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第20章 SweetでBitterな日常
執事の恋愛事情
しおりを挟む「………………」
セオドアは無言で手袋を編みながら自室に居る執事・レイを観察していた。
レイは俺の作った物を片付けながら鼻歌を歌っている。主人の前で鼻歌を歌うのはどうか?と思うだろうが、レイは執事の前に俺の友達でよき理解者だ。だからそれはいい。俺が気になっているのはそこではない。
上機嫌なレイの顔には___大きな絆創膏のような物が貼られているのだ。それだけじゃない、瞼の上も内出血ができている。見ているだけで痛いそれらがあるのに、レイが上機嫌なのか不思議でならなかった。
「…………なあ、レイ」
「なんだ?セオドア」
「その、顔の傷…………」
意を決して聞いてみた。いや、聞かざるを得なかった。俺は堪え性がないんだ。友達が傷ついているのなら声をかけるのは当たり前だろう?
けれど、レイの笑顔が崩れることは無い。『ああ、これか』なんて明るい声を出した。
「まあ、お前には関係ないよ」
「関係ある。お前は俺の執事だろう?」
「執事だからこそ私事を言わないんだよ」
「…………そうか、わかった。その傷、女にやられたんだろう」
セオドアはいつものお返しと言わんばかりに意地悪な顔を作った。いつも茶化してくる仕返しだ。
レイは言いたくはないがモテる。金髪のツンツン頭に茶色の瞳、俺なんかより男らしい顔をしていて身体も逞しい。そして女の子が大好きだから手当り次第声をかけるし大切な人としかしてはいけないようなことをする。その考え方こそ理解できないけれど、それはレイの勝手で、女性が納得しているなら突っ込むことは無い。
とにかく、コイツが上機嫌なのは十中八九女絡みなのだ。現にレイは『よくわかったな』なんて言って笑っている。
「まあ、女ではあるな」
「無理矢理襲って殴られた………そうだろう?」
「そんなクソみたいなこと俺はしないさ。紳士なんだからよ」
「よく言うよ、で、相手は誰だ?娼婦か?」
「いいや、エンダー」
「…………はい?」
思わず、持っていた編みかけの手袋を落とした。セオドアは少し震えながら、もう一度聞く。
「…………だ、誰だって………?」
「エンダーだって」
「……………」
……………エンダーというのは、俺の妻であるアミィール様の専属侍女である。先日サキュバスだと聞いた。レイも何かある事に『未だに落とせてないのはエンダーだけだ』と言っている。そのエンダーに傷つけられた、と笑顔でいうのだから驚いたのだ。レイは言う。
「エンダーがな、『わたくしに勝てたらお付き合いしましょう』と言ったんだ。そしたら強い強い、俺ですら勝てないんだぞ?凄くないか?」
「……………」
レイはこう笑っているが、大事件である。この執事は執事でありながらオーファン家に仕える従者の中で一際強い。ヴァリアース大国の騎士団長である兄・セフィアと互角に戦えるほどの器量があり、俺は今まで此奴に勝てたことがない。今やればいい勝負ができるか……?とぼんやり思うくらい強いんだ。
だから、困惑した。
そのレイがやられるってどんだけ強いんだ………?
それもあるけれど、ここまでボコボコにされても笑顔で居られるのだからさらに謎である。女性にここまでやられたら普通の男なら怒るなりするだろう?なのに幸せそうなんだよ。今まで女の子に声をかけていたが、こんな顔は見たことがない。それが『この思いは本物なんだ』と思わせた。
レイは何度も言うが大事な友達だ。幸せになって欲しい。俺の世話ばかりではなく自分の幸せを掴んで欲しい。
お節介なセオドアは、『後でエンダーにそれとなく聞いてみよう』と密かに思った。
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