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第15章 主人公と兄

兄の忠告

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 「____当たり前です。
 アミィール様がどんな御方なのかは私が1番よく知っています。2年も想い続けたのです。

 …………もう、アミィール様のいない生活など、アミィール様のいない人生など考えられません。


 アミィール様は私の傍に、私はアミィール様の傍に………これは譲れません。私が私でいる為には、アミィール様が居なければならないのです」



 弟・セオドアが男らしい顔でそう述べた。


 …………どんな御方か知っている、か。でもこの様子じゃ、アミィール様が『任務』をしていることを知らないのだろう。


 この弟は、何も知らず生きているんだ。

 それを言わないとアミィール様はお決めになったんだ。


 …………私が口を出してその気持ちを無下にするのはよくない。わかっている。けれど………あまりにもアミィール様が不憫で、あまりにもアミィール様が悲しいではないか。


 ぐ、とセフィアは顔を顰めた。セオドアはちゃんとそれを見ていて………知ってしまった。



 兄上は何かを隠そうとしている。…………アミィール様のように、隠そうとしているんだ。


 一緒だ。


 アミィール様が『自分は穢れている』と泣く時のような、そんな雰囲気を感じて。感じたらさ、我慢なんて出来なくて。



 セオドアはゆっくりセフィアに詰め寄る。夜だから静かな声で、だけどしっかり言葉にして。



 「兄上、どうかお願いします。___私に、隠していることをお教えください。


 アミィール様の『穢れ』とはなんなんでしょう」


 「…………!」


 兄上の表情は固まった。説明していないのに『穢れ』という言葉だけでこんな顔をするんだ。………俺が知らないことを知っているんだ。


 そう思うと、心に暗い影を落とす。暗くなる気持ちで、今すぐアミィール様を抱き締めたい気持ちをぐ、と抑える。


 セフィアは最初こそ固まっていたけれど…………すぐに、セオドアと向かい合い、重い声で言った。



 「____お前は、お前だけは何も知るな」


 「なんでですか!私は、アミィール様の「夫だから、アミィール様がお前を愛しているから聞くな、と言っているんだ」…………?」


 兄上は俺の両肩を掴んで、懇願するように言う。

 「アミィール様の御手は、『穢れている』。どうしようも無いことで、もう引き返せないんだ。

 だが、だが____その『穢れ』を知らない人間が、アミィール様にとってどれだけ幸せに感じると思う?どれだけ安心できると思う?


 アミィール様の愛するお前だから___尚更知ってはならないんだ。


 お前はアミィール様の涙を見たくないと言うのなら、絶対知るな。…………お前だけは変わらないでくれ、頼む」



 「……………ッ」



 そう言った兄上の目には___珍しく、涙があった。そんなに、そんなに重いことなのか?それを俺は知ってはならないのか?………何故、アミィール様は言ってくれないんだ。


 俺は____そんなに頼りないのか?


 涙を流すセフィアとその思いに苛まれ涙を滲ませるセオドアは、月の下で静かに泣いた。



 *  *  *



 「じゃあ、セオ、よろしく頼むな」


 「…………はい」


 俺はしばらく泣いてからその言葉を受けて部屋の中にはいった。………苦い気持ちがする。口の中もカラカラで苦い。


 苦い、苦い。


 アミィール様の秘密を俺は知らされなかった。知りたかったさ。無理矢理聞き出そうと詰め寄ったさ。けど、兄上は一言も言ってくれなかった。まるで、俺が知ったらアミィール様と共にいられない、みたいな言い方で。


 「_____クソ」


 また、自分の無力さに毒を吐いた。
 愛する人のことを全て知りたいのは当たり前だろう?愛する人が悲しんでいたらなにかしたいだろう?でも、無力な俺は何も出来ないんだ。何も知らない俺はアミィール様に幸せを貰うことしか出来ないんだ。


 ヒモのような男だ。本当に自分に嫌気が____「セオ様ッ!」………!



 「わっ」



 そんなことを考えながら、寝室の扉を開けると____それと同時に紅銀の髪の愛おしい御方が裸で抱き着いてきた。









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