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第19章 父親(仮)、奮闘する

貴方の子供だからこそ

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 「セオ様、ただいま戻りまし____………」

 「すう…………」



 セオドアの部屋に来たアミィールはそこまで言って口を噤んだ。何故なら愛しい御方が珍しくお昼寝をしていたからだ。執務を抜け出し約束をせずこっそり来たのだから仕方がない。


 しかし、いつも忙しなく動いているセオドアが昼寝をしているのは珍しく、アミィールは足音を立てないようにそっ、と静かにベッドに近づく。



 群青色の短髪、長いまつ毛、すらりとした鼻、僅かに開いた口____3年前よりも男らしくなったお顔の愛おしい御方。

 不思議なことに、このお顔を毎日見ても飽きないのです。毎日毎日共に居ても新たな一面があったり、顔を赤らめたと思えば笑みを浮かべたり、涙ぐんだり…………沢山沢山見ているはずなのに、それでも見れば心が踊ったり、悲しくなったり、嬉しくなったり…………わたくしに様々な感情を教えてくれるのです。



 「____セオ様」


 「ん…………」



 アミィールが顔に手を置くと、猫のようにすり、と顔を擦り寄せる。


 ___最近、頑張りすぎです、貴方は。
 わたくしも子供達が出来て嬉しい。けれども、それ以上に……貴方が必死に動いているのが嬉しく、心配なのです。


 わたくしのためを思って動いてくれているのは伝わっている。まだ見ぬ子供たちに愛情を注ごうとしているのさえわかっている。けれど、この愛おしい御方はわかっていない。


 わたくしが子供達を産みたいのは____この御方の子供だからです。この御方とわたくしが愛し合ったという証を醜くもはしたなくも後世に残したい、その気持ちが強いから故に悪阻も身体の怠さも耐えられるのです。


 けれど、そんなわたくしを心配しすぎて貴方が倒れて、万が一何かがあったらと思うと____怖いのです。


 貴方と子供達のどちらかを捨てろ、と言われたら、わたくしは迷わず子供達を選んでしまうでしょう。……母親としては失格なのです。



 でも、そればかりではなく。
 子供達が産まれたら、どんなお顔をしているのかは気になります。セオドア様のように端正な顔立ちをしているのでしょう。お優しい性格をしているのでしょう。わたくしはこの子達に早く会ってみたい。触れて、抱き締めて、…………セオドア様と、笑顔でその子達に愛情を注いでいい子に育てたい。




 ___人殺しのわたくしが、人を育てるなんて、滑稽なのかもしれません。


 けれど。


 …………それだけ、わたくしの心も身体もこの御方ばかりなのです。わたくしの身体で悩むよりも、セオドア様のお身体の心配をしたり、子供達の発育の心配をしたりする方が幸せで、そればかりになってしまう。


 わたくしはセオドア様に触れながら、ちら、と最近部屋に置くようになった大きなピアノを見る。


『胎教だよ』と笑顔で様々な曲を弾いてくれるのです。その音色は美しく、パーティなどで流れるよりも優しく、心が弾む音を奏でてくれます。


 …………ここまで愛されている子供達が羨ましく思ったりするのは、誰にも言えない秘密です。醜くも子供達に嫉妬するわたくしをどうかお許しくださいませ。



 「………アミィ………」


 「セオ様、起きましたか?」


 突然、声をかけられ返事をするが依然緑の瞳が向けられることはありません。起きる様子がないのに、口だけを動かす。



 「アミィと俺の子供達………俺、守る…………アミィと子供達を、みんなまとめて___守る、から」



 「…………セオ様」


 ____貴方の夢にまで、わたくし達は居るのですね。


 アミィールはそれを聞いてふわり、笑みを浮かべて寝ているセオドアに覆い被さる。



 「どうか、そうしてくださいまし。わたくしも貴方を____お守りしますので」



 そう一人呟いて、セオドアの唇に自分のそれを重ねた。



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