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第30章 巡る巡る夏の夜
花火のような奴だから
しおりを挟む「…………………はあ」
サクリファイス大帝国皇城にて、ラフェエルは溜息をついていた。理由は_____
「ぐがーぐごー!」
この色気もクソもない鼾を立てて寝ている妻であり妃のアルティアが自分の膝の上に頭を置いて寝ているからだ。
ある日突然『はなびたいかい』をやりたい!と騒ぎ出し、国民達に勝手に指示、私になんの意見も通さず義理の息子のセオドアと聖女のフランと勝手に準備を進めて、挙句の果てにはこの動きづらい簡素な服を着せられはなび、を上げる手伝いをさせられた。
小さなものとはいえ365回も火魔法を使わされたのだ。アルティアと共に黙々と火をつける作業は皇帝のやることではない。
とはいえ、楽しくなかった訳でもないのが腹立たしいのだ。はなび、というのは夜空に色のついた火薬を飛ばして打ち上げるというもので、見事に花を咲かせていた。見ていて悪いものでは無い。
ガロやリーブが交互にアミィール達の護衛をしつつ報告しに来た。国民達は祭りを楽しみ、花火を楽しそうに見ていた、と。2人は嘘もお世辞も言わない。事実なのだろう。これを行事にするのは有りだと私は判断した。それはいい。
問題はこのアルティアだ。
365回目の花火を打ち上げ終わったらすぐに倒れた。代償か?と思ったが大いびきをかいて馬鹿面で寝ているのだから寝不足だったのだろう。
私と閨を共にしているというのに終わったらさっさと机に向かっていた。注意はしたがこの女は1度決めたらやり遂げるまでやり続ける。加減というものを知らぬのだ。
だからこれが終わったら私の相手をしろ、と言うつもりだったが___本人は呑気に夢心地だ。
皇帝であり夫をこき使うだけこき使って自分は寝るんだぞ?私を理不尽だと言うが、この女も大概ではないか。
「____こんな女になぜ私は惚れたのだろう」
ラフェエルはぽつり、言葉を漏らす。
本当に疑問である。こんなにも腹立たしく、こんなにも不愉快で、こんなにも苛立つというのに。
____この女以外、愛せないのだ。
はなびを見ながら、思った。
このはなびはアルティアだと。
煌びやかに光るだけ光って無責任に消えゆく。
20年前もそうだった。私を置いて死んだ。私の気持ちなど聞かず、自分勝手に死んだのだ。
それは未だに許していない。
許していないからこそ____いつもそばに置いている。
消えないように。光を失わないように。
勝手に消えるなど許さない。
勝手に燃え尽きるなど許さない。
____俺を置いて、1人だけ何処かに行かせることなどできない。
生意気で馬鹿で色気がなくて理不尽なこの女を愛してしまった。ならば、この女を縛り付けるのは私だけだ。この女の光に触れていいのは私だけだ。
セオドア____自分の義息は美しい愛だ。私の娘を想い、尊重し、他のものにも優しくして…………清らかな愛だと認識している。
それと比べて私の愛は醜い。
相手のことなど考えない。尊重などしない。この女以外どうでもいいと思うし逆にこの女に狂おしい愛を抱いている。
それが家族というのだから、面白い。
交じり合うことなどできぬというのに嫌いになれぬのだ。不思議な物だ、人の縁とは………………
「…………ラフェー…………」
不意に、アルティアの声がした。
考えるのをやめて下を向くと目を閉じている。………大方、いつもの寝言だろう。
ラフェエルが黙っていると、アルティアは頬を緩めて言った。
「今度は………一緒に…………夏祭り、いこ………街歩いて、買い食いして、花火見て、………そしたら、『愛してる』って、不意打ちでいうから………ふふふ」
「…………………」
幸せそうに笑うアルティア。
…………思っている事を簡単に言うなと何度言えばわかるんだ?寝言でも本音が漏れるのだから相当だ。
そう思うラフェエルの顔は___とても穏やかで。
「______来年、共に行こう」
そう呟いて、寝ているアルティアに唇を重ねた。
来年が、ほんの少し待ち遠しくなった夏の夜。
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