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第13章 主人公と擬似育児
穢れた女と綺麗な赤ん坊
しおりを挟む_____何故、わたくしは人殺しなのでしょうか。
今ほどこれを感じたことは無い。
今まで殺すだけ殺してきたのに。7歳でこの任務を請け負い、セオドア様と出会うまで人を殺すことになんの躊躇もなかった。いえ、今もないです。
わたくしは穢れている。人の命を大事にすることなどできない。
そんな女が____どうして、尊き命に触れられるのでしょうか。
「…………ッ」
アミィールは下唇を噛む。セオドアに会いたい気持ちを必死に抑えていたら、とうとう唇が切れて血が流れた。
それを指で絡めとり、見る。
赤い血。穢れた血。…………これが憎くてしょうがない。
わたくし、今からこんな気持ちで………………1週間もつのでしょうか?
いえ、それだけじゃない。
御心の美しい、愛おしいセオドア様の御子を抱くことなどできるのでしょうか。____わたくしは、愛する人との御子を抱くことすら許されないのではないか。
心が醜く黒ずんでいく。気持ちが沈んでいく。
わたくしは_____
そこまで考えたところで、コンコン、とノック音がした。アミィールはそれを聞くなりテッシュで血を拭いとり『どうぞ』と素っ気なく言った。
「失礼するよ___アミィ」
「セオ様!…………ッ」
部屋に入ってきたのは、セオドア様だった。わたくしと共にではないとこの部屋に来ない彼が、自ら来てくれたのだ。会いたいと思っていたから嬉しい。
____けれど。
アミィールの顔は引き攣っている。セオドアの腕には赤ん坊がすやすやと寝ているから。
直視出来なくて、嬉しい気持ちを抑えて下を向く。
「____セオ様、申し訳ございません。
わたくしは、執務をしております。
御足労頂いたのは、とても嬉しいですが___「アミィ、こっちを向いておくれ」ッ」
セオドア様の優しいお声。その声だけでわたくしのどす黒い思考が止まっていく。足音が聞こえてくる。近づいてきているんだ。
アミィールは後ろに下がり、顔を背けながら言う。
「わたくしはっ………赤ん坊に見られてはならない人間なのです………だから、そのような貴き命を持って近づくのは、なりません」
「アミィ………………ごめん、アミィの言葉は、聞かないよ」
「なんっ………………!」
セオドア様はあっという間に私の元に来てしまった。下を向けば赤ん坊がいる。だから顔を上げると___セオドア様が唇を重ねてきた。
「ん、ふ…………」
子供を抱いていて、抱き締められていないのに優しく、深いキスはわたくしの気持ちを抱擁するように優しく甘い香りを感じさせた。穢れたわたくしを『そうではないよ』と諭してくれているような、そんなキスだ。
力が抜けて、わたくしは壁寄りかかった。セオドア様の唇が、銀の糸を引いて離れていく。そして、言葉を紡いだ。
「アミィは穢れていないよ。アミィは誰よりも綺麗なんだ。
____見ておくれ、この赤ん坊を。ヨウと言ってね、こんなに可愛らしい顔をしているんだ」
「…………!」
セオドアに優しく言われ、恐る恐る視線を下に向ける。すると、赤ん坊がぱちり、目を開けた。視線があって、アミィールの顔は青くなる。
顔を背けようとするアミィールより早く、セオドアはアミィールの顔付近までヨウを持ち上げた。
黒い瞳は純粋で、少し傷があるけれど____キラキラ輝いていて。わたくしと違う、綺麗な魂……………
「ふへ!」
「ッ!」
赤ん坊はまじまじとわたくしを見てから、その小さな手で顔に触れてきた。小さな、触れたら壊れそうな小さな手が温かくて、涙が出そうになる。
今にも温かい初めての生き物に泣きそうなアミィール。でも、セオドアは喜んでいた。
「すごい!ヨウが暴れずにアミィに触れたよ!この子、私以外の者に身体を触らせないんだ、それなのに、アミィに触れた!
やっぱり、アミィは綺麗なんだよ!」
「…………ッ」
そう言って満面の笑みを浮かべるセオドア様。未だにわたくしの頬に触れる赤ん坊。
わたくし___このような綺麗な手に触れられて、いいの?
「っ、う…………」
「わ、わ、アミィ、………!」
オロオロと慌てるセオドアを他所に、アミィールは泣いた。その涙は勿論悪いものではなく____とても、とても温かいものだった。
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