187 / 469
第13章 主人公と擬似育児
愛される赤ん坊
しおりを挟む「ぶぅー!」
ヨウが来て四日目。
ヨウは鍛錬場に設置されたベビーベッドでバタバタと暴れている。
「ヨウくん!」
それに気づいたセオドアは剣を投げ捨て上半身裸のまま、ヨウを抱き上げる。
いくら子供を預かっているとはいえ、仕事も教育も疎かにしない。それら全ては愛しのアミィール様と愛しの家族、愛しいこの国を守る使命は全うしなければならない。
とはいえ。
「ぶー!ぶー!」
「はは、そんなに頬を膨らませないでおくれ」
セオドアは優しくふぐのように頬を膨らませるヨウを撫でる。
……………最初こそ、どこに行くにも怯え、どんな人にも怯えていたこの子は、どうやら年相応に甘えたがりらしく。10分に1度はこうして『ぶー!』と俺を呼ぶ。それは愛らしいのだが…………
「セオドア様、鍛錬の途中ですよ?」
「う…………」
ガロは申し訳なさそうにそう言って近づいてくる。………そうなのだ、仕事ややることは一向に進まないのだ。これも仕方ないことなのだが…………
言われてシュン、とするセオドアを他所に、ガロはくすくすと笑ってヨウの頭を撫でた。
「ですが、こんなに愛らしい子供に呼ばれては、手も止まりますね」
「す、すみません………」
「いいのです、注意は形式的なものなので。ねえ、ヨウ様」
「キャッキャ!」
…………四日居て、ヨウは沢山笑うようになった。このとおり、ガロに撫でられても_正確に言うとリーブとラフェエル皇帝様、アルティア皇妃様、ガロ、俺、アミィール様だけなのだが_素直に撫でられるのだ。
小さい子供というのは繊細で壊れやすいが、ちゃんと愛情を持って接すれば短時間でも顔つきは変わる。今は少しずつレイやエンダー、他の従者が近づいても威嚇はしない。
少しずつ、けど早く変わっていくヨウが我が子のように可愛い。
そう思っているのは俺だけではなく。
「セオドア様」
「あ、リーブ様、どうなさいました?」
そんなことを考えていると、ラフェエル皇帝様の側近・リーブが来た。その手には___赤ん坊が遊ぶガラガラ。
「それは?」
「ラフェエル皇帝様が準備した物でございます。『鍛錬の間や執務中はこれで遊ばせろ』と、言伝を頂いております」
「あ、ありがとうございます…………」
ラフェエル皇帝様直々にこのようなプレゼントを頂ける。だがしかし、これは初めてではなく………
セオドアは玩具を受け取ってから、ちらりとベビーベッドを見る。ベッドには…………たくさんの玩具が。これら全てラフェエル皇帝様からのプレゼントである。一日に3回はこのようにプレゼントを与えるという溺愛ぶりだ。
なんというか、ヨウは凄いな?というか………
セオドアは苦笑いしながらそれを受け取り、『はい、どうぞ』とヨウに手渡す。
「うきゃーっ!」
「いた、いたた」
ヨウはそれを受け取るなり目を輝かせながら振り回して遊ぶ。そのダメージが俺にも来る。…………愛おしい痛みだから全然いい。むしろ、幸せだな。
セオドアはガラガラが顔面に当たっても顔を弛めていた。
* * *
もちろん、溺愛しているのはラフェエル皇帝様だけではない。
「ヨウちゃ~ん!」
「キャッキャッ!」
「アルティア皇妃様!危のうございます!」
必死に止めるセオドアをよそに、これでもかと言わんばかりに高い高いをしているアルティア。
…………というかもはや空に向かって投げている。ちゃんと浮遊魔法がついているから落ちる心配はないが、それでもそんな乱暴な扱いはいけない。
「アルティア皇妃様!お戯れは………!」
「細かいわね~、性格までアミィールに似なくてもいいものを。
こぉんなに笑顔なんだよ~?」
そう言ってアルティア皇妃様はヨウをキャッチして俺を見る。その顔はこれでもか、というくらいゆるゆるだ。
「ね、セオドアくん、今から城の屋根に行こう!この国を一望させよう!」
「な、い、行けませんって!」
「はーい、強制連行~!___転移魔法」
セオドアに有無を言わせず、アルティアと共に連れていかれたセオドアは、アミィールが助けに来るまで屋根に引っ付いて立てなかったとさ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
71
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる