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第31章 『呪い』と戦う主人公
主人公 の様子がおかしい!▽
しおりを挟む「あら、おかえり」
「____ただいま帰りました」
寝室に戻ってくると、部屋が灰色に染まっていた。これはアルティア皇妃様の時間を止める魔法である。
アルティア皇妃様は『最強生物』と呼ばれる魔法の使い手だ。魔法とは少し違うらしいけれど、こんなふうに『時間』を止めることができるのなら、魔法でいいと思っている。
そう思っている俺の手首に触れた。
アミィール以外に触れられるのは嫌だけれど、この人は無闇に触れている訳では無い。
「____治癒魔法」
「………………」
アルティア皇妃様がそう言うと、俺の手首が淡い緑色に染まっていく。治癒魔法だ。俺のチート能力『治癒血』は、自分の傷は治せない。だからといって俺の身体に傷なんてあったら………アミィールは悲しむだろう。それだけ愛されているんだ、俺は。
けど、寂しい気もする。何もしていない、と振る舞わなければならなくて、『呪いを解くために戦った勲章』が残らないんだ。アミィール達の知らない間に、呪いは解けている、という状況を作ると決めたのに、浅はかな俺は『俺が解放したんだ!』と堂々としたいと思っているんだ。
…………俺は、格好悪いな。
「よし、こんなものかな………って、顔暗いわよ、セオくん」
「ッ」
アルティアは凹んでいるセオドアの頬をむに、と引っ張る。『あら面白い』とむにむにしながら言う。
「あらあらあらあら、一丁前に凹んでるの?子供のくせに?あーら、セオくんは男の子の顔もできるのね~顔はこんなに女の子なのにね~!」
「や、やへてくはさい!」
「あんた、まだ22歳でしょ、世界の終わりみたいな顔して凹まないで頂戴。
やると決めたのでしょう?なら、誇りなさいよ、馬鹿ガキ」
アルティア皇妃様はぶっきらぼうにそう言った。………この人は滅茶苦茶だけど、人の気持ちをわかってくれる、人なんだ。じわ、と涙が滲むと『次は泣くの?忙しないわね』と囀るように笑った。
「まあ、いいわ、それより早く布団に入りなさい」
「…………はい」
セオドアは言われたとおり、灰色の寝室で上着を脱ぎ、アドラオテルの隣に潜り込む。それを見送ってから、アルティアはパチン、と指を鳴らした。
寝室に色が戻っていく。それを見ながら___既に朧気な意識を、手放した。
* * *
「……………ん」
紅銀の長髪、黄金の瞳を持つサクリファイス大帝国皇女、アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスは朝の日差しに目を覚ます。
彼女はヴァリアース大国に留学した際、現在の夫を見初め、熱烈にアプローチをして婚約、結婚を果たし子供を産み落とした22歳の美女である。
……………また、日差しが入っている。
アミィールは目を擦りながら思う。自分は5歳の頃から4時に起き、鍛錬をしてきた。だから、体内時計通りに行けばちゃんと4時に起きるはずなのだ。なのに、最近いつも4時を超えて起きる。まるで、時間が狂っているように…………出産を経て、わたくしの体内時計は壊れてしまったのかしら。
とはいえ、わたくしは『任務』をもうしていない。これからも、有事の際以外はしないと決めている。鍛錬を辞めることはないけれど、気が狂ったように剣を振るわずとも、空き時間にすればよい。
そんなことを思いながら、隣を見る。
隣には可愛い寝顔を見せている娘、その隣には娘と手を繋いでいる息子、そして____?
「は、は……………」
違和感。
愛する夫の呼吸音が、おかしいのだ。
アミィールは額に手を添える。
「____あつ、い…………!」
火が出るくらい熱いのだ、そして苦しそうに顔をゆがめている。アミィールはすぐさま立ち上がり、夫を抱き上げて寝室に続く夫の部屋に行きベッドに寝かし直した。そして、叫ぶ。
「レイヴッ!」
そう叫ぶと、ぱ、と青紫色の髪の黒瞳、コート状の着物を着た男が現れた。レイヴ___ダーインスレイヴ、というのはこのサクリファイス大帝国皇族専用の魔剣で幽霊だ。
ダーインスレイヴは欠伸をしながら言う。
「ふぁあ、なんだよ、まだ朝っぱらじゃねえか」
「はやく、はやく医者を呼びなさい!」
「なんでだ___って、セオドア!顔赤くないか!?」
「わかっているなら早く呼んでッ!わたくしを苛立たせないでッ!」
アミィールは理不尽に怒る。普段の淑やかさなどすっかり忘れて、感情のままに怒鳴った。その姿は鬼のようで、ダーインスレイヴは少し後ずさってからふ、と消えた。
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