295 / 469
第20章 SweetでBitterな日常
執事の恋愛事情
しおりを挟む「………………」
セオドアは無言で手袋を編みながら自室に居る執事・レイを観察していた。
レイは俺の作った物を片付けながら鼻歌を歌っている。主人の前で鼻歌を歌うのはどうか?と思うだろうが、レイは執事の前に俺の友達でよき理解者だ。だからそれはいい。俺が気になっているのはそこではない。
上機嫌なレイの顔には___大きな絆創膏のような物が貼られているのだ。それだけじゃない、瞼の上も内出血ができている。見ているだけで痛いそれらがあるのに、レイが上機嫌なのか不思議でならなかった。
「…………なあ、レイ」
「なんだ?セオドア」
「その、顔の傷…………」
意を決して聞いてみた。いや、聞かざるを得なかった。俺は堪え性がないんだ。友達が傷ついているのなら声をかけるのは当たり前だろう?
けれど、レイの笑顔が崩れることは無い。『ああ、これか』なんて明るい声を出した。
「まあ、お前には関係ないよ」
「関係ある。お前は俺の執事だろう?」
「執事だからこそ私事を言わないんだよ」
「…………そうか、わかった。その傷、女にやられたんだろう」
セオドアはいつものお返しと言わんばかりに意地悪な顔を作った。いつも茶化してくる仕返しだ。
レイは言いたくはないがモテる。金髪のツンツン頭に茶色の瞳、俺なんかより男らしい顔をしていて身体も逞しい。そして女の子が大好きだから手当り次第声をかけるし大切な人としかしてはいけないようなことをする。その考え方こそ理解できないけれど、それはレイの勝手で、女性が納得しているなら突っ込むことは無い。
とにかく、コイツが上機嫌なのは十中八九女絡みなのだ。現にレイは『よくわかったな』なんて言って笑っている。
「まあ、女ではあるな」
「無理矢理襲って殴られた………そうだろう?」
「そんなクソみたいなこと俺はしないさ。紳士なんだからよ」
「よく言うよ、で、相手は誰だ?娼婦か?」
「いいや、エンダー」
「…………はい?」
思わず、持っていた編みかけの手袋を落とした。セオドアは少し震えながら、もう一度聞く。
「…………だ、誰だって………?」
「エンダーだって」
「……………」
……………エンダーというのは、俺の妻であるアミィール様の専属侍女である。先日サキュバスだと聞いた。レイも何かある事に『未だに落とせてないのはエンダーだけだ』と言っている。そのエンダーに傷つけられた、と笑顔でいうのだから驚いたのだ。レイは言う。
「エンダーがな、『わたくしに勝てたらお付き合いしましょう』と言ったんだ。そしたら強い強い、俺ですら勝てないんだぞ?凄くないか?」
「……………」
レイはこう笑っているが、大事件である。この執事は執事でありながらオーファン家に仕える従者の中で一際強い。ヴァリアース大国の騎士団長である兄・セフィアと互角に戦えるほどの器量があり、俺は今まで此奴に勝てたことがない。今やればいい勝負ができるか……?とぼんやり思うくらい強いんだ。
だから、困惑した。
そのレイがやられるってどんだけ強いんだ………?
それもあるけれど、ここまでボコボコにされても笑顔で居られるのだからさらに謎である。女性にここまでやられたら普通の男なら怒るなりするだろう?なのに幸せそうなんだよ。今まで女の子に声をかけていたが、こんな顔は見たことがない。それが『この思いは本物なんだ』と思わせた。
レイは何度も言うが大事な友達だ。幸せになって欲しい。俺の世話ばかりではなく自分の幸せを掴んで欲しい。
お節介なセオドアは、『後でエンダーにそれとなく聞いてみよう』と密かに思った。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!
お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……
木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。
恋人を作ろう!と。
そして、お金を恵んでもらおう!と。
ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。
捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?
聞けば、王子にも事情があるみたい!
それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!
まさかの狙いは私だった⁉︎
ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。
※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる