433 / 469
第29章 主人公の裏設定
揺れる皇女
しおりを挟むアミィールは目を伏せて、震える。
スカイはそれを見ながら静かに言う。
『____アルティアには前から言っていたんだ。ファーマメント王国のオーファン家かもしれない、と。
あの適当な女は真に受けてなかったけれど。それはともかく。
我がこの妖精神という座に着いて5万年_____何人か、同じような力を持った大天使は、居た。
しかし…………話を聞いている限りセオドアの場合はその歴代よりもさらに強い治癒の力を宿している』
「____ッ」
アミィールの美しい顔が歪む。
サクリファイス大帝国で保護している。傍に自分がいる。自分だけではなく『最強生物』と『世界で1番有力者』もいる。なのに。それでも…………不安なのだ。
愛する御方は優しすぎる。何かあればその力を惜しみなく使うだろう。それを知られては____争いの種になる。
愛おしい御方が原因で戦争が起きるのは心底嫌だ。………そして、わたくしもそうなったら再び剣を握るだろう。子供達など抱けないくらい血にまみれるだろう。
そこまで想像して____悲しくなった。
「その血は…………その力は、無くすことができないのでしょうか………?」
『無くせないさ。あの血はセオドアの身体が、魂が作り出すもの。力をなくした時___セオドアは崩壊しているだろう』
「ッ、う…………」
とうとう、アミィールの瞳から涙が零れた。スカイは更に絶望を与えるようなことを述べる。
「その力は___娘に、受け継がれてしまったようだ」
「…………!セラにその血が………?」
スカイは小さく頷いた。そして、静かに、諭すように言う。
『そうだ。…………契約をした時、感じた。オーファン家の血を、その中でも特殊な血…………色濃い"大天使の血"が………娘には宿っている。その血はいまこそ父親に劣るが………歳を追えば強力なものになるだろう』
「そんなっ………では……そんなの、あんまりじゃないですかっ………」
『しかし、悪いことばかりじゃない。……………その血があるおかげで、お前の血脈の代償の回数は減るだろう。どうしても昂ってしまったり、呪いの効果が発現しない限りはまず無事だと言ってもいい』
それのどこが無事なのですかっ!と叫びたかった。つまり、セラフィールが発作を起こすということは死ぬほど辛い時だけになる。そうなれば___死んでしまう可能性だって。
「ッ、いや………いやよ、そんなの、いやだ…………!
何故、なぜ…………!」
アミィールはとうとう泣き崩れた。譫言のように『何故』を繰り返し、啜り泣く。
_____わたくしは、ただセオドア様を愛しているだけなのに。
_____わたくしは、ただ子供達と幸せに生きたいだけなのに。
なぜ、何故ですか。
何故セオドア様は大天使なのですか。
何故セオドア様はその中でも色濃く血を受け継いだのですか。
何故わたくしはセオドアに出会ってしまったのですか。
何故わたくしはセオドア様を愛してしまったのですか。
_____神、貴方を恨みます。
幸せな分、楽しい分、嬉しい分。
それと同じくらい、いや、それ以上に貴方を心の底から軽蔑します。
わたくしとセオドア様をどうして出会わせたのですか。
わたくしが『穢れた血』の持ち主で、セオドア様は『清らかな血』の持ち主で。
この出会いを運命だと?ふざけないで!
わたくしのような醜い女ではなくあの御方に相応しい綺麗な、美しい女はごまんと居たでしょう。
何故あの御方にばかり辛い思いをさせるのですか。…………何故あの御方はこれを知ってもなお、わたくしを愛してくれるのですか。
なぜ、わたくしはそこまで知っていて____彼から、離れることができないのですか?
冷静に判断するべきだ。今彼は22歳。まだまだこれから。子供達を引き取り、彼にわたくしよりも美しく、清らかで、彼に見合う誰かを…………
「嫌だ、いやだ……………わたくしは、嫌だ………ッ」
考えるよりに否定の言葉が出た。
____どうしようもなく醜くはしたないわたくしは、もうセオドア様のいない世界を描けなくなってしまった。
わたくしの世界は____セオドア様が隣にいる世界なのだ。
アミィールはずっと泣いていた。
スカイは無表情の顔を崩して、そんな哀れな女を………抱き締めていた。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!


異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる