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第30章 巡る巡る夏の夜
貴方と月日は花火と同じ
しおりを挟むそろそろ花火の始まる時間。
俺達は出店街道を抜け人気の少ない、以前デートで来たひまわり畑に来た…………のだが。
「ぐがー」
「すう…………」
「………………」
セオドアは自分の膝を見て、呆れる。
はしゃぎにはしゃいだ子供達は、すっかり夢の中に入ってしまった。沢山食べて沢山遊んで疲れたのだろう。これは起こした方がいいのだろうか?きっとこれ起こさなければ後から『なんで起こさなかったの~!』って泣かれたり怒られたりする。
とはいえ、こんな可愛い寝顔をして眠る子供達を無理には起こせない。
「…………ふふ、よく寝ていますね、セオ様」
「ああ。………まったく、花火が始まる前だというのに」
「仕方ないですわ。子供達はほとんど初めて自分で街を歩いたのですから。疲れちゃいますよね」
アミィールはそう言って子供達の頬を撫でる。…………人気がないからか、暗いからか、ほんの少しだけ、………子供達に嫉妬した。
「…………いいな、アドとセラは」
「え?」
「寝ても………こうしてアミィに顔を撫でてもらえるのだから」
「!…………ふふふ」
アミィールはセオドアの言葉に一瞬目を見開いてから、すぐに笑顔をこぼして、セオドアに近づいた。肩に頭を乗せ、歌うように言葉を紡ぐ。
「_____わたくしは、実はセオ様が寝ている時、いつも触れて、キスをしてますよ」
「………ッ!」
甘い声、微かにりんご飴の匂いがする。耳がじんわり熱くなる。これは夏のせいじゃない。確実に___アミィールのせいだ。
アミィールはぽつり、ぽつりと続ける。
「結婚して、毎日………朝起きる時に必ずセオ様に触れ、キスをするのです。2日に1回はわたくしの印を首筋に付けます。
で、寝る前もセオ様に触れて、キスをして、自分の印がちゃんとあるか指でなぞったり………わたくし、気持ち悪いくらい、寝ているセオ様に悪戯、してますよ?」
「………アミィ」
だめだ、今、猛烈に愛おしさを感じた。
キスがしたい。触れたい。『ありがとう』を込めて、全てのことをしたい。
22歳、大人になったと思った自分は大人ではなくて。
「アミィ、………ごめん、外だけど___貴方に触れたい」
「………わたくしもです、セオ様。謝らないで、謝る代わりにわたくしと___!」
そう言いあい、唇を重ねようとした時___大きな音と共に、大きな花が、空に咲いた。2人の顔が照らし出される。どちらも赤く染った顔。熱の篭った視線。アミィールは突然の音に、空を見上げた。
沢山の花が大きな音と共に咲いては名残惜しげに消えてゆく。それを見てアミィールはぽつり、声を漏らした。
「_____すごい。空に、花が咲いてます」
「これが___花火だよ」
「美しく、力強く、綺麗で…………儚いもの、ですのね」
アミィールは消えていく花火を見ながら、そう漏らした。
……………そうだよ。貴方にそっくりなんだ。美しく、力強く、綺麗。そして…………どこか、消えてしまいそうな儚さがある。
花火は好きだ。けど。
___花火が消える瞬間は、寂しいんだ。
その言葉を、セオドアは飲み込んだ。
言ったら本当に、アミィールが消えてしまいそうだから。
そんなの、絶対嫌だ。
花火が終わったら、夢が覚めたように貴方がいなくなるかもしれない、そんなありえない妄想をして、勝手に悲しくなる俺は本当にどうしようもない。
「んん、……うるさ………!花だ!」
「セラうるさ………はなびー!」
そんな花火の音に起きた子供達は眠そうな顔を一瞬で輝かせて笑った。俺の膝から飛び降りからんころんと下駄を鳴らしながら花火を見上げ、ひまわり畑を走る。
______嗚呼、違う。
とても、幻想的で素晴らしい世界だ。夢のようだ。
けれど。
これは____夢じゃない。
現実なんだ。アミィールが居て、俺がいて、子供達が居て。ここは夢なんかじゃない。
花火のようにいつか消えてしまうかもしれない。
怖いさ、どうしようもなく。けれど。
消えてしまうと無闇に怖がって、『今』を楽しめないのは____もっと怖いんだ。
「アミィ」
「……………セオ様」
セオドアとアミィールは肩を寄せ合う。
少女漫画のように『貴方の方が綺麗だ』なんて安いセリフを言おうとしたけれど、やめた。
花火は貴方、貴方は花火。
どちらが優れているなんてない。
俺にとっての花火は____貴方だから。
それを独り占めしたいんだ。
_____花火は、沢山咲き誇った。
365回。1年分の花火達はどれもこれも綺麗で、とても早く打ち上がった。
本当に月日のように、綺麗な時間は過ぎていく。
だから。
一日一日を大事に過ごそう。
_____そう、思ったんだ。
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