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第23章 愛する息子と娘よ

主人公の愛娘

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 セラフィール・リヴ・レドルド・サクリファイス。

 サクリファイス皇族特有の紅銀色の髪を持ち、きらびやかな黄金とエメラルドのような緑の瞳が大きい女の子だ。


 アドラオテルと違い、内向的で消極的、ほんの少し怖がりだけれど決して泣かないいい子だ。魔法が得意で、よくぬいぐるみを動かしていることから、お腹の中にいた時に見たピンク色の光はこの子だったと思っている。


 笑うと花のように可愛くて、愛らしく、俺の作った可愛い服を着こなすのだ。それだけでもう可愛い。可愛いしか言えない。

 とはいえ、この子もアドラオテルとの双子。『悪戯』を全くしないわけではなく。



 「きゃー!」


 「あ、セラ!」


 セラは作ったパウンドケーキを全て浮遊魔法で浮かせた。クルクルとパウンドケーキを空中で踊らせ、自分もクルクルと回る。そのまま窓まで行き、窓の外にパウンドケーキを放り出し始めた。



 「セラ、だめだよ、それは___「きゃー!スイーツ皇子様のお菓子だわ!」………う」


 運悪く、外を歩いていた侍女の手にパウンドケーキが渡ってしまったらしい。その黄色い声を聞きつけた従者達がわらわらと集まってきた。セラフィールも喜んで皆に向かって投げている。



 ………………この『悪戯』は絶対アルティア皇妃に似てしまったな……………


 セオドアは頭を抱えつつも、集まってきた従者達にパウンドケーキを渡し、もう一度作り直す羽目になったのだった。






 *  *  *




 「セラ、庭園だよ」


 「きゃー!」


 そんな『悪戯』をするセラフィールの好きな場所は庭園だ。休憩がてら連れてきてあげると声を上げて喜ぶ。すぐさま俺の腕から文字通り飛び離れて、咲き乱れる花々の上をくるくると回る。


 花とセラフィールが一緒だと、セラフィールが花の精に見える……………可愛い………写真を取りたいなあ。


 そんなことを思いながら、俺は趣味の雑草抜きをする。可愛い娘が花と戯れているあいだ手持ち無沙汰になるなら雑草を抜く方が有意義だと思って率先してやっているおかげで殆どの雑草がない。花もすくすくと成長するから吉のループだ。



 「うう?」


 「セラ?どうしたの?」



 不意に、セラフィールが俺の元に戻ってきた。そして、俺の手元をジッと見ている。………泥でもついていたかな…………


 そんなことを思い手元を見ていると、小さな手が俺の手の近くにあった雑草を掴んだ。


 「うう~!」



 プルプルと震えながらそれを抜こうとするが、3ヶ月の子供というのはか弱い。全く抜けない雑草にじわり、と涙を浮かべるセラフィールに思わず笑みが零れた。


 「ふふっ、大きくなったら一緒にやろうね、セラ」


 「うう………」


 頭を優しく撫でて上げると不満そうに唇を尖らせた。本当に可愛い娘です。





 *  *  *




 「…………………」



 「うーうー」



 暫く庭園で遊んでから、俺の部屋に戻ってくると、セラフィールは沢山の本を空中に浮かせて一つ一つ広げている。絵本ではない、"サクリファイス大帝国の歴史"に関する難しい本を、だ。


 もちろん父親としては子供らしく絵本を読んで欲しいのだが、セラフィールはとても賢い子供で、もう絵本じゃ満足出来ないのだ。この前も寝る前に本を読んであげようとしたら『魔法と魔力』という分厚い本を押し付けてきた。本当に理解出来ているのかは謎だけど、子供が手に取る本ではなくて…………なんというか、そういう所はアミィール様に似たんだな、と思った。






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