中、医者が部屋に来て___診察が始まった。



 *  *  *




 「……………過労」



 医者が居なくなった後、アミィールはぽつり、呟いた。診断は『過労による発熱』だった。命に別状はなく、しっかり休むことが大事だと言われ、薬を処方された。

 わたくしも、お父様とお母様に頼み込んで、休みを貰った。愛する御方が倒れて仕事ができるほど、わたくしは大人じゃないようです。


 子供達も、どんなに言っても、『パパが起きるまでは離れない』とベッドの反対側にしがみつき、じっ、とセオドア様を見ています。あの自由奔放なアドラオテルまで泣くとは思っていなくて………セオドア様がどれだけ愛されているのか、思い知らされました。


 ____セオ様、お願い致します。


 ____起きてくださいまし。


 ____『おはよう』と笑ってくださいまし。


 どうか、どうか。


 いつものように様々なお顔を見せてくださいまし_____






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